妻へ。
君は、元気でやっているだろうか。
私は相変わらず毎日決められた仕事さえこなせば、実に平穏な日々を送っている。そう、不足といえば、君の手料理を食べられないことくらいだ。君の作った豚汁の味、肉じゃがや味噌汁の味。そういうものを思い出すときゅうと胃が締め付けられて、水も喉を通らなくなる。君が今元気でやっているのかを……あの時の君の病名すら知らぬまま月日が流れゆくことを思い出せば、その都度、身を切られるような想いがするよ。
こうして月に一度、君に手紙を出すようになって、随分と経ったな。けれど君はついに一度も返事をくれなかった。いや、責めているわけではないんだ。ただ時々、この手紙が君に届いているのだろうか、君がまだあの家に住んでいるのだろうか、読んでくれているのだろうかと不安になるだけなんだ。返送されてこないから、届いていると、信じているが。
会いたい。
君が30年連れ添ってくれた、それを当たり前のように思っていた。こうして離れて暮らすようになって、無性に君の存在のありがたみを噛み締めるように感じている。
返事はもとより、そんなことを言える立場ではないことくらいわかっているつもりだ。それでも寒い夜なんかは君に会いたくてたまらなくなる。
あの時、救急車を呼んでいれば。そんな後悔を、何千回何万回繰り返し、懺悔したことだろう。何度後悔しても、し足りることはない。もう二度と酒を飲みたいと思うことはないだろう、などと言っても君は信じないかもしれないな。けれど、本当にそう思っているんだ。そのせいで君には随分苦労をかけただろうから。
それでも君が待っていてくれることを、望んでもいいだろうか。
ここを出たら一番最初に君に会いたい。
あの子のご遺族にも謝罪に行かなければならないが、、、一度きりでもいい。君に会いたい。君が私の罪を許せないのなら、誰にどれだけ償い、許されようとも意味などないのだから。
いつも似通った文面になってしまってすまない。
けれどこれが最後の手紙だからどうか許して欲しい。
君が待っていてくれることを、祈っている。
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