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五十二夜、叔母さん家の日々 4 伝馬船で沖へ

今日は、じいじの番です。

 眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?

 「・・・・・・」

 そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。


 まだ、小学校の頃のことだけれど・・・

 約束の船の話をしようかね。

 叔母さん家にいる時に友達になった人が漁師ではないのだけど、お父さんが船を持っていて、その船に乗せてもらえることになったんだよ。

 その船は、推進機がついてなくて、手漕ぎの和船ていう船だったんだよ。和船っていうのは今のボートみたいなものではなく船の底が平らで、例えば、たらいが前後に長くなって船の形になったっていえば、わかるかな。もちろん、船べりは横に長い板でできているけどね。

 その船の後ろ側、ともに長いが取り付けてある、伝馬船という種類だったよ。たぶん、彼のお父さんは、その船をこいで沖に釣りに行ってたんではないかな。五人くらいは余裕で乗って、釣りを楽しめるくらいの大きさだったよ。

 その船をこぐのはなかなかコツを覚えないとむつかしくて、ただ櫓を構えて前後に動かすだけでは前に進まないんだよ。ちゃんと、前に押すときは手首を反して押し出して、手前に引くときは手首を伏せて引く。船の進行方向に対して横に構えて、船べりのほうを向いて立つんだよ。それで、櫓を両手で持つのだけれど、その櫓には握りが一本ついていて、どちら向きでもいいのだけれど利き手で握りをもって、他で支える。

 右利きの人は進行方向の右側を向いて立ち、右手で握りを握って左手で櫓の柱を持つ。それで前後に動かすと櫓の先が平らになっているので、ちょうどたらい舟の櫓のように進むってわけさ。千〇千尋に出てきたよね。あれは前に櫓がついてたけど、伝馬船は後ろに長いものがついているんだよ。

 そうして、早く進みたいときには速く、ゆっくりでいい時はのんびりと動かせばいいわけ。ただ、早く動かすときに大きく動かすと、船が小さいと大きく揺れるので、面白いやら怖いやら、うまくやらないと即、船酔いになりそうだったよ。

 それで港の中で少し練習して、港の外に出てみたのだけど、すごく気持ちがよくてすっかり虜になったよ。その時は釣り道具なんか持ってなかったけれど好きなところに行けるので、たぶんよく魚が釣れるんじゃないかって思ったよ。

 その日はお天気も良くて波も静かだった。近くの石積みの堤防のところまで行って、帰る頃には風が出てきて、波も強くなってきたよ。ここらあたりはお昼が過ぎると風向きが変わり、沖から陸に向けて風が吹き、波も強くなるって教えてくれた。だから、帰れなくなる前に、港まで帰っていった。帰りは彼のほうが上手くて、船足が早いので、漕いで貰ったよ。

 波が強くなるとなおさら、船の真横から波を受けると転覆するからって、大きく回り込んで港まで帰ったよ。海は、いろんな事が解らないと大変なことになるんだな、って感心して教えてもらってたよ。

 彼と舟に乗ったのはそれ一回だけだった。彼は何も言わなかったけれど、たぶん、お父さんに叱られたんではないかって思ってるよ。海は危ないよ。小学生二人きりではね。


 おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。

後になって気が付いたんですが、船で沖に出たのは、小学生が二人だったんですね。よく無事に帰ってこられましたよね。もう少し風が強かったら、海岸や堤防に、激突、ってことになっていたかも。良かった、良かった。

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