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Innocent Vision  作者: MCFL
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第8話 夢の休日

帰りつくと同時に夢に落ちた僕は町を見下ろす高い場所にいた。

ビルの上か、あるいは空を飛んでいるのか、良くわからない。

自分の感覚がないからこれは「自分以外の未来」だとわかる。

以前の新宿ダルマ殺人を見たのもこちらに当たる。

(最近は自分に関することが多かった気がするけど。)

そこは気まぐれな夢だし、高梨コーチのことも厳密に言えば僕とは関わりのない話だ。

だから本当の意味で僕に関する夢というのは少ないのかもしれない。

見下ろす町も壱葉ではなく夜でも若者がいる所だった。

若者たちは人工の光に照らされた町を我が物顔で歩き、我が家のように地面に座り込んで大笑いをし、ごみを放る。

これでは「近頃の若者は…」と言われても仕方がないが実はそういう世代もタバコのポイ捨てを平気でしているのだからどうしようもない。

光の途絶えることがない町、騒ぎが起こらない日がないこの地は不夜城のようで、空から見ると酷く歪に思えた。

この夢の意図を理解できないまま僕の意識はゆっくりと空に溶けるように覚醒していった。


はじめ、それは別の夢かと思った。

窓から差し込む光は朝であることを示していて目覚まし時計が起きろと急かしている。

もちろん起きている。

頬をつねれば痛いだろうことがわかるくらいだから正常だ。

だからこそ異常だとわかってしまう。

だって、朝目が覚めたら馬乗りになった女の子がとてもいい笑顔を浮かべながら…剣を振り上げていた。

「神峰美保!?」

「さんが抜けてるわよ、インヴィ。」

笑顔のまま青筋を浮かべる神峰を見て

(あ、バッドエンドフラグだ。)

そう思ったときにはすでに神峰の剣が僕の胸に突き刺さっていた。



目が覚めると日が昇る少し前のまだ暗い時間だった。

胸に手を当てても穴が空いている様子はなく心臓も緊張で早くはなっているが正常に動いていた。

「はあ、嫌な夢だった。」

普通に眠った場合それがInnocent Visionによる夢なのか昼間の恐怖が見せた空想の夢なのかとっさには判断できない。

できればそれこそ夢であってほしいところだが現実は大抵よくない方向に進むものだと考えているのであれがいずれ現実になるのだと考えると気が重い。

「せめて今日じゃありませんように。」

確定した未来ならせめて先延ばしになりますようにと願いながら僕は再び眠りに落ちた。


微妙な時間に起こされて二度寝したから眠い。

そんな顔をしてリビングに出ると両親はおらず、テーブルの上にチラシがあるだけだった。

水を飲みながらそれに目を通す。

「ふーん、町内会で秋祭りの準備か。」

これまで母は僕が家にいる間はずっと家にいた。

それが心配してなのかそれ以外なのかはわからないがとにかく僕を置いて出掛けるようなことはなかった。

学校に行き出したことで安心したのだろう。

「それにしても、祭りね。」

ネット人間としての祭りが思い浮かんだがそっちではない。

神社の参道でわたあめやら焼きそばやらリンゴ飴やら射的、ヨーヨー釣り、金魚すくい、その他もろもろが出店するあの祭り。

でもその祭りにはあまりいい思い出がない。

一緒に行くような友達はいなかったし家族と行ったときはInnocent Visionの副作用で倒れて気がつけば家のベッドで寝ていた。

しかも何処かの祭りで騒ぎになりすぎて死傷者が出る現場を“見た”せいですっかり祭りは怖い場所だという認識を持ってしまっていた。

祭りは来週らしいが今年は部屋にこもってネットの祭りにでも参加するとしよう。

「さてと、今日は何をしようかな?」

Innocent Visionで見た町の様子でも書いてみんなに叩かれるかと思いパソコンを起動させた。

「建川で昏睡事件!?」

ブラウザを立ち上げると掲示板がホームページとして開くのだがトピックスは今まさに書き込もうとしていた町で起きた集団昏睡事件についての議論で盛り上がっていた。

「え!?何が?」

掲示板はすでに新手のガスだ、超能力だのと昏睡についての話題が主に扱われていたので普通のニュースサイトに飛んだ。

集団昏睡事件はトップニュースに上がっていた。

『本日未明、昨晩から駅前にいた若者や浮浪者数名が倒れているのを早朝ジョギングをしていた男性が発見、呼び掛けても応答がなかったため警察と救急に連絡をした。被害者に外傷も見られず、毒物なども今のところ検出されていない。若者と浮浪者に接点は見られないことから警察では事故と事件の両面から捜査が進められている。』

「昏睡…」

被害者がどんな人たちなのかわからないがもしかしたら昨晩のInnocent Visionで見た彼らかもしれない。

そしてもし僕が悪意を持ったことで彼らを夢に取り込んだのだとしたら?

Innocent Visionは傍目には呼んでも何も返事をしない、まさに昏睡状態だと医者が言っていた。

(もしも本当にInnocent Visionで夢に取り込んだのだとしたら、僕が犯人なのか?)

自覚なく人を昏睡させる力。

もしそんなものがあったら僕は怖いと思う。

でも僕はInnocent Visionについて何も知らない。

医者でも解らず虚言を吐く精神病と診断して匙を投げた位だからきっと誰にも分からない。

だから僕が犯人だという証拠もなければ僕が犯人じゃないことも証明できない。

「なんか、やだな。」

朝から嫌な夢を見たあげく答えの分からない問いに悩まされ、僕は今日は一歩も家から出たくなくなるほど気分が落ち込んだのだった。


パソコンの前に座っていたはずの僕は気づけば夜の町に出向いていた。

空はくすんだ紺色に染まっていることから夜であることがわかる。

僕は何かを探すように辺りを見回しては場所を変え、それを繰り返していた。

そして気づけば表通りから裏側にまできていた。

明かりに乏しく寒々しい場所に恐怖を覚えた僕は振り返り、見てしまった。

追い詰めた獲物を前に愉悦の表情を浮かべた等々力の姿を。

等々力の口の端がつり上がり右手に槍と斧を足したような武器、ハルバードを携えた。

等々力の赤く光る左目を見た瞬間に頭痛が頭に響いた。

(まただ。)

神峰の時と同じ、またも痛みに一瞬目を離した隙に等々力の姿が消えていて、上を見上げれば等々力が渾身の力を込めてハルバードを振り下ろしていた。

「死んでもらうよ、インヴィ。」


「…割れてない。」

目が覚めると外は夕方で椅子の背もたれに触れた部分は汗がびっしょりだった。

安堵のため息を漏らしてベッドに倒れ込む。

「本当に心臓に悪い夢ばっかりだ。」

こんな夢を見るようになったのは神峰にInnocent Visionが僕だと知られてからだ。

それまでにも夢で殺人などの場面を見てはきたがそれはあくまで“自分以外の”出来事だった。

それが最近は自分に関わる夢ばかりを見る。

ヴァルキリーに関わってしまったことで危険に身を投じる道に踏み込んでしまったのかもしれない。

現状を打破するためにもヴァルキリーとあの武器について知らなければならない。

「でも、僕には対抗する手段がない。」

どんなに情報を収集して秘密を掴んだとしても7人の戦乙女に襲われたら、

たとえそれが1人だったとしても僕には戦う力はないから簡単に殺されてしまうだろう。

「戦う力か。」

ふと思い浮かんだのは神峰から僕を守ってくれた彼女。

学校でと言ったのに姿を表さない謎の女の子ならもしかしたら僕を助けてくれるかもしれない。

他力本願で情けないが僕にはどうしようもないのだから仕方がない。

「明日、あの子を探してみよう。」

違う制服だったからうちの学校である可能性は低いが探してみる価値はある。

階下から母さんの呼ぶ声が聞こえて僕は立ち上がるとパソコンをスリープモードにして部屋を出た。

閉じる間際に見た画面にはまだ昏睡事件の手がかりは報道されていなかった。


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