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ダブルスタンダード  作者: 佐藤あきら
2/12

第0話 滅んだ後、新世界

 世界は一度、滅んでいる。



 より詳しく言うと、人類が滅亡したという意味ではない。

 文明社会が一度、機能を失ったという意味だ。そして新世界が誕生した。


 第四次世界大戦によって、それまでの世界は一度滅んだ。


 進化しすぎた兵器、核爆弾、食料と水の奪い合いで、わりとあっさり滅んだらしいと言うのは今の教科書に載っていること。

 それまでの長い歴史で築いた文明や、様々な技術が戦火の中に消失した。

 例えば『空を飛ぶ鉄の乗り物』を実際に見たことがある人間は、もうこの世には存在していない。

 わずかに生き残った人類は、再び発展せんと荒地になった地上を必死に開拓かいたくしていった。

 そんな中で今までに無い生態系が急速に形成され、さながら『原始時代』並の弱肉強食の世界が再び訪れた。人間は食物連鎖の頂点ではなくなったのだ。

 人類は必死に頑丈がんじょうな家を作り、武器を生み出し、安定した食料の確保に奔走ほんそうした。


 その時に生き残った日本国民を支え、従え、新たな国を作り上げたのが後の『皇帝こうてい』である。


 現在は64代皇帝が玉座ぎょくざに着き、権威を振るっている。皇帝の威光は新しい日本の象徴として、今尚いまなお衰えることはない。

 そして膨大ぼうだいな広さを誇る帝都は、裕福層から貧困層まで様々な人間が集まる。

 帝都の中心には皇帝のきょが構えられ、それをぐるりと囲むように貴族、領主、領民とそれぞれの階級に見合った住居で生活していた。


 だが帝国は今、各地で蜂起ほうきする反乱軍により不安定な状態だった。


 水面下でくすぶる火種が炎を燃え上がらせるのか、または燻ったまま不発で終わるのか。それは誰にもわからない。

 突発的なテロが度々起こっているが、それでも街は日常を保っている。このたくましさとおろかさこそ、人間の美徳なのだろう。

 昨日はどこかで軍人と反乱軍の殺し合いなんて演じてみて、悲しんだ顔をつくって、死者をいたんでみたところで、次の瞬間には夕飯のことなんか考えている。その程度の命の移り変わり。


 この世の誰も、代わりはいる。


 突然自分が居なくなってみたところで、それでも世界は何の反発もなく回っていく。

 だけどそれは当たり前で、それに納得がいかないなんて自意識過剰もいいところだ。

 誰もが自分の代わりになれて、誰の代わりも自分がなれる。

 だから世界は円滑に回り、人類は発展した。


 レンガ造りの集合住宅。テラスには花が飾られ、通りは出店でにぎわう。

 かつて存在した『1900年代初期のヨーロッパ』のような街並みらしい。写真もほとんどど残ってないので、実際はどうなのか知らない人間ばかりだろう。

 あきないの声、散歩を楽しむ老夫婦、店から漂う食事の香り、誰もが望む平和な光景。

 あそこで生きている人も、あそこで息をしている人も。

 みんな誰かの代わりになる為の予備だ。



 誰も特別じゃない。

 誰も特別にはならなかったし、なれなかった。

 特別じゃない人間たちの、自由と平等を賭けた物語。

 特別になりたいわけじゃない人間たちが、特別を求めた物語。




 時は新世界、玉暦ぎょくれき1952年__。


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