四百八十三夜、ばあばの洋裁学園生活 175 母の職場復帰 11 初日 7
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、ばあばが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、洋裁学園の頃のことだけれど・・・
ばあばのお父さんが朝の盆栽の手入れの時に、ぼんやりした不安を感じていたらしいけれど、結局家族のほかの人には話すことがなかった。
お父さんは、朝ご飯を済ませて適当な時間に車で会社に出勤していったさ。その時には(たぶん)愛妻弁当を受け取ったうえでなのだけれどね。
「行ってきま~~す。今日は復帰最初の日だから、適度の緊張感と、会社の人たちに優しくしてあげてくださいね。でも、まあ、あまり肩に力を入れないようにね~~~。帰ってきてからの報告を期待してますよ~~~~。」
「「行ってらっしゃい~~~。」」
それからしばらくしてから、今度はばあばがすこし早めに家を出て、お散歩みたいにして最寄の駅に歩いていく。そこからは、いつものペースで一駅を電車で移動。乗り合わせた知り合いや友達と挨拶を交わしてボンヤリと窓の外を眺める。これもいつものことだけれど、電車に乗っているのもたったの一駅なので、ゆっくり考えごとに浸ることさえできもしない。
いつも煮え切らない気持ちで電車を降りて、改札口から出て学園まで歩いていく。
学園生活を始めてから、半年が過ぎてしまえば、ばあばに限らず誰でもがある程度は見通しが付き始めて、嫌でも余裕が出てくる。ここいら辺からたるみが出て来始める頃になるのだろうか。
同じ学園生でも、やる気に差が出始める頃でもあるから、ばあばにとっても試練の日々が当分続くことになるのだろう。
知り合いや、友達の中には終始変わらずに努力を続けている人がいる。Iさんなんかがその典型なのだけれど、いつもかわらず、スタイル画を書き溜めたスケッチブックを小脇に抱えて、暇を見つけては大きな街まで出かけていく。
最近はスタイル画だけではなくて、街の風景を背景に入れて、スタイル画を際立たせる方法を捜して試行錯誤を繰り返しているようだ。なんだか、本来の目的からは逸脱していっているようにも感じられるのだけれど、ばあばは、長い目で見ていたらきっと役に立っているのではないかって、密かに期待している。Iさんが進む先の世界がどこに繋がっているのか、すごく楽しみなのだけれどね。
こんなふうに、ばあば以外の人たちが、だんだんと自分の独自の世界を持つようになってきているのが、ばあばにとって楽しみでもあり、焦る気持ちに油を注ぐ結果になっているような気がしている。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。




