二百八十九夜、ばあばの洋裁学園生活 78 友人Wさんの場合 7
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「・・・・・・」
そうだねえ、じゃあ、ばあばが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、洋裁学園の頃のことだけれど・・・
Wさんはそんななかでもできることは全部やろうとしたんだそうだよ。講義も、ゼミも全く手を抜くことなく努力をしていたそうだ。
幸いなことに、家からの援助があったおかげで余計なことに時間や手間や神経をすり減らすこともなくて大学の四年間を過ごすことが出来たそうだ。昔は今と違って簡単にアルバイトを探してそこで働きながら学ぶってことが容易ではなかった。
男子ならともかく、女子学生にとってはとてもとてもハードルが高い事だった。確かに、そんな中でもうまくすり抜けるように要領よく過ごしている人たちも居たことは確かなのだけれどね。Wさんにとってはそれが簡単には出来るようなことではなかったらしい。
それは性格に問題があったのでは? って言われるかもしれなかったけれど、本人にとってみれば精いっぱい努力している結果であることは間違いなかった。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎようとしているころには周りに誰も居なくなっていた。本当に、要領よく立ち回る人たちを見るにつけ、どうして私にはできないのだろうかって思っていたらしい。
大学に入ったころの夢も、希望も、どこかに落としてしまったように自分の周りには見つけることが出来なかった。性格も変わってしまったように感じる。私はもっと明るくてニコニコできていたように思っていたけれど、今では道を歩く時でも知らずに下を向いて歩いているようだった。
気晴らしにでもって街に出ていた時に、ちらっとショーウィンドウに映っている自分の姿を目にしてぞっとした覚えがある。私ってこんな格好で歩いていたんだって、今更ながら気が付いてショックを受けたそうだ。
ちょうどその時に街の協賛売り出しがあって、人混みがいっぱいだったのだけれど、さすがにそこにはいたたまれずに自分の下宿に逃げ帰ってしまったことがある。それでもどうにか自分の気持ちを保つことだけは出来たので、四年間の大学生活を過ごすことが出来た。
今から振り返って思うに、私は何をしに大学にまで行っていたのだろうかって思う。いくら思い出そうとしても大学生の四年間に何をしていたのだかはっきりとは思い出せないことに最近になって気が付いたって。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
本当に四年間、何だったのか。




