四百八十九夜、ばあばの洋裁学園生活 178 母の職場復帰 14 初日 10
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、ばあばが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、洋裁学園の頃のことだけれど・・・
ばあばはいつものように駅に向かう人たちと連れ立って歩いていく。周りでは、学園で思う存分だべることが出来なかった分を取り戻そうとしているように、たくさんのスズメたちが囀っている。ただ、悪口の時に使われるそこいらのスズメたちと違うのは、色とりどりの服装をしている所だろうか。
学園の授業では、半年が過ぎたくらいではたいしたものが作れるようにはならないところがある。最初は基礎的なことばかりを習うことになるし、型紙を作る際にも必要になる『ボディー』を制作するのが最初の大きな目標になる。
既製服ばかりを制作するのなら、既にある型紙を利用すれば面倒なことはない。そこから一歩だけ踏み出したいと思うならば、やはりこれが必需品となるだろう。型紙を制作したものの、実際に体の上で本当にちゃんときれいにつながるのか、思っていたデザインに仕上げることが出来るのかなど、想像では今一つ分からないところを、仮に着せてみるためにはなくてはならないものだからね。
それで、授業としてばあばたちが最初に作ったのが簡単なスカートだったさ。生地は自分が好みのものを購入してきて制作に使うので、十人十色のスカートが出来上がる。それに合わせて上着を着るために、結果的には色とりどりの『スズメ』が出来上がるっていうわけ。せっかく自分で制作したものだから、身に着けたいっていう気持ちはわかるでしょう?
そんな、時間限定の非常に目立つ『スズメたち』が、群れて駅まで歩いていくのだから、これはもう毎日この時間の恒例行事になっている。(この周りの目が苦手の人は、退校時間を電車一本分だけずらしているけれどね。)
ばあばは『隠れるのならば群れの中』を地で行くように、囀りはしないのだけれど、スズメの中の一羽になって歩いていくことにしている。そしていつものように知り合いや、友達に挨拶をして電車に乗り込んで、窓の外をぼんやりと眺める。
たった一駅だけの電車通学なのだけれど、これから家へ帰るための気持ちの切り替えには大切な時間なんだよね。そして、「また明日~~~」って声をかけて次の駅で降りて、それからは一人で家まで歩いていく。いつもの川沿いの道だ。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。




