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Innocent Vision  作者: MCFL
125/189

第125話 戦いで得られたもの

明夜は両手の刃を交差させる構えをとって美保と悠莉に相対した。

「帰るから、邪魔をしないで。」

「地図を渡してもらえればすぐに帰りますよ。」

悠莉からは戦意を感じず笑顔を浮かべている。

だが、この状況で笑っていることが異常に思えた。

「地図は持ってない。」

明夜は簡潔に答えるとグッと足に力を込めた。

悠莉は困ったような笑顔を浮かべて頬に手を当てる。

「交渉決裂ですか。それなら仕方がありませんね。美保さん。」

悠莉が半歩道を譲った瞬間、翠の光刃が悠莉スレスレを明夜に向けて飛来した。

「!」

完全に不意を突かれた一撃を明夜は超人的な反射神経で応対、交差させた刃をぶつけて防いだ。

「うわ、あれを無傷って…緑里先輩が愚痴るわ、これ。ありえないもの。」

「もしかしてあなたもInnocent Visionを持っているんですか?」

あんな化け物じみた力がゴロゴロ転がっているわけがない。

悠莉は自分でも信じていないことを尋ねる。

案の定明夜は首を横に振った。

「見てから動いただけ。」

「それも十分、化け物ですよね。」

悠莉もまたサフェイロスを取り出して隣に並んだ美保と共に構える。

「なんでもいい。私はただ、邪魔をする相手を倒すだけ。」

簡潔で明確な戦意を露にして明夜は青と翠の騎士に突撃した。



「ジプサム、奪いなさい。」

掛け声と同時に暗黒に落ちた路地裏の世界。

ヘレナは漆黒のマントに身を包み姿を隠す。

緑里もまた式符を取り出して放りあげた。

式符は闇の色に染まって舞い、緑里の体が瞬く間に闇へと溶けて見えなくなる。

由良は玻璃を右手に持って全周を警戒するように広いスタンスを取った。

「闇討ちか。いよいよ盗賊らしくなったな。」

「お黙りなさい!」

喚く声は横から。

由良は声を足掛かりにヘレナの位置を予測して玻璃を合わせて振るう。

ガギンと2つのソルシエールがかち合った。

「せっかく隠れてるのに大声を出したら意味ないぞ?」

「くぅっ!」

眼前に居るのに闇の向こうにいるように見えるヘレナが悔しそうに歯噛みする。

「それと…」

由良の完全な死角をつく形で緑里がベリルを突き立てようと駆ける。

由良は、まるで緑里が見えているように振り返って力強く笑っていた。

「俺を囲むと怪我するぞ。」

「!!ジプ…」

ヘレナがジプサムを使って奪おうとするがすでに遅い。

セレナイトとぶつかり合っていた玻璃がギギギと音を立てて振動し空間を軋ませる。

「超音振!」

激震が闇の世界を震わせた。



蘭は隣接したビルの非常階段の手すりに身を預けて下を眺めていた。

「やめ、なさい。」

下には総勢十数人のジュエルと統率者である葵衣の姿があった。

だが訓練された陣形は千々に乱れ、集団の名残は皆無だった。

ガキン

キンッ

「やあぁぁ!」

なぜなら、そこにいるすべてがまるで互いを敵と認識してしまったように戦っていたから。

見下ろす蘭の左手でオブシディアンが淡い光を宿していた。

「ゲシュタルト・サイコ。みんな、自分に素直になりなよ。くふふ。」

ゲシュタルト・サイコ。

自己の存在を否定することで精神崩壊を誘起させるゲシュタルトの一面的な特性を利用し、鏡の中に写し出された自分の本性と会話し認めさせることで行動を縛っていた理性を取り払う精神攻撃である。

使う相手を選ぶ技だがジュエルのように利益に走って仲間を信じていない相手に用いれば

『あの子は自分がのしあがるために私を踏み台にするつもりよ。』

『あいつがいなければ私はヴァルキリーに目をかけてもらえるはず。』

疑心暗鬼を膨らませて『あいつさえいなければ』と思わせるのは簡単だ。

「ずっと目障りだったのよ!」

「それはこっちのセリフよ!」

「ちょっとスタイルがいいからって図に乗るんじゃない!」

「成績がいいからなんだってのよ!」

妬み、ひがみ、逆恨み。

女の負の感情が具現化した戦場は罵り合うキャットファイトの様相を呈していた。

ソーサリスとして蘭のグラマリーに多少の抵抗力があり、普段から強く自分を律することをしてきた葵衣には通用しなかったが、それ故にジュエルはソーサリスとの力の差を見せつけられて醜い憎悪を抱く。

「どうして私がジュエルで、ヴァルキリーじゃないのよ!?」

葵衣は部下を攻撃するわけにもいかず防戦一方で、蘭はただ見ているだけだった。



ヒュン、ヒュン

スッ、バシュ

暗闇に染まった路地を断続的に翠色の光が駆け抜けて幻想的な色彩を生み出す。

だがそれは破壊の力。

明夜を倒すために振るわれる美保の攻撃だった。

「当たれ、当たりなさい。この、この!」

ヒュン、ヒュン

刀身に纏った翠の光がスマラグドを振るう度に光刃として撃ち出される。

出ているのは剣が空を切る音だ。

だが明夜は光刃をかわし、打ち落とす。

飛来する光をステップでかわしながら前進し

「ここから先は通行止めです。」

振るう刃は悠莉の作り出したコランダムの青い壁に阻まれた。

「このぉ!」

至近距離での硬直に美保は素早く対応しスマラグドを振るうが明夜は曲芸染みたバク宙で回避。

「今度こそ!」

空中の無防備なところを美保は狙うが体の捻りでかわされ直撃コースも刃に弾かれた。

タンと地面に降り立った明夜は何事もなかったように構えを取った。

「むきー!何かムカつく!」

「これは…あれですね。」

悠莉は思い出すように人差し指をこめかみに当てて首を左右に揺らす。

「ゲームセンターにあるという、インベーダーゲーム?」

「…悠莉、あんたいつの時代の人間よ。」

今時インベーダーゲームは置いていない。

だがシールドがあって弾を撃って近付いてくる敵を狙う構図はまさに往年のシューティングゲームそのものだ。

ただ一点、標的が弾を避け続ける以外は。

明夜は左手の刃を胸の前まで引き寄せてグッと力を込めた。

刀身に力が宿り陽炎が空間を歪める。

「何かやろうとしてるわね。させないわよ!」

変身中のヒーローを攻撃してはいけない、みたいなルールが戦いに存在するわけもなく変身やチャージはむしろ隙と見て問題ない。

普通チャージは別の技で牽制しておいてその間に力を溜めるのがセオリーだが明夜のソレはこれでもかと言うくらい無防備だった。

絶好の好機を逃すはずもなく美保は光刃を放った。

「っ、よしっ!直撃!」

初めてのヒットに美保は拳を握って喜ぶ。

明夜は刃を盾のように立ててしゃがみこんでいたが表情は不服そうだった。

「上手くできなかった。」

「何のことよ?」

明夜が自分のことを見ていないことに気付いた美保は青筋を浮かべながら尋ねた。

明夜は何度も刃を振っては首を捻る。

「光も力も飛ばない。」

「はっ。出来るわけないじゃない。」

美保は鼻で笑った。

光刃は「光を操る力」の応用で生み出した美保の技だ。

それを真似できるのはヘレナのジプサムくらいだと、無駄な努力だと笑った。

「今度、練習する。」

「だから無駄だって言ってんでしょ!」

聞き分けのない明夜の態度に美保はキレて頭をガリガリと掻く。

スマラグドの刀身が目映いエメラルドグリーンの輝きを放ち溢れ出した力が風を巻き起こす。

「ウザいから死…」

「だから、今回は別の方法で排除する。」

「美保さんっ!」

美保がスマラグドを振り被った瞬間、明夜の抑揚のない声と悠莉の叫びが同時に響いた。

双方の声に首をどちらに向けるべきかも判断できず固まった美保の後ろで

「コランダム!」

悠莉が切羽詰まったような声をあげて周囲に青い壁を展開、直後ガギンと重たい金属音が耳から脳に届いた。

「…え?」

ようやく背後からの攻撃があった事実を理解した美保はますます混乱した。

("Innocent Vision"は4人、全員にヴァルキリーが向かった。逃がしたって連絡はない。それなら後ろにいるのは誰なの?まさか"Innocent Vision"に新しいソーサリスが?)

混乱は見えない敵の存在を否応なしに肥大化させ、集中が途切れてスマラグドの光は霧散した。

「しっかりしてください、美保さんっ!」

ハッと顔をあげると正面から明夜が左の刃を突き出して迫っていた。

全周を覆うように展開したコランダムを貫けるとは思わなかったが美保は"守り"に入ることを拒んだ。

「あたしを、なめるな!」

美保の左目が煌々と朱色を放ち、スマラグドもまた翠の光を放つ。

「ッ!?」

明夜の体が一瞬硬直したように見えた。

美保は大地を蹴って無我夢中でスマラグドを振るい刃を弾き飛ばした。

「今のは!?」

明夜が体勢を崩しながら驚愕の表情を浮かべていた。

美保が追撃する前に大きく飛び退いて距離を取った。

振り返れば悠莉の背中の向こうには右手が剣となった女性型の細身の西洋甲冑、アフロディーテがいた。

「いつの間に。」

魔力の溜め自体が囮だったと気付いて美保は怒りに顔を歪める。

明夜はなぜか警戒したように距離を取っていた。

「…撤退する。」

言うが早いか明夜は踵を返して表通りの方に駆けていってしまった。

唖然と見送る2人。

いつの間にかアフロディーテもいなくなっていた。

「逃げられ、ましたね?」

「うがー!」

ようやく地図を手に入れるのが任務だったことを思い出し、美保の叫びが路地裏に木霊した。



「くぅ、やはりあの超音振は厄介ですわ。」

「強制脳震盪じゃ防ぎようがないからね。」

ヘレナと緑里は超音振の発動直前に全速力で距離を取りどうにか効果範囲から逃れていた。

超音振から逃げ切れるのはかなりの速度であるため誇れるのだが逃げの一手を取ってしまったことを2人は悔やんでいた。

「しかも逃げられましたわ!」

「完全にボクたちの行動を読まれたね。」

2人のスピードが超音振の有効範囲外に逃げられることを分かった上で2人から距離を取るためにあえて超音振を撃った。

それは攻撃ではなく逃げるため。

戦略の力の差を見せつけられた気がして2人は悔しさに拳を震わせていた。



キャットファイトは続く。

だが十数人いたジュエルは次々に疲れはてて地面に転がっていった。

「そろそろ終わりかな?」

蘭は観客席である欄干から身を離す。

「逃がしません!」

いつの間にか階段を登ってきた葵衣がセレスタイトを手に駆け上がってくる。

蘭は不敵な笑みを浮かべながら見下ろし、刃が迫り、

「撫子ちゃん。」

たった一言で葵衣の動きを拘束した。

「お嬢、様?」

「そうだよ。下にいるのは撫子ちゃんの邪魔をする悪いやつらなの。このままにしておいたらきっと…」

優しく耳元で囁かれる声に全身が震える。

(負けるわけには、いきません。)

葵衣はグッと唇を噛んで流されそうになる意識を堪えて蘭を睨み付ける。

蘭はいとおしげに微笑みながら葵衣の頬に手を伸ばし

「葵衣。」

撫子の幻を自分に重ねた。

「あ…」

現実と幻想の狭間に引き込まれた葵衣にはもう撫子の幻しか見えない。

そして、撫子を邪魔する敵の存在しか。


「弱点が丸見えなんだよ、葵衣ちゃん。」

蘭は戦場を後にする。

「ぎゃっ!」

「ぐふっ!」

背後からは悲鳴と水音が絶えず響いていた。



良子が戻ってきたとき、そこにいたのは八重花だけだった。

「八重花、殺ったの?」

喜びを滲ませて尋ねると

「…何か言いましたか?」

怒気を隠しもしない笑みを浮かべたままジオードを首筋にあてがわれた。

降参を示すように両手を挙げると不機嫌そうに刃を引いた。

「それならインヴィはどこに行ったんだ?」

「…逃げられました。」

八重花は悔しそうに顔を横に向けてボソリと呟いた。

「逃げられた?八重花が慈悲で逃がしたんじゃなくて?」

良子は別に逃がしたことを怒るつもりはない。

だが逃げられたとなれば陸には八重花をかわすだけの力があるということになる。

「まさか本当に逃げ切られるとは思わなかった。」

八重花は力なく地面を指差した。

そこには熱で半分溶けたマンホールがある。

「ジオードとドルーズをかわされて、あそこに逃げ込んで炎を防ぎつつ蓋を開かなくして逃げたんです。」

「はぁ。下水使って逃げるなんてドラマだけだと思ってた。」

変な風に感心しつつ良子と八重花は顔を見合わせた。

と、同時に携帯が鳴り出した。

メールの受信を知らせる画面を切り替えてメールを確認した良子と八重花は目を見開いて顔を見合わせた。

差出人は花鳳撫子。

内容は


『全作戦失敗。海原葵衣を大量虐殺の罪で拘束。至急集合せよ。』


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