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Innocent Vision  作者: MCFL
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第2話 ピエロの笑み

翌日、カーテンを締め切った部屋でパソコンを起動させると昨日の記事にレスがついていた。

大半はきもいやらうざいやらの誹謗中傷、もしくは殺人予告と勘違いしてドコドコのダレダレを殺してくれという依頼だった。

それらには目もくれず進めていく。

『もっと詳しい状況を。場所は?時間は?犯人はどんな人物?』

ハンドルネーム「ピエロ」のレスを見ていつもの事ながら笑ってしまう。

ピエロは僕が掲示板に書き込むようになったときからずっといる相手でいつも詳細を聞いてくる相手だった。

他の人からは空気読めとか信者とか馬鹿にされているが僕は違うと考えている。

ピエロは真剣なのだ。

単なる興味ではない何かがあると思わせた。

事件の予知と信じて犯行を止めようとする警察関係者または正義の味方なら僕を犯人と睨んで犯行予告と考えているのかもしれない。

もしくは決定的瞬間を掴みたい記者か。

あるいは

(犯人、か。)

もし仮に犯人がこの記事を見たなら一体どんな顔をしているのだろう。

突発的な犯行ならともかく計画的犯行ならそれを露見されることは冷静ではいられないはずだ。

焦り、怯える犯人を思うと興奮してくる。

他人を追い詰めている征服感にまた体が震える。

僕はいつものようにそれ以上は書き込まずベッドに倒れ込む。

あの女の子が頭に浮かんだ。

一瞬見えた血に濡れた凶器は包丁とかノコギリとかいう無粋なものじゃなくてもっとゲームに出てくるような洗礼された武器のように見えた。

「馬鹿みたい。」

そんなファンタジーは現実にはあり得ないと、自分のInnocent Visionという能力を棚にあげて鼻で笑う。

現実は異能を認めない。

異能を持つ者は「人」ではなく「鑑賞物」、テレビの向こうにしかいないものとされる。


だから僕はここにいる。だから僕は、ここにいるしかない。


日付が変わる頃に記事を見るとレスがかなりの数に増えていた。

親切にもニュースのリンクがあったので見てみれば手足切断死体が新宿路地裏で発見された報道の速報だった。

意外と早いことを考えると掲示板を見た人かそこから漏れた情報を頼りに探したのかもしれない。

コメントはお前が犯人か、すごい、キモいなど好き放題。

そんな中一枚の画像ファイルが添付されているものがあった。

それは野次馬が撮影したダルマにブルーシートを被せる警察の様子だった。

シートからはみ出した手が生々しい。

画像を閉じようとマウスを動かしたら間違って最大化してしまい、気づいた。

「あの子だ…」

それは向こう側に立っている野次馬の最前列。

服は血に濡れてなどいないし不思議な武器も持っていない。

そして小さくてよく見えないが瞳は両方とも翠色であるが、間違いなく夢で見た彼女だった。

「は、はは…」

笑いが漏れる。

犯人は現場に戻るというのは本当だったことが妙におかしかった。

そして一番笑えてきた理由、それは彼女がまるで僕を睨んでいるように映っていたからだった。

僕は画像だけを保存して記事を削除する。

別に起こってしまった過去に興味はない。

僕はただ気まぐれな夢の見せる次の未来を心待ちにしながら眠りにつくだけだ。

だけど、あの女の子のことだけは唯一興味を持てる過去だった。


僕はまた夢を見る。

(ここはどこなんだ?)

一面砂漠でここがどこなのか分からない。地平線までもが砂漠に覆われた大地に1人立っている。

(これは、地球が滅んだ日、なのか?)

このInnocent Visionがどこまで先の未来を見せてくれるのかを僕は知らない。

だからこれは明日の光景かもしれないし何万年後かもしれない。

ただ一つ言えることはいずれ地球がこの末路を迎えるということだ。

その荒廃した世界の真ん中で、僕は砂塵の向こうに人影を見た気がした。


今日の夢は漠然としすぎていたがとりあえずアップすることにした。

『地球は将来的には滅びる。』

書いてみてどうかと思った。

それでも数時間に見てみると昨日の反響が残っているらしくいつ頃滅びるのか、むしろいつ滅ぼすのかと半ば冗談混じりでいくつかのコメントがあった。

そして

『そこであなたは何を見ましたか?』

今日もピエロのコメントがあり、意味深だった。

それはまるで僕が何か見たと言うことを知っているようにも感じられた。

きっと僕は気づかぬうちに興奮していたんだ。

未来に興味があって過去に興味がない僕が、今の相手に興味を持ってしまったから。

震える手でピエロのコメントにレスを書いていた。

『君は誰?』

別に返信は期待していなかった。

そもそも掲示板なんて四六時中見ている人の方が珍しいくらいだからまた夜にでも確認しようと席を立とうとした。

そこに

『学校で』

ただ一言、返信があった。


僕は自分が思っている以上に馬鹿だったみたいで、日が沈んだ夕方に席だけまだ置いている学校に訪れていた。

まだ教員は残っているらしく職員室には明かりが灯っていた。

そこを避けて昇降口に行き下駄箱を開ける。

入学式以来来ていなかったからてっきり無くなっているかと思ったが上履きはそこにあった。

靴を履き替えて僕は階段に足をかけた。

階段をゆっくりと上りつつ考えるのはピエロのこと。

(警察関係者と記者は消えた。)

両者とも学校とはなんの関わりもなく僕が来るまでに教員に見つかったときに言い逃れができない。

そんな相手が学校を指定するとは考えづらい。

しかもピエロは僕が学生であることを知っていた。

ならば学生である可能性が高く、僕の噂を聞く機会があるとすれば同じ学校の生徒という考えに行き着いた。

(こういうのもInnocent Visionがわかると楽なんだけど、あれは気ままだからね。)

苦笑を漏らしつつ屋上へと向かう。

なんとなくだがピエロはそこにいる気がした。


 重たいドアを開けると紺色の空が上空に広がっていた。

そして、こちらを向いて立っている1人の女子生徒がいた。

残念ながら例の女の子ではないがどちらにしても初対面だ。

女子生徒は入ってきた僕を見てニヤリと笑った。

実に活発そうな雰囲気が暗がりの中でもよくわかる。

「よく来てくれたね、インヴィ。」

「インヴィ?」

「ああ、ごめんごめん。うちらの間でのInnocent Visionのあだ名よ。なかなか良いでしょ?」

僕は彼女に背を向けないようにゆっくりとドアを後ろ手に閉める。

僕は目の前の彼女を警戒している。

彼女は口調こそフレンドリーだがその瞳は暗い空の下だというのにギラギラしていて獲物を見つけた狩猟動物めいていた。

悪寒で首筋から冷や汗が背中を伝った。

「君が、ピエロなのか?」

女子生徒はやや芝居がかった仕草でお辞儀をした。

「そうよ。あたしは神峰美保(かみねみほ)、あなたは半場陸でオーケー?」

僕はゆっくりと頷く。

予想通りピエロはここの学生でやっぱり僕のことを知っていた。

「入学式の大乱闘を予言して忽然と消えた男子がいる、さすがに半年も経てばみんな忘れていくけどうちらはあの掲示板を見たときに確信したのよ。あんたがインヴィだってね。まさかそっちからも興味を持ってくれるなんて思わなかったけどね。」

神峰はあたしでは無くうちらという。

つまりサークルないしグループがあるということか。

「詳細を聞きたがったのは何で?止めようとした…訳じゃないよね。」

それは神峰が正義の味方と呼ばれる部類の人間ではないとわかるから。

どちらかと言えば自分の欲求のために悪事に手を染めるヒールのタイプと見た。

神峰はおかしそうに笑う。

それがすごく不気味だった。

「もちろん。うちらは知りたかったのよ。インヴィには何がどこまで見えているのかを。まあ、一度も返事はくれなかったけど。」

なんと答えればいいかわからずわずかな沈黙が生まれる。

神峰は胡散臭いくらい笑みを浮かべてじっと僕を見ていた。

「ねえ、犯人を見たんでしょ?」

「…」

口許には笑みを浮かべているのに神峰の瞳はまったく笑っておらず狂気の色を宿していた。

それは朱。

神峰の瞳はまるであの女の子のよう左目だけが赤く染まっていた。

「教えてよ。ねえ?」

僕はまばたきをする間も惜しんで逃げる隙を窺う。

1、2、3。

3度目に瞬きをした時、

神峰の右手には一瞬前まで確かに存在しなかった装飾剣が握られていた。

形こそ違うがやはりそれもあの女の子と同じ。

「ぐっ!」

突然襲ってきた頭痛に耐えきれずしゃがみこみ、

それが致命的なミスだと気づいたときには遅かった。

「もう少し話しててもよかったんだけど…」

その声は真上から聞こえた。

見上げた僕の目には月を背に嗤う女の子の形をした化け物が剣を突き下ろそうとしていた。

「だけど、もう無理。バイバイ。」

軽く挨拶を交わすみたいな声で白銀の刃が僕の胸に突き出された。


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