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やきたらこの冒険   作者: こたつみかん
1/2

第1話 クラブの夜

 君が八木良太さんですね。と言う声に振り向くと

俺よりも5歳は年上に見える男が立っていた。

30少し前って所だろうか。

この人が口コミでやっと探し当てた請負人。

・・・・・な筈なんだけどすごく普通の人に見える。

俺の先輩はこの人から空手の有段者に勝てるようにしてもらったって言ってたし

聞いた話じゃ会社を立ち上げる手助けをしてもらったり

借金の返済地獄から救ってもらったって人の話も聞かされた。


 あなたが月澤銀次さんですか?との問いに軽く頷くと

立ち話もなんですからそこの喫茶店に、と促された。

席に着いてコーヒーを頼み、正面を向くと射すくめる様な目で月澤は俺を見ていた。

まるで値踏みするように、いや、なぜそう思ったのかわからないが

味を見るように俺をじっと見つめ続けた。

やがて視線を外すと呟くように

八木さんは私に何をお望みですか?と問いかけてきた。

俺は即座に女の子にモテたいんだ!と今までの人生の鬱憤を晴らすかのように叫んだ。


なるほど・・・・とつぶやくと月澤は

実際には自分は依頼者の代わりに何かする事はない、

あくまでも手助けとレクチャー、そしてバックアップだと言った。

そして依頼を受けるためには当人の覚悟を見る必要があるとも・・・・

覚悟?いったい何の覚悟?

24歳になる今まで女の子とも付き合った事もない俺にどんな覚悟をしろと言うんだ?

何だってやるさ。そう、何だってやれる。

コーヒーを見つめていた月澤がぼそりとつぶやいた。

ここで踊れますか?このテーブルの上でです。

答える代わりに月澤を睨みつけながら俺はテーブルに飛び乗った。


げんこつやまのーたぬきさんー

おっぱいのんでーねんねしてー

だっこしておんぶしてまったあっしたー


歌いながら激しく踊ったあとで月澤を見下ろしながら

何かリクエストはありますか?と聞いた。

月澤は苦笑いをして俺に座るように促した。


合格です八木さん。そう言った月澤はなんだか嬉しそうだった。

次いで具体的な話へと移った。

見た目をかっこよくしたりお金で女の子をなびかせるなら

自分の出番はほとんどない。

ただし、今の自分を磨いて女の子にモテたい、

または戦略によって女の子にモテたいと言うのなら

自分に出来る事は少なからずある。

俺はただ頭を下げてお願いしますと言い続けた。


尚、支払いは現金で成功報酬との事だったが金額は言わなかった。

噂では法外とも思える金額を請求するらしいが

出し渋ったりする人も居ないという話だ。

つまりそれだけの値打ちがあるということだ。

少しだけ安心した。


ではさっそく始めましょう。

都合の良い事にクラブのレイブ、まぁダンスパーティーの

チケットを持ってるので、そこで小手調べと行きましょう。

そう言うとテーブルの上の伝票を持ってレジへと歩いて行った。

月澤が支払いを済ませて一緒に外に出ると

真っ赤なレクサスに乗り込んで隣に座るように促された。

クラブへ向かう道すがらに

これからは八木良太ではなく、親しみを込めて

やきたらこと呼ぶ事にする。

自分の事も銀と呼んでくれと言った。


クラブの前に車を横付けすると銀は鍵を入口に立っているジャニーズ系の

若者に放り投げて颯爽と店内に入った。

俺も後を付いていったがいいのかな?こんな普段着で・・・・


店の中に入ると耳がおかしくなりそうな大音響の中で

下着みたいな服の女の子や、その女の子たち目当ての男たちが

踊り狂っていた。

見ると銀は飲み物をボーイから受け取ると

どんどん奥の方に歩いて行き、突き当たりのソファーに座ってる

ワルの見本のようなレスラーみたいなごつい体の若者の前に立った。

と、いきなり耳を掴むと自分の付けている太いピアスを

無理矢理刺し貫いた。

耳から血を流して床に座り込んだ若者に

私のプレゼントは気に入ってもらえましたか?とささやく。

俺は若者が銀に殴りかかるものだとばかり思ってたのに、逆に銀に

脅されるようになっている。

何かを囁かれる度に素直に頷き、肩をぽんと叩かれると

頭を下げて出て行った。どうなってんのこれ?


しかも銀が手招きしてるよ。逃げたいな・・・・いや、ここは我慢だ。

高校生が化粧してるとしか思えない若い女の子が銀に色々と話しかけてくる。

くそ、うらやましいぞ。しかも銀はうるさそうにしてるし・・・・・


仕事は何をしてるんですか?って問いに当ててみろとか言い放つ、

わかんなぁーいって言う女の子に観察力が足りないと説教を始める。

好き放題だなこいつ。

俺の隣に座ってるアイドルで通りそうなキレイな女の子が

もしかしてデザイナーさんですか?と言うと、銀は本当に驚いたように

女の子に言った。

キミすごいな。私はそんな関連の話を全然してなかったはずなんだけど・・・・

あ、そうか。服装を見て気がついたのかぁ・・・・・

今日も市場調査ってわけじゃないけどモデル候補探しも兼ねて

遊びに来させてもらったんだよ。

着てみたいっていう女の子に銀は

出せば3日で捌けちゃうから在庫なんか無いなぁ

それにここみたいな地方都市だと2ヶ月遅れじゃないと入荷しないんじゃない?

とか喧嘩を売ってるとしか思えない事を平気で言い放つ。こいつマジで危ねえぜ。


ねえ、ブランド名なんて言うの?私ホントに買うから教えてよ。

問われた銀はちょっと考えたあとで俺によく見ておけよという様に目配せをした。

私の名前をブランド名に入れてるんですが

きっと知ってると思いますよ。

銀次ワシントンって言うブランド名です。

なんだそりゃ、デンゼル・ワシントンとMICHIKO LONDONのおいしい所だけ

くっつけたような名前じゃん!!

あ!私それ知ってる!すごく可愛い服だよねとアイドル顔の女の子が言った。

マジかよ!そんなブランドねーよ!!

すっかり女の子を手懐けた銀が外の空気を吸ってこようと言って

アイドル顔の子の手を取って俺の横を通り抜けた。

その時耳元で同じ手でいい。やってみろと銀がささやいた。


やってやろうじゃねえか。上等だよ!

手当たり次第に女の子に声をかけて、やっとまともに受け答えしてくれる

女の子に当たった。

さっそく俺、仕事何してると思う?と言う問いに土木関係?と答えられて殺意が沸いたが

まあいい。

わからないかなぁ?と言いながらポーズを取ってくるっと一回転してみせる。

売れない歌舞伎役者?と言われて殴りそうになったがここは我慢だ・・・・

デザイナーだよ。服飾のね。一応ブランド立ち上げてるんだけど

ここみたいな田舎じゃ扱ってる店無いかもね。

あ、あっても田舎だから入荷は半年待ちかなぁ?

言ってる事は銀とそう変わらないはずなのに、女の子どころか

周りの人全員が踊りをやめて俺を睨みつけてる。なんだこの雰囲気は


ふーん・・・・ブランド名なんて言うの?

来た来た、ここが見せ場だよ。お前らがびっくりするような名前を言ってやるからな・・・・

えーと・・・俺の名前が良太だから・・・・・

早く言いなよ。それともブランドって嘘なの?うるさい女だな、急がせるなよ。


ブランド名か・・・・・

俺の立ち上げたブランドに俺の名前を入れてるんだよね。

きっと知ってると思うよ。

良太バングラデシュってブランド名だよ。


少しの沈黙のあとで大爆笑が起こった


聞いた事(ヾノ´°ω°)ナイナイない    そんなブランド(ヾノ・∀・`)ナイナイ

       それは(ヾノ・∀・`)ナイナイ  聞いた事(ヾノ´°ω°)ナイナイない   

 そんなブランド(ヾノ・∀・`)ナイナイ            聞いた事(ヾノ´°ω°)ナイナイない    そんなブランド(ヾノ・∀・`)ナイナイ     ないない                   (ヾノ・∀・`)ナイナイ

       それは(ヾノ・∀・`)ナイナイ          (ヾノ・∀・`)ナイナイ

      聞いた事(ヾノ´°ω°)ナイナイない    そんなブランド(ヾノ・∀・`)ナイナイ

       それは(ヾノ・∀・`)ナイナイ

 それは(ヾノ・∀・`)ナイナイ


周り中全員で全否定・・・・・ふと気が付くと銀まで笑い転げながら俺を指さして笑ってる。

ひでえ奴だなこいつ


騒ぎが収まった頃に銀が俺を連れ出してくれた。

車の中でふと気が付いて、あのアイドル顔の女の子はどうしたのかと聞くと

用が済んだから帰したとの事・・・・用が済んだって・・・・まさか・・・・?

俺の問いに銀は当然そうしたよと言った。ホント怖いわこいつ。


焼きたらこ君、君は才能が有るよ。私なんかよりよっぽど上だ。

銀は本当に嬉しそうにそう言った。

ただし、あくまでもそれは素材の話だから明日から厳しく指導させてもらうよと言うのも忘れなかった。


俺はこの人のようになりたいんだろうか?なれるんだろうか?

まぁいい。とにかく俺は自分が変わるための一歩を確実に踏み出した。

それは昨日までの俺じゃない。



だが踏み出した先に何があるかまでは俺にはわかるはずもなかった。

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