六百九十一夜、ばあばの洋裁学園生活 279 母の職場復帰 115 その後 81
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、ばあばが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、洋裁学園の頃のことだけれど・・・
近藤さんが大学の正面門付近で、女子学生が男子の学生たちに取り囲まれて、説得なのか勧誘なのかをされているのを見かけてから、まだそんなに日にちが経っていない。それなのに大学構内では、また大きく目立った変化が起きていた。
その日の朝までは、そんなものの影さえも見かけなかったのだ。どこから湧いて出たのか解らないけれど、大学の正門付近に、いきなりたくさんの看板が立ち並ぶようになっていた。
看板と言っても、何かの商品の宣伝看板や、クラブや部活動の勧誘看板ではなかった。それは、学生たちの主義主張を宣伝して、そこに書かれた内容に対して賛同を求める内容だった。そして、その活動を進めるための活動資金としての『カンパ』を求める内容になっていたんだね。
その看板たちは、大学の正門を塞ぐ形に置かれて、激しく自己主張を表現していた。外からの車などはもちろん、学生たちが通用門を潜ることさえも阻止するかのように立ち塞がっている。
近藤さんは、いくら何でもここまでのことを大学側が許すはずがないって思っていた。それは講義を受けに来ている学生たちの多くが感じたことだろうと思う。近藤さん自身の見通しとしては、半日もしないうちに撤去されるだろうって考えていたよ。
確かに近藤さんの予想どおりに、その日のお昼を迎えるころまでには、周辺には看板の姿が見えなくなっていた。大学側の主導で撤去がされたのだろうと思う。近藤さんはある意味ホッとしていた。
看板がきれいに撤去されたこの結果を見れば、この大学では、また、この大学の学生たちの間では、まだ、さすがに常識が通じているのではないだろうか。これ以上の無理が通されることはないのだろうと、その時には胸をなでおろすことが出来ていた。
ところが大学の現実はその先を行くことになったようだった。前回の騒ぎの時に撤去された正門付近では姿を消したのだけれど、今度は置かれる場所を変えて、さらにたくさんの数の看板が立ち並ぶようになった。
「なぜこんなことになっているんだ。」雑然と立ち並ぶ『立看』の行列を眺めて感じた、近藤さんのそれが素直な印象だった。
それからは、撤去しても撤去しても姿を現す看板たちと、大学当局とのいたちごっこの始まりになっていく。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。




