三十二夜、じいじの頭は跳び易かった?
今日はじいじの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、小学校の頃のことだけれど・・・
友達たちと犬の散歩に行った時のことだけど、村のはずれに夏の間、葛が蔓延って地面も、立木も昔畑だったところも、みんな覆われて一面緑になってしまうところがあったんだよ。そこは、下に何があるのか見えないし斜面だったのでみんな警戒して近づかなかったところだったんだよ。
秋になれば葛も枯れて、多少は見通しが利くようになるので、犬の散歩がてら探検をしてたんだよ。ふつうならなにもあるはずもない所なんだけど、たまたまその時は、犬を放して二手に分かれてずんずん登って行ったんだよ。犬は喜んでどんどん走っていくし、じいじたちも葛が枯れて少しは登りやすくなった谷筋を歩いてた。
すると、犬が急に吠え出して、尾根筋を越えて回り込んで、もと畑だったところから走り降りてきたんだよ。みんな何事が起きたか分からずにボーっとしてた。
じいじはみんなの後にくっついて歩いてたけど、犬が騒ぎ出したのでそこで立ち止まって、何事かと周りを眺めてたよ。
いきなりだった。
犬が下ってきた尾根のすぐ横あたりから、茶色いものが飛び出してきた。
そのなにかは、こともあろうに、じいじの頭に飛び乗って、反対側の尾根の下あたりに飛び込んでいったよ。結果として、じいじの頭を足場にして谷を渡ったってことだよね。拍子でじいじはびっくりしたのとで尻もちをついて訳が分からずに頭を押さえてたよ。痛くはなかったけど、ショックだよね。
結局、正体ははっきりわからなかったんだけど、足音は尾根筋からもと畑だったところに向かって登って行って、すぐに聞こえなくなってしまった。
最初追いかけていた犬も、谷を飛び越えられたところでわからなくなったのか、追いかけられずに、うろうろするばかり。
みんなで追いかけようとしたけど、とても足が速いし、気配さえもなくて、犬をけしかけても音も立てなかったので、暫くして諦めてしまった。
村に帰って、近所のおじさんに聞いてみると、大きさから言って、野ウサギじゃなかったかってことだったよ。
野ウサギは、追い立てられると斜面の下に逃げて、ぐるっと回って、もとのところに帰る性質があるんだって。たしかにそのなにかは、ぐるっと回って最初の畑だったところに帰ったみたいで、そこらあたりで、じっとしてるのか、音がしなくなっていた。
じいじは、長いこと生きてきたけど、その時一回だけだよ、野ウサギに踏んずけられたのは。
その後、他の人は何度かそこに行ってみたらしいけど、とうとう分からず仕舞いだったようだよ。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
野ウサギと言えば、私も見たことがあります。子ウサギが、家の隙間に入り込んで、じっとしてるのをたまたま見つけたんです。引っ張り出そうとしたら、止められました。
野ウサギの皮膚ははがれやすくて、因幡の白兎状態になるから可哀そうだとか。・・・真偽は知りませんが。




