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Innocent Vision  作者: MCFL
181/189

第181話 集結する力

悠莉の突飛な発言に叶は目を白黒させた。

「申し訳ございません、悠莉様。現在ティーセットが手元にございません。お茶の御用意は戦闘後でよろしいでしょうか?」

葵衣も冗談だか本気だかよくわからない反応を返すため叶は余計に混乱した。

悠莉は困惑する叶を見て久々に悪い癖で恍惚とした表情を浮かべていた。

「お茶というのは冗談です。魔女の戦力分析と後方支援が今の私たちにすべきことです。作倉さんは誰かが怪我をしたときに備えていてもらえますか?」

「は、はい。」

悠莉は表情を元に戻して至極真っ当な答えを返した。

悠莉の見せる茶目っ気についていけず叶は目を白黒させるばかりだ。

「悠莉ちゃんが叶ちゃんで遊んでる。」

「叶の反応は見てると可愛いですから。」

蘭と真奈美はファブレに注視しながら後ろの会話に耳をそば立てる。

血生臭い戦いの合間の美少女同士の絡み合いは清涼剤として心の活力になる。

叶はどこにいても癒しの存在だった。

「…それで、どうですか、蘭ちゃん先輩?」

「…アズライトは見つからないね。もっと体の奥にあるのか、頭のところか。」

「あたしの方もアダマスの気配が強すぎて分からないです。」

2人はInnocent Visionの魔石、アズライトを探していたがファブレに取り込まれて以来力の存在を感じられなくなっていた。

「セイバーの力なら有効打を与えられると思うんですけど行きましょうか?」

「あの再生能力だとセイントの力でも倒すのは難しそうだね。真奈美ちゃんと叶ちゃんの力は最後の最後まで取っておかないと。そこまではランたちが連れていくよ。」


由良たちが再び攻撃を開始した。

八重花の炎がうねり、明夜の刃が切り裂き、由良の振動が大気を震わせる。

「きさまらァ!」

それでもファブレは倒れない。

無限とも思える再生を繰り返し、あの醜い姿を受け入れたのか触手による攻撃が激しさを増した。

「こうなれば、きさまらの魔石も取り込んでくれるわ!」

触手がソーサリスごと飲み込もうと触手を伸ばす。

十数本の気色悪い肉の腕は

「はっ!」

「行って、白鶴!」

葵衣と緑里の連携により打ち落とされていく。

「オオオオオ!」

ファブレがアダマスを乱射し始めたので全員が後退する。

攻撃しながらも再生していく化け物だがその回復速度は初めよりも落ちてきた。

「これだと近づけないな。っと、しかもブリリアントの威力は半端じゃない。遠くにいても安全じゃないな。」

「そこはランに任せて。誰1人ジュって消滅させないよ。」

「確かにジュって消えるのはやだ。」

蘭が前に出てオブシディアンを構える。

飛んできたブリリアントを目視で捉え

「てぇい!」

裏拳のように光を弾き飛ばした。

戦い方は真奈美の時と同じ。

受けるのではなく受け流す。

飄々とした蘭らしい戦闘スタイルだ。

蘭はソーサリスのいる一帯のみを防御の対象としてその領域を侵す攻撃のみを打ち払っていく。

「カトレアァ!」

「カトレアじゃなくてランだよ!」

真正面から蘭を狙った極大のブリリアントに対し蘭は逃げずにグッと足を踏ん張る。

「アイギス!」

オブシディアンがエネルギーの盾を展開しブリリアントを受け止める。

バチバチと光が弾け、アイギスにヒビが入るが蘭は笑っていた。

「ランは守護する者。仲間を守りたいと思う強さ、見せてあげる!」

アイギスはひび割れながらも砕けない。

やがてブリリアントが勢いを失い、アイギスも砕けたが蘭を含めて誰1人としてダメージを受けていなかった。

「たっぷり時間を稼いだよ、撫子ちゃん。」

膝をつきながらも蘭はやり遂げたような顔で笑う。

ファブレはそこでようやく撫子とヘレナがいないことに気が付いて首を巡らせた。

そして巨体が仇となって生まれた死角である背後に


光と闇の太陽が浮かび上がっていた。



「ナデシコ、大丈夫ですの?」

「問題ありません。ヘレナさんこそブラックナイトメアの制御はお辛いでしょう?」

2人は並び立って空を見上げた。

ブラックナイトメアは物質やエネルギーを吸収して巨大化していくグラマリーである。

今のブラックナイトメアは隣に浮かぶコロナから絶えずエネルギーを受け取って膨らみ続けていた。

「ワタクシが願い出たことですもの。ユーリのグラマリーを見て閃いてしまったのですから。」

無限に思えるブラックナイトメアの容量にも限界がある。

それはブラックナイトメアのサイズに比例した重量を楔であるヘレナが受け止められる範囲だ。

「ぐぅ!」

ヘレナの足元の地面はあまりの重量に陥没していてヘレナの足は震えている。

撫子は倒れそうになったヘレナを支えた。

「ナデシコ…」

「ヘレナさんとはこうして共に戦う機会が殆んどありませんでしたね。わたくしにとって貴女は数少ない友人です。この一撃、わたくしたちの絆を魔女に見せてあげましょう。」

「なっ!?」

ヘレナの顔が真っ赤に染まる。

ナデシコがまさか友人だと思っていたなんてまるで考えたことがなかった。

「ワ、ワタクシは…ライバルですわ!」

「そうですね。友人であり、ライバルです。」

グッと足に力が入る。

その体を撫子が支える。

思いは1つになった。

見据える先はファブレ。

「ヘレナさん、行きます!」

「よろしくてよ!」

撫子はコロナをブラックナイトメアへ向けて放つ。

「くああああ!」

膨大なエネルギーにブラックナイトメアが歪む。

それでも、ヘレナは倒れなかった。

ほとんど無意識に撫子の手をギュッと握って襲い掛かる重圧に耐えた。

全てのエネルギーを出し終えてコロナは消滅し、ブラックナイトメアから溢れ出した光はまるで日食のようだった。

「受けなさい。これがわたくしたちの思い!」

「ワタクシたちの未来を好きにはさせませんわ!」

眩しい黒き球体が2人の思いに応えて膨れ上がる。


「「サンエクリプス!」」


内部で超高密度に圧縮されたコロナのエネルギーは外界に飛び出した瞬間に青白い雷光を纏う光とも呼べないエネルギーの波動となって撃ち出された。

高熱の嵐は周囲の空気を分解しながらファブレに迫る。

「ブリリアントォ!」

本体は動けずとも触手は自由自在に動くためファブレはアダマスの照準を合わせて消滅の光を放った。

触れたものを消滅させる力。

しかしサンエクリプスに込められた膨大な量の熱や光のエネルギーが大きすぎて、プラズマ化した空気が絶えず生成するためブリリアントはプラズマを消すだけで本体には届かない。

「おのれぇぇ!」

無数の触手が寄り集まって肉の壁となる。

サンエクリプスはそれすらも焼き滅ぼしてファブレに直撃した。



サンエクリプスのぶつかった大地は粉塵を盛大に巻き上げた上にキノコ雲まで発生させていた。

「お嬢様。ご無事ですか?」

葵衣はすぐに駆け寄って撫子とヘレナを支えながら皆の所に戻る。

もうもうと煙を吹き上げる爆心地を横目に見ながら撫子は微笑む。

「わたくしたちは半場さんを鍛え上げるための駒ではありません。たとえその意図で力を与えられたのだとしてもこの力を使うのはわたくしたちの意思なのですから。」

「ヴァルキリーを見くびりすぎましたわね。」

ヘレナも告げ、2人で笑い合う。

「しかし、あの威力では完全に蒸発してしまった可能性もありますが。」

「「あ…」」

葵衣の一言に撫子とヘレナは口を半開きにして硬直した。

原子爆弾のようなグラマリーは少なくとも人間ならば生体成分の全てを分解するだけのエネルギーを宿しているため文字通り塵も残さない威力を秘めている。

ファブレは変異した化け物だったとはいえ構成成分は人と大きく変わることはないはずで、

「魔石とはいえ石ですが、無事なのでしょうか?」

「「…。」」

葵衣の疑問に2人は答えられず冷や汗を流した。

この時ばかりはファブレが本当の化け物であることを願った。


そして、その願いは歪んだ形で叶う。



キノコ雲の発生地点から触手が飛び出してきた。

それは数えきれないほどの数で目でもついているかのようにソーサリスに襲い掛かる。

「なんだ!?」

「きゃあ、気持ち悪い!」

「あの攻撃でさえ倒せませんか。」

口々に驚きの声をあげながら襲い来る触手を迎撃する。

だが1本倒すと2本になって返ってくるような物量に防戦を強いられる。

「あっ、陸君が!」

物理的な戦力としては微力ながらオリビンで戦っていた叶がいち早く陸に向かって伸びる触手に気付いた。

だが叶の身体能力では届かないし他の皆も1人で10本近くを相手にしていて余裕がなかった。

「八重花ちゃん!」

「無理よ!私の炎で焼いたらりくまで燃えるわ!」

一番近くにいた、陸が思考の全てである八重花でさえ救援に駆けつけられない状況に叶はオリビンを見つめた。

「…うん。陸君を守ってあげて。」

それは決意。

自らの武器であり守りの要となるオリビンを投げて陸を守ろうという捨て身の献身。

叶はグッとオリビンを握って振り被り

「その必要はありませんよ。」

それより早く悠莉が投げた何かが視界を横切った。

それは青い宝石。

「さあ、出番です。カプ○ル怪獣…」

『セブ○!?』

くるくると回りながら陸の前で跳ねた宝石はピシリとひびが入り

「等々力先輩。」

悠莉の掛け声により爆発した。

飛び出してきたのは

「えーん。もう出してよー。」

膝を抱えて震えているお世辞にも頼もしいとは言い難い良子だった。

「等々力先輩、もう一度入りたくないのなら戦ってください。敵は目の前ですよ。」

悠莉の言葉に良子はハッと顔を上げる。

陸の前でうずくまっていたので良子の眼前に触手が迫る形だった。

「!?ラトナラジュ!」

咄嗟に真紅の鉾槍を顕現させた良子は足を大きく開くとそのまま一回転しその遠心力を上乗せした斬撃で触手をまとめて薙ぎ払った。

「その調子で半場さんのことを守ってあげて下さい。」

「え?なに?半場って…うわっ、インヴィ!?なにこれ、どういうことなんだ?」

困惑しつつも迫る脅威はしっかり払い除ける良子。

「そしてもうひとつ。」

悠莉はポケットから先程と同じ形をした宝石を取り出した。

「ユーリ!?それを使ってしまって大丈夫なんですの?」

その中身はすぐに予想でき、セレナイトで触手を切り裂きながらヘレナは不安を口にした。

その宝石に封じられているのはヴァルキリーに反旗を翻した言うなれば戦犯であり、それを解き放つことは更なる危険を呼び込むことになるのではないかという懸念があった。

「問題ありません。」

悠莉は迷うことなく答えてスナップを効かせて宝石を投げた。

「美保さん、君に決めた。」

『ポケ○ン!?』

地面に投げつけられた宝石はそのまま粉々に砕け散って

「…」

その中から呆然と立ち尽くす美保が出てきた。

その表情に生気はなく、人形のようだった。

「美保さん。」

「!?ゆ、悠莉!ごめんなさい、あたしが悪かったわ!」

悠莉に呼ばれた瞬間、美保は全力土下座。

主従関係がしっかりと躾られているようだった。

「さっそくお仕事で申し訳ないんですが、敵襲です。」

「え?」

美保が顔をあげるとすでに触手は美保に絡み付いていた。

「な、な、なにこの気持ち悪いの!?」

「魔女の手先です。」

それを聞いた途端怯えていた美保の眼鏡の奥の瞳がギラリと光り、口端がつり上がった。

「…へえ、つまりぶっ飛ばしていいわけね?」

「構いませんよ。早くしないと美保さんが最初の餌食になりますし。」

「へ?」

数本の触手に絡め取られた美保はいまだ煙が残る爆心地に引き寄せられていく。

その奥で朱色の目が光ったように見えたが美保はむしろ笑みを強めた。

「何でもいいわ!むしゃくしゃしてたから思いっきり暴れたかったのよ。スマラグド!」

触手の絡まった腕に現れる細身の装飾剣。

ソルシエールを振るえない状況も美保にとっては不利にもならない。

「レイズハート!」

翠色の光の傷が刀身から溢れだし瞬く間に天上の星のごとく空中に待機した。

「切り裂きなさい!」

美保の指示が出た瞬間、翠の光の豪雨は一斉に急降下した。

もはや点や線を超える面による攻撃は触手を押し潰すように全てを破壊していく。

それは煙の中にまで及び、ようやく触手の活動が止まった。

美保はスマラグドを手に煙の向こうを睨み付ける。

「いきなりだったけど、そろそろ姿を現してもらいましょうかね。」

煙の向こうが蠢き、朱色の目が輝きを増した。


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