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Innocent Vision  作者: MCFL
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第5話 ヴァルキリー

放課後も女性陣に連れ去られそうになったため保健室に用事があることにしてなんとか切り抜けた僕は学内を散策していた。

一応保健室に寄って今日は大丈夫だったことを報告したから嘘もついていない。

(まずは、場所からだ。)

人探しに放課後は皆が帰ってしまうから不向きだし下手に教室を訪ねて神峰と遭遇してしまうのも避けたい。

僕が神峰のグループを探していることは出来る限り知られたくはない。

相手の男にしても学生には見えなかったから僕の知らない教員かもしくは外部からの客人となるが、後者だと今日はいない可能性が高い。

よって今日は犯行現場を見つけ、その周辺環境を把握しておくことにしたのだ。

幸い別のクラスや学年が違う学生は僕を見ても特に何も言わずに通りすぎていく。

1階の職員室から始まり教室群、特別教室と回っていくが夢の光景と合致する場所は見当たらない。

(壁の感じや床の作りから考えてこの学校で間違いないはずなんだけど。)

「どうかしたのか?」

廊下で立ち止まっていたら用務員さんに声をかけられてしまった。

「…半年ぶりに学校に来られたんですけど道に迷ったみたいで。」

咄嗟の判断でそんな台詞が出てくる辺り僕は悪いやつだなと思う。

予想通り用務員さんは気遣わしげな表情になった。

「そうか、大変だな。そこに案内板があるからな。」

「ありがとうございます。」

会釈をして用務員さんと別れ、来賓用玄関にある案内板に向かった。

それを見て思わず笑みが浮かんだ。

今日の仕事はもう終わった。

僕はそのまま昇降口に向かい帰路に着く。

学校はゆっくりと夕日に染まり始めていた。


「ただいま。」

一応帰宅の声をかけてからそのままリビングには顔を出さず階段を上る。

僕は部屋に入るとすぐにパソコンを起動させた。

今回のInnocent Visionについては掲示板に載せるつもりはない。

神峰たちがチェックしている以上ここで例の殺人に関する情報を流せばどう転がるか予測できなかった。

「それによって未来がどう変わるか見てみたい気もするけど。」

しかし人の命が掛かっている以上安易な動きは取れない。

「だけどパソコンは別にこっちの情報を伝えるための道具じゃない。」

僕は検索エンジンで「神峰美保」を入力する。

神峰、美保に関する、もしくは神などの1文字による検索で膨大な数が引っ掛かった。

それをさらに絞り込んでいくと項目の1つに「弐ノ宮第5中学卒業」というのがヒットした。

開いてみれば恐らくはその中学の卒業生が作成したのだろう、卒業生一覧と集合写真が載っていた。

「ビンゴ。」

神峰の顔はすぐに見つかった。

正面からの写真でわかりづらいが先日見たのと同じように後ろで結わえた髪型をしているしまだ半年なので顔もほとんど変わっていない。

僕はさらにその中を眺めていく。

神峰は僕と同級生、半年もあれば新しい友人も出来るだろうがやはりグループにも知り合いはいるだろう。

もしかしたらこの中に…

「…あった。」

探していた人物、今日夢で見た犯人を見つけることが出来た。

「下沢悠莉。」

おしとやかそうな肩にかかるくらいの髪の女の子は神峰以上に荒事とは無縁そうに見える子だった。

そんな人たちを駆り立てるものは何なのか、

あの何もない空間から現れたとしか思えない武器は何なのか、

他にも疑問は尽きないが今の僕には情報が少ない。

「だけどこれで犯行現場と犯人は特定できた。犯行時刻も僕の記憶が正しければだいぶ絞られる。」

そこで一度ため息をつく。

夢に見たことを簡単には忘れられないことはありがたいが殺人現場の映像がちらちら視界を掠めるのは精神衛生上あまりよろしくない。

それでなくても最後のピースは手詰まりなのだ。

「後は被害者がわかれば、どうにか出来るかもしれないけど、それがわからない。」

犯人は壱葉高校の制服を着ていてあの不思議な剣のつながりで神峰に関係していると思ったから偶然見つけることができた。

だけど学外の見知らぬ人物になるともうお手上げだった。

目頭を押さえつつベッドに寝転がる。

気がつけば外はすでに夜が訪れていた。

タイムリミットはおそらくそう遠くはない。

「でも僕にInnocent Visionの見せる未来を覆すことが出来るのか?」

神峰との一件もあの女の子の乱入があったとはいえInnocent Visionが見せた未来、心臓に剣が突き立つ直前まで実現したのだ。

つまり今回は血の海に沈む映像が見えている。

それはどんなに策を労して抗ったところで覆ることはないのではないかと考えてしまう。

「とはいえ、今さら後には引けない。」

人が殺されるとわかってしまった以上見ない振りをすることは出来ない。

それは僕が“人”として生きるための矜恃だった。


食後、入浴を済ませて部屋に戻るとパソコンのメールに着信があった。

「滅多に人には教えないんだけど誰からだろ?」

未開封のメール、件名はなし。

プレビュー画面にも何もない。

「怪しい。」

普段の僕なら問答無用でごみ箱送りである。

それは現在の僕の宝物と言えば無駄にハイスペックなパソコンなわけだからウイルスやら何やらに気を使うのは当然だからだ。

なのに僕はその何も書かれていないメールに興味を引かれた。

「ウイルスじゃありませんように。」

過ぎた好奇心は猫を殺すと言うが鬼が出るか蛇が出るか、僕は意を決して開封した。

開いたメールにはやっぱり何も書かれていなかった。

だが、不自然なほどに改行された本文は何かあると思わせた。

途中に何か書かれているのも嫌なのでゆっくりスクロールさせたが何もなく99行目、1つのURLが記されていた。

「…毒を喰らわば皿まで。」

僕はそのリンクをクリックした。

ネットのウインドウが立ち上がり、ページが表示される。

「…ヴァルキリー?」

トップに書かれたそれを見た瞬間、これが神峰の属するグループのホームページなのだと理解した。

ヴァルキリーは北欧神話に出てくる英雄の魂をヴァルハラに連れてくる戦乙女たちのこと、曲解すれば死神とも取れるあたり間違いないだろう。

メンバーは名前だけだったが7人、

「花鳳撫子」

「ヘレナ・ディオン」

「海原緑里」

「海原葵衣」

「等々力良子」

「神峰美保」

「下沢悠莉」

予想通り神峰や下沢の名前もあった。

ページをブックマークしつつ最小化してメールの方に戻る。

「相手からの情けか、それとも第三者からのリークか。」

情報源が神峰たちの場合、このホームページの信憑性は限りなく低くなりメンバーの数は大なり小なり弄られている。

そして僕が嗅ぎ回っているのをすでに知っていることになる。

だがこれが第三者からのリークなら神峰たちは気付いていないだろうからこちらが有利になる。

「でも、普通こういうメンバー限定のページにはプロテクトがかかってるはずだし。」

つまりその第三者がこのページへのアクセス権限を持つ者である可能性もあるのだ。

だけど僕には1人、本当に何となくだが心当たりがある。

それは新宿の夢と先日の夜に出会ったあの女の子。

「助けてくれたからって敵の敵が味方とは限らない。」

敵の敵がまた別に僕を狙う可能性もある。

彼女の真意が不明な以上信頼するのは危険だ。

そもそもほとんど誰にも教えていない僕のパソコンのメールアドレスを知っている段階で相手はただ者ではないのだから今は自分の力量を信じることにした。

「ヴァルキリーか。一体何が目的なんだろう?」

ホームページのTOPをクリックすると壱葉高校の乙女会というページに変わり、ヴァルキリーのページにしてもあの不思議な武器のことやヴァルキリーの目的については記されていなかった。

僕はパソコンから離れてベッドに倒れ込む。

「今日は疲れた。」

半年もの間引きこもりをしていたせいもあるが人と接するのはいろんな意味で疲れる。

もちろん苛められないのは嬉しいし今は興味本意だろうけど友好的に話しかけてくれるのはありがたい。

でも本質的に僕は人との接触を避ける傾向にある。

今もこうして自分の部屋にいることが一番の安らぎなのだ。

「思ったよりも悪くなかったけどね。」

芳賀君、久住さんや作倉さん、みんな僕に良くしてくれたから少なくとも明日学校に行きたくないなんてことにはならなかった。

思った以上に疲れていたようで強制的な眠りとは違う抗いがたい睡魔に襲われた。

「今日は…夢を見たく、ないな…」

せめて一時でも“人”としてのささやかな幸せを夢に見させて…。


そこは廃ビルだった。

僕はベッドに転がったまま窓の外を眺めている。

手足は縛られている。

唯一自由な目で部屋を見回しても犯人らしい人物の姿は見えない。

時刻は恐らく深夜。

僕はただ静かに事が動くのを待つほかない。

眠ろうにもいつ何が起こるかわからない現状でゆっくり出来るほどの胆力があるわけもなく戦々恐々しながら助かる方法を模索する。

突然窓の外から銃声が聞こえ、空気が切迫した雰囲気に変わった。

悲鳴が上がり、断続的に銃声が響く。

だけど僕は動けない。

窓の外は大人しくなり、屋内での銃撃戦となっていた。

僕には襲撃者に確信があり、彼らがその使いでないことが明らかとなった。

とうとうこのフロアが切迫した雰囲気に包まれたが瞬く間に絶望に染まっていく。

銃声に震えた空気の後、世界はまた静寂を取り戻した。

ゆっくりとこの部屋のドアが開き、そこには…



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