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Innocent Vision  作者: MCFL
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第120話 予定通りのハプニング

翌日デートプランを渡して芳賀君が狂喜乱舞し、夜は皆でジェム狩りをし、そんな平和なようで物騒な日々を過ごして数日、ある意味運命の日曜日がやって来た。

僕はわりと朝早くから八重花のモーニングコールで起こされ、早めに支度をして予定より早めに目的地であるコーヒーショップに到着した。

ブレンドを頼んでプランのスタート地点が見える席を確保する。

(芳賀君は…いた。)

駅前の噴水の前に遠目にも緊張しているのが伝わってくる芳賀君の姿があった。

まだ待ち合わせ30分前なのにもういるとは少し驚いた。

「りく、早いのね。」

コーヒーを飲みながら友人の緊張した姿を眺めるという悪趣味なことをしていたら八重花がやって来た。

こちらもいかにもデートのために張り切っておしゃれしました感が滲み出ていて素直に似合うと思った。

「…。」

「ふふ。」

あえて何も言わなくてもバレバレらしく嬉しそうに微笑まれてしまった。

隣に座った八重花に芳賀君を指差して教えると

「…フッ。」

実に小馬鹿にした笑いを漏らしていた。

芳賀君は僕があげたプラン表を取り出してしきりに中身を確認している。

「まさか裕子の前でもあれを見て行動する訳じゃないでしょうね?」

「覚えようとしてるから違うと思うよ?」

フォローしておかないと八重花が飛び出していきそうなのでこれはこれで大変だ。

そんなこんなで約束の5分前、9時55分、久住さんの姿はない。

「芳賀君ソワソワしております。どう思われますか、解説の八重花さん?」

「裕子は時間にルーズな子。それをいかに許容できるかもポイントですね。」

小声でこんなことをして笑い合う僕らはきっと酷い奴らだ。

やがて時計の針が10時を差した。

久住さんの姿は…やっぱりない。

「芳賀君、すでに項垂れている!」

「あれが捨てられた男の姿よ。りくはああならないようにしなさい。」

見ていられないが見ないわけにはいかない歯がゆさを感じる。

僕には久住さんが早く来てくれることを願うばかりだ。

「来たわ。」

八重花の声に祈りの姿勢から顔を上げると久住さんが頭を掻きながら苦笑いしていた。

ごめんねー、待った?

いや、今来た所だよ。

そんな会話がされているのは目に見えて明らかだった。

「りく、そろそろ出るわよ。」

「ラジャー。」

僕たちは席を立って店を飛び出し

「あれ?半場君と八重花ちゃん?」

店を出た瞬間に叶さんと遭遇した。

「か、叶?どうしてここに?」

「お散歩、かな?でも2人に会えるなんて驚いたよ。」

八重花はしきりに芳賀君たちを気にしている。

運悪く2人が駅に向かって歩き出そうとしてるところだった。

「?あっちに何かあるの?」

僕たちの視線の先が気になるのか叶さんは振り返ったりしているが置いていくわけにもいかない。

「八重花。」

「…わかってるわ。ふぅ、私も運が悪いわね。叶にも一枚噛ませてあげる。」

「?」

こうして急遽叶さんを加えた僕たち3人は出歯亀に赴くのであった。



2人はまず臨海へと向かった。

海の見える光景は普段馴染みが薄い分ワクワクする。

そこでまず映画。

古典的な恋愛映画とアクションものがあり、僕たちのプランでは恋愛映画だった。

「どうも久住さんはアクション映画が見たいみたいだね。」

「前売り券を買っておけばよかったものを。」

「私この恋愛映画観たかったんです。入るんですか?」

出歯亀と知りつつ楽しむ気満々の叶さんに呆れつつ成り行きを見守っていると結局芳賀君が押し負けてアクション映画に入っていった。

「…どうしよっか?」

「アクション映画はちょっと。」

「あのモブ!」

結局映画館には入らず近くのファーストフードで出てくるのを待つことにした。

改めて今回の主旨を説明すると叶さんはクスクスと笑った。

「優しいんだね、半場君も八重花ちゃんも。」

それを善意と取るか皮肉と取るか迷ったが善意とした。

だって叶さんだから。

「でもアクション映画に入っちゃいましたけど、いきなり作戦失敗なんですか?」

「そうでもないわ。一応こういう事態も想定して作ってあるのよ。」

確かにプラン表には不測の事態に備えた準備がなされている。

「過保護というかやりすぎというか。」

「優しさよ。」

臆面もなく言い切る八重花に嘆息。

叶さんはそんな僕たちを見て笑っていた。


「出てきましたね。」

「久住さんはハイテンションだけど芳賀君は笑顔がひきつってるね。」

「行くわよ。」

僕たちは慌ててトレーを片付けて2人を追った。

久住さんは大層アクション映画が気に入ったらしく話ながら拳を振り回していた。

「予定だと恋愛映画の余韻を引きずりつつ静かな美術館でしっとりって感じだけど…」

「あのまま美術館に入ったらうるさくて閉め出されるわよ。」

芳賀君はもういっぱいいっぱいなのが背中から伝わってくる。

「美術館とは違う方に行きましたね?」

叶さんの言う通り美術館ではなくショッピングモールの方に2人は向かっていた。

「モブの機転とは思えないから裕子の提案ね。」

「もうちょっと芳賀君を信じてあげようよ。…僕も同意見だけど。」

「は、芳賀君も頑張ってると思います、よ?」

皆が芳賀君に信頼を抱けぬままコースを外れてショッピングへと繰り出していく。


服や靴、鞄や小物。

そういったものを一緒に選んでいる姿は確かに恋人同士だった。

「八重花ちゃん、これ可愛くない?」

「叶にはちょっと派手よ。あっちの…」

こちらの女性陣も友達同士で買い物に来たように見える。

よって余った僕は1人で来たようにブラブラと散策するだけ。

(さ、寂しくなんてないんだからね!)

とツンデレな感じを醸し出しても仕方がないので我慢する。

「りく、ちょっと来て。」

「試着室に連れ込むのと下着売り場に連れていくのじゃなければ、何?」

「…何でもない。」

八重花はすごすごと引き下がった。

本当に何をする気だったんだ?

興味はあったが好奇心は猫を殺すらしいので自重する。

「半場君は普段どういう服を選んでるんですか?」

代わりに近づいてきた叶さんは逆にそんな質問をしてきた。

さりげなく服の肘の辺りを摘まんでいるところに積極性を感じる。

それを見逃す八重花ではなく反対の腕に抱きついてきた。

「私が選んであげる。」

「あ、八重花ちゃん、ずるい。」

叶さんも腕に抱きついてきて引っ張り合う。

「痛いから、やめて。」

正確に言えば抱きつかれている腕の感触の方が強烈だがそれを口に出すわけにもいかない。

ただでさえ騒いでいて周囲の目が…

「ッ!」

僕は咄嗟に2人の頭を抱えてしゃがみ込む。

芳賀君たちが振り返ろうとしていたのだ。

たぶん見られてはいないはず。

「ふぅ。」

安堵のため息をついた僕は

「…。」

「…。」

急接近していた2人の顔に心臓が止まりかけた。

何かを期待するような目をした八重花と抱き寄せたことで真っ赤になっている叶さん。

ドキドキと心臓が異様なリズムで鼓動を刻む。

このままどちらを振り向いても大変なことになる。

僕は…

「お客様、大丈夫ですか?」

突然声をかけられて体が硬直した。

八重花はすぐに元に戻り

「ちょっとふらついたみたいで。叶、立たせるわよ。」

「う、うん。せーの。」

咄嗟のことだというのに叶さんもうまく合わせてくれた。

「体調が悪いようでしたら救護室から人をお呼びしましょうか?」

「大丈夫です。調子が悪そうなら私たちが連れていきます。」

叶さんはしっかりと答えて僕を支えてくれた。

尤も店員の見えないところでは真っ赤になっていたが。


担がれながら店を出て近くにあったベンチで一休み。

「2人とも、助かったよ。」

「あれは、お互い様よ。」

「ちょっと疲れました。」

重かったのだろう、2人は呼吸が荒い。

実際はどこも悪くないわけだからちょっと飲み物を買ってこようと腰を浮かせ

「ちょっと休憩。」

「少し、休ませてください。」

その前に2人の頭が肩に乗っかった。

振り払うわけにもいかず腰を落ち着けるが

「(ヒソヒソ)」

「(ジロジロ)」

不躾な皆の視線が痛い。

結局2人が復活するまでの数分間、僕は晒し者になっていた。


『見つけたわ。』

一時2人の姿を見失った僕たちはショッピングモールを分散して駆け回りようやく八重花が発見した。

移動ルートを予測しつつ合流するとどうやらショッピングは終わってちょっと遅めの昼食にするようだった。

「そう言えばお腹空いてきたかも。」

「私も空きました。」

「あんパンを準備しておくべきだったわ。」

「張り込みじゃないんだから。」

そんなこんなで2人はいい感じのレストラン、僕たちはこれまたファーストフードで済まして尾行再開。

美術館を巡り、もう一回ショッピングして夕方、恋人が一緒に見ると幸せになれるらしい岬の夕陽を2人で見て今日のデートは終了だ。

僕も八重花も飛び入りの叶さんもヘトヘトで発起者は

「ちょっと甘く見てたわ。」

と反省していた。



「んー、今日はまさにデートって感じだった。ありがとね。」

「ああ、それはよかった。」

雅人はホッと胸を撫で下ろす。

初っぱなから手順と変わってテンパってしまい、うまく立ち回ろうと必死になっているうちに終わってしまったから楽しんでもらえたか不安だった。

裕子はムフフと笑い雅人の顔を上目遣いで覗き込む。

「でも、人任せのデートプランは減点よ?」

「え゛!?」

雅人、硬直。

「芳賀くんがこんな洒落たデートを考えたとは思えないもの。恋愛映画に美術館でおしゃれなレストランで昼食。ショッピングして最後にここって、どんだけ素敵なデートよ。」

学生らしく出費を最小限に押さえつつも楽しめるプランは完璧すぎたために見破られてしまった。

(半場くんとの秘密の話はこれのことね。それでたぶん八重花も引き込んでるわ。あの2人、いつもこんなデートしてるのかな?)

最後以外完璧に読みきった裕子。

その前では雅人が借りてきたチワワみたいに弱々しい目で裕子を見ていた。

「もう、何泣きそうな顔してるのよ?」

「俺、久住に楽しんでもらいたくて。でもそういうのよく分からないから、陸に相談して。」

雅人はどんどん情けなさを自覚して俯いていく。

裕子は両手でパンと小気味よい音を立てて頬を叩き前を向かせた。

「チュ!」

「!?」

「次も楽しいところ連れてってよね、雅人くん!」


「おっ!」

「なっ!?」

「きゃ!?」

終了ムードを吹き飛ばす最後のサプライズに僕たちは驚いてしまった。

久住さんは楽しそうだったし芳賀君も最後は幸せそうだったので目的は十分に達せられたと言えるが

「僕たち、結局何しに来たんだっけ?」

「…キューピッドよ。」

「はわー。」

なんだかグダグダだった。


ようやく壱葉に帰ってきたときにはもう夜で

「さすがにりくとこれからは厳しいから帰るわ。」

と誤解されるような事を言って帰っていった。

叶さんも帰るのだが最近は色々物騒なので送っていくことにした。

「今日は楽しかったですけどああいうのは良くないですよ。」

「ごめんなさい。疲れるのでもうしません。」

謝ると叶さんははいと返事をして笑顔になった。

さて、そろそろ良いだろう。

「それで、琴さんは何だって?」

「…知ってたんですか?」

叶さんは苦笑い。

「僕たちが追跡を始めようとしたタイミングで会ったときに何となくね。」

町の開店時間直前のタイミングであの場所にいたこと自体は買い物だと考えれば疑う必要はなかったが、言い訳が散歩で完全な出掛ける格好ではちぐはぐすぎだ。

「八重花ちゃんが半場君からの電話をはぐらかしたときに何となく気付いて、"太宮様"の占いであそこに10時に行く様にって言われたんです。」

全部が全部琴さんの陰謀かと思ったが発端は叶さんだったというのは少し意外だった。

「半場君と八重花ちゃん、デートなのかなって思ったんですけど、気になって。」

「叶さんてわりとアグレッシブだよね。」

「そうですか?」

恋に、とはさすがに言えない。

僕を恨んでいたはずなのに信じてくれて。

僕を探すために非日常の世界に触れて、受け入れて。

僕が名前で呼ぶことにも普通に接することができるようになっている。

「それは半場君が一緒だからですよ。」

「僕が?」

叶さんはニッコリと笑いかけてくれた。

「はい。私、半場君と仲良くなりたいです。だから頑張っちゃいますよ。」

それはまるで告白のようで胸が高鳴った。

「うち、もうすぐそこですから。また明日です、半場君。」

「あ、うん。また明日。」

叶さんは軽い足取りで去っていく。

僕はその背中が見えなくなるまでぼんやりと後姿を見送ったのだった。


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