四百六十六夜、じいじの高校生生活 162 お母さんの家へ 29 到着 2
今日は、じいじの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、高校生の頃のことだけれど・・・
じいじとばあばは、どうやらおかあさんたちの住んでいる家にたどり着いたらしい。一時はどうなることかと思ったのだけれど、ちゃんと教えてもらった通りに歩いてきてよかった。これで、心配になってまた駅まで戻っていたら、まだまだ遅くなってしまっていたかもしれない。それに、途中で変なところから曲がってしまったら、周りに何もない田んぼや畑の中に迷い込んで、ウロウロ歩き回らなくてはならなかったかもしれない。
「は~~~い、今すぐ行きます~~~。」
じいじとおばあちゃんは、黙って玄関先に立っていることにした。
「はい、どちらさまでしょうか。」
「ごめんください、○○様のお宅でしょうか。」
玄関は模様ガラスが入った引き戸で、こちらからは家の中の人は人影が解るだけで服装などの細かい所は分からない。同じように、中からはこちらの姿が良く見えないだろうし、逆光での日陰に立っているので黒い影だけが見えているのかもしれない。
「はい、はい、何の御用でしょうか、今空けますね。」
お母さんが玄関の鍵を開ける姿が見える。
この頃の玄関のカギ(玄関だけではなくて、窓の鍵も、引き戸になっているところの鍵は大体が同じだ。)は真鍮製で平たい摘まみが付いていて、棒状の先にネジが切られている。鍵を閉める場合には、鍵穴の中にそのまま押し込んで、つまみを右回転に押し回すとしっかりと締め付けられて鍵がかかる。逆に、鍵を開けるのには、締まっている鍵棒のつまみを左回転に回し緩める。そうして鍵穴から外して、金具でくっつけられている鍵棒をそのままぶら下げておけばいい。
原理的には、ネジで二枚の引き戸を通し穴で締め付けて、動かないようにするようになっていると思えばわかるだろうか。
鍵棒の油が切れているのか、キリキリキリと音を立てながらネジを回して鍵を開けている。
やがて、カタンと音がして鍵棒が外される。それからおもむろにガラス戸が引き開けられた。
「いらっしゃい、大変だったでしょう、駅からが不便だからね。道に迷わなかった? さあどうぞ、あがって、あがって。荷物は? あるのならそこの植木の横にでも置いておいて。後で部屋に運んでおくからね。今日は特に暑かったから、汗をたくさん掻いたでしょう。飲み物を飲んで一休みしてから、お風呂に入っちゃいなさい。温めにしてあるから気持ちいいからね、さっぱりしてね!」
もう完全に見破られていたよ。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。




