表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
9/20

8:等価交換の時間

「――テツヤ……テツヤっ!」

 意識が朦朧とする中、誰かが僕の身体を揺すっていた。

 薄く目を開くと、ぼやけた視線の先に見えたのは、涙目で心配している様子のコハクの顔だった。

「コハク……?」

 そう答えると、すぐさま僕に抱きついてくる。

「ごめんなさい……」

「コハクが謝る事ないよ。それより――」

 辺りを見回せば、まったく見覚えのない場所に来ていた。

 何者かに連れ去られたのか、それとも部屋そのものが変化したのか。

 ただわかる事は、この部屋には物一つ置かれていない監獄の様な場所だという事。

 唯一の出口であろう鋼鉄の扉は、調べてはいないが開きそうには見えなかった。

「ここはどこ?」

「……研究する所」

「研究? どんな?」

 そう問えば、コハクは俯いて黙ってしまった。

 コハクに関する研究なのだろうか。彼女の様子から察すると、それならば納得もできる。

 彼女から詳しい話を聞きたいところではあるが、今はここから脱出する事が最優先と考えた。

 胸ポケットを探り――絵筆がない事に気付く。

「嘘だろ……」

 おそらく、ここまで運ばれてきた時にでも奪われたのだろう。

 ――このままでは魔法を描く事ができない。

「あ、ぅ……っ」

「コハク?」

 抱きついたままのコハクが苦しそうに声を漏らした。

 頬に触れると、高い熱が出ている事が容易にわかった。

 虚ろな目を僕に向け、何かを言おうとするも声にならない。

「すぐにここから出よう。ほら、掴まって」

 こくり、と頷いたコハクに上着をかけて抱きかかえる。

 まずは鋼鉄の扉を調べ、押しても引いても開かない事を確認する。

 ドアノブを調べると、小さな魔法陣を見つけた。

「これくらい簡単な物なら……」

 中心に近い魔力を循環している円に爪で傷をつけ、他の線と繋ぎ合わせる。

 すると、重たい金属音と共に描かれていた魔法陣が消え、歪んだドアノブだけが残った。

「これで開けば良いんだけど」

 扉がゆっくりと開き、奥には真っ白な長い通路が見えた。

 均一に並べられた扉が続く通路を眺め、先ほど聞いたコハクの言葉を思い返した。

 ――研究する所。想像していた以上に、凄惨な光景に見えた。

「こんなに被験者がいるのかよ……」

 扉の数だけ被験者が捕まっている。どんな実験をされていたのかはわからない。

 掠れて読めなくなった名前と思われる文字を横目に、通路を進んでいく。

 そして見つけてしまった。あって欲しくはないと願っていた名前を。

「コハク……被検体番号……」

 そこからは掠れて読めなかった。読む気すらなかった。

 扉を通り過ぎ、通路の先に見えた階段を上がっていく。

 上った先は、昼間に見たリビングの暖炉に繋がっていた。

 窓から見えた外の光景に、少しだけ安堵する。

 それと同時に、聞こえた声に不快感を覚えた。

「――コハク、部屋に戻ってなさい」

「……」

 コハクを抱き寄せ、声の主である彼女の研究者だろう男を睨みつける。

「君、コハクの友達だね? そのままだと、コハクは死んでしまうんだよ」

「死んでしまう? 殺すの間違いだろ」

「それは私が言う言葉だよ。ほら、コハク。薬の時間だよ?」

 腕の中で震えるコハクを庇い、男に問う。

「一体何の薬だ?」

「なぜ君に教えなければならない?」

 ため息交じりに答え、そして続ける。

「今ここでコハクを渡せば、君は逃がしてあげようと思っていたんだ」

「渡すつもりはない、と答えたら?」

「交渉決裂だね」

 そう言って、男は注射器らしき物を取り出して、僕に見せた。

 何の躊躇いもなく自らの左腕に打ち、すぐさま身震いをする。

 音を立てて袖から服が破けていく。

 やがて見えたのは、壊死したかの様などす黒い紫色をした、男の身体以上の大きさがある左腕だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ