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Innocent Vision  作者: MCFL
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第22話 眩しき笑顔

その後は比較的大人しい乗り物を回った。

僕にとってはどれも初めてだったがそれでもメリーゴーランドは少し恥ずかしかった。

そうしているうちに昼を回り、歩き回っていたわけだから当然お腹が空いてくる。

「そろそろご飯にしようか。ガイドブックにはいいお店とか書いてない?」

所詮一地方遊園地だから過度の期待をするつもりはないがそれでも美味しいに越したことはない。

しかし作倉さんはもじもじするばかりで本を開く様子はない。

「半場君、あのですね、…」

「うん?」

「安定した味のご飯ともしかしたら美味しいかもしれないご飯だったらどっちがいいですか?」

作倉さんは至極真面目な表情でよくわからない謎掛けをしてきた。

(保守と挑戦?でもどんな意味があるんだ?)

もしかしたらこの質問の答えで入る店が変わるのかもしれない。

作倉さんは妙な迫力を醸し出しながら僕の返答を待っている。

だが僕には正解はわからない。

(ならば…)

「安定…」

そう口にすると作倉さんの顔がわずかに曇った。

「…よりもチャレンジ精神が大事だと思うから後の方で。」

そう答えると作倉さんは小さく安堵のため息をついていた。

手品師のカードマジックに似た誘導で正解を導く後出し的な反則技だ。

(これが明夜とかだと分からないけどね。)

こんなところでも素直な作倉さんに感謝。

後者の食事は作倉さんお手製のお弁当だった。

近くの休憩スペースで他の家族連れと同じように弁当を広げる。

可愛らしいお弁当箱には俗に定番と言われる唐揚げとか玉子焼きとかタコさんウインナーとかが入っていた。

空腹分を差し引いても問答無用で美味しそうだった。

「美味しそうだね。」

「だといいんですけど。」

なんだか作倉さんは歯切れが悪いし苦笑を浮かべているが僕は構わず箸を手に取った。

「いただきます。」

作倉さんの祈るような姿勢を視界に収めつつ僕は玉子焼きを口に入れた。

「…。」

「どう、ですか?」

どうと聞かれても思考がまともに働かない。

ただ口が素直な感想を漏らしていく。

「べらぼうに甘い。」

「あーん、やっぱり!」

作倉さんはテーブルに泣き崩れた。

僕はおやつのお菓子も裸足で逃げ出す砂糖の塊を前に咀嚼すら出来ないのだから慰めることも出来ない。

「やっぱり、って?」

「私、誰かのためにお弁当作ると緊張して、失敗しちゃうんです。前に皆のために作ったときも。くすん。」

すっかり気落ちしてしまった作倉さん。

僕はもう一度弁当に箸を伸ばした。

ちょっと唐揚げが濃かったりウインナーが焦げてたりご飯がパサパサだったとしても、僕は怒濤の勢いでそれを平らげていく。

「半場君、無理しないで下さい。」

「無理じゃ、ない。」

僕は箸を止めない。

僕のために頑張ってくれた作倉さんが悲しむ理由なんてないのだから。

「ごちそうさまっ!」

コトリとテーブルの上に置いた弁当箱には米粒一つ残っていない。

量もそんなに多くなかったから余裕だった。

「お粗末様です。」

作倉さんは僕の完食した弁当箱を両手で包んで微笑んだ。

その笑顔が見られただけで頑張った甲斐があったというものだ。

「そう言えば作倉さんのお昼は?」

「そうでした。私の方はちょっと失敗しちゃったほうなので、恥ずかしいです。」

そう言って開いた弁当の中身は僕と同じだったが

「こっちも1つもらうよ。」

玉子焼きをつまんで口に放り込んだ。

作倉さんは不安げに見ていたが

「ん、おいしい!?」

こっちは外身は焦げているもののおかずに最適な甘さの玉子焼きだった。

他のおかずも摘まませてもらったが「本番」よりも数段出来がよかった。

「あはは、食べますか?」

「いや、もうお腹一杯だから。」

作倉さんは苦笑しながら自分の分の弁当を食べた。

(本当に不器用な子だな。)

そんなことを思いながら食べている作倉さんを眺めていた。


午後も一通り回り、最後に作倉さんの希望で観覧車に乗った。

夕日に染まる町並みを高いところから見下ろすというのはなかなか気持ちがよかった。

「半場君。」

呼びかけられて視線を正面に戻すと作倉さんが真剣味を帯びた表情をしていた。

「なに?」

「今日はごめんなさい。」

作倉さんは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

僕にはそれが理解できなかった。

「何で謝るの?」

「無理やり約束をしていっぱい迷惑をかけて、お弁当も失敗して…。半場君優しいから何も言わないけど、本当は嫌だったでしょう?」

作倉さんは暗い表情で目を落とした。

(優しい?嫌?)

確かに“遊び”が初めてだからどうしたらいいか分からなかったけど嫌ではなかった。

「入学式の時も、乱闘から逃げようとした生徒に巻き込まれそうになった私を半場君が守ってくれたました。半場君は優しいですよ。」

なんとなく入学式の時に危なっかしい女の子を助けた気はするが作倉さんだったかは覚えていない。

そんなことよりも勝手に落ち込んでいく作倉さんを止めなければならない。

「僕は…」

弁解しようとしたところでくらりと視界が歪んだ。

(こんな、時に…)

気まぐれな夢に飲み込まれて心配そうな作倉さんの顔も闇の向こうに消えた。


夢の中でも僕の視界は闇に閉ざされたままだった。

「さあ、ゲームを始めようか。」

聞き覚えのある声だが誰だか思い出せない。

「君も知ってる簡単なゲーム、かごめ。」

ジャキリと重たい剣を構える音が周囲から聞こえた。

「だけど答えられなかったらその瞬間、バッサリだよ。」

そして流れてくる女の子たちの歌うかごめ歌


かーごめーかごめー


目を開けると家のベッドの上だった。

耳に残る歌声を振り払って起き上がるとベッドサイドに手紙があった。

『半場君の御両親にお迎えに来てもらいました。いつ起きるかわからないということだったので今日は帰ります。今日は楽しかったです。作倉叶』

「はぁ。」

深いため息をついてベッドに倒れる。

(やってしまった。)

後悔の念で押し潰されそうだ。

作倉さんに弁解できないまま倒れ、きっと遊園地で迷惑をかけてしまい、いつまでたっても起きないから家に連絡して迎えを手配してもらい、別れの挨拶も出来ないまま帰らせてしまった。

「最低だな、僕は。」

分かっていたことだというのにInnocent Visionが恨めしい。

(あの夢も今日のことじゃなかったし、さっきの夢もよくわからない。)

Innocent Visionに振り回されて僕はまた誰かに迷惑をかけていく。

やっぱり僕は一生人と関わらない生活を送るべきなのではないだろうか。

ブゥン

ベッドサイドに置かれた携帯が振動した。

開くと

『起きてないかもしれませんが元気になったか心配でメールしました。返事はいいのでまた明日学校で会いましょう。』

作倉さんからのメールだった。

「…元気になったよ。作倉さんのおかげで。」

また明日学校で。

僕を待っていてくれる人がいるのなら、もう少しだけ頑張ってみようと思う。

今日はいろいろと疲れた。

「でも、遊園地は楽しかった。」

思い出す光景には作倉さんの笑顔があって、


(作倉さんの笑顔は眩しくて…なんて遠いんだろう。)


無垢な笑顔が僕とはまるで違う生き物のように思えてしまう。

そんな風に思ってしまう自分が嫌で僕は楽しかったことだけを思い出しながら眠りについた。


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