二千二百二夜、じいじの高校生生活 1030 二年生 111 二学期以降 11 手紙 7
今日は、じいじの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、高校生の頃のことだけれど……。
──……じいじとYさんとの関係と言ったところで、たったそれだけのことでしかなかったのだ。
Yさんがじいじに手紙を送ってくれたということは、彼女にとってみれば、相当に勇気が必要だったのだろうなあ……と、今だからこそじいじにも分かることがある……。
「……いえ、そんなことはないです。
私が中学校を卒業してから、この辺りへはいままで一度も来たことが無かったので……。
なんだか懐かしくて……早めに来て、お散歩をしていました……。
……それに……今日は、この中学校でも文化祭でしたので……。ちょっとだけ覗いて見たいような気がしていたんです……。」
今なら解る……。この短いやり取りの中にも、今日のデート?の成否を左右するようなヒントがあったのだということを……。
しかし、残念ながら、この時のじいじには余裕がなかった。
せっかく、提案されたのかもしれないことに対して、気付くことができていなかった。
「……うん……。じゃあ……この辺りを散歩しながら、話そうか……。」
十一月初めということは、現在ではそれほど寒さを感じることのないことが多い、穏やかな気候なのかもしれないとは思う。
しかし、この頃の十一月初旬というのは、いつ初雪があってもおかしくないほどに寒かったのだ。それにも増して、この時期のここら辺りの海岸では、すでに伊○吹颪(い○ぶきおろし)の冷たくて強い風が吹きつけていることが多かったのだ……。
……たぶんこの日も、小春日和というような甘い天候ではなかったと思う……。
周囲の海岸の砂が、強くて冷たい風に吹き飛ばされてくるような、この辺りでは普通の、寒い日だったようにじいじは憶えている……。
「……寒くない?……。」
じいじが聞いたと思う……。しかし、そんなもん……聞くまでもなく、寒いに決まっているだろう……。じいじ自身が自分でも寒いと感じていたはずなのに……。
「……うん。……大丈夫……。」
ああ、もう……。この時すでに、じいじの鈍感さと思いやりの無さについて、彼女はしっかりと心の中に刻み込んでしまっていたのかもしれない……。
この後は、たぶん、話しとしては弾まない、寒さだけが酷くなるような会話が、交換されたのだろうと思う……。
じいじがまともに憶えているのは、彼女が口に出した、
「……磯の香りが懐かしく感じられる……。」
という言葉くらいだ……。
この時期では苦しい話題になってしまうのだろう。けれど、これが夏の季節に出された話題であるのならば、多少は話が弾んだのかもしれなかっただろう……。けれど……。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。