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異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
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4:暗闇からの解放

「では、私はお先に失礼します……」

 フラフラになりながら、スズは自分の部屋に入っていった。

 結局、昨晩は寝ずの番をしてくれたらしく、帰りは彼女を抱いて戻ってきた。

 部屋の中でスズがどうなるのか少し心配ではあるが、今回はシャムに任せる事にする。

「ミーテは僕の部屋で待っててくれないか?」

 こくり、と少女が頷く。

 呪文書によって屋敷に捕らわれていたミーテも、一緒に図書館に連れてきていた。

 呪縛から解放された事を喜んでいるかは、その無表情さからは察する事も出来ない。

 まずはミーテを僕の部屋まで案内し、中で待機してもらう。

 ドアを閉めると、隣にはいつの間にか先生が立っていた。

「ご苦労さん」

「今回ばかりは死ぬかと思いましたよ……」

「呪文書の他に、あんな子まで手に入れるとはな」

「成り行きです。それより――」

「私の部屋で話そう。そこで呪文書も受け取る」

 先生の言葉に頷くと、早々に転移の魔法陣を描いていく。

 完成すると共に、先生の部屋までやってきた。

「早速だが、呪文書を見せてくれ」

 あらかじめスズから受け取っておいた呪文書を先生に渡すと、何の躊躇いもなく封を切った。

 紫色に光りだしたそれを指でなぞると、光が消えていく。

「随分と魔力の多い物だな。何か現れなかったか?」

「猟犬に襲われました」

 クスクスと先生が笑いながら、ページを捲っていく。

 やがて黒く塗り潰されたページが現れた。

「これが、お前さんが仕留めたページか」

 呪文書を守る者は様々だが、必ず意味を持っている。

「お前さんに一つ問題を出そう」

「この呪文書について、ですよね」

 先生は頷き、続けて問う。

「この書を守っていた猟犬には、どんな意味をはらんでいる?」

「何かの番、主のための狩り、忠実なる僕……」

 呪文書を閉じ、机の上に置いて、先生はさらに問う。

「その猟犬が死に、いなくなった場合、何が残る?」

「首輪と……鎖?」

 つまりは、呪文書を守る者がいなくなっても、効力は残る、という事か。

 僕の回答に頷くと、にやりと先生が笑って言った。

「ミーテはまだ、解放されていない」

 どくん、と心臓が跳ねた。

 今、ミーテは僕の部屋にいるはずだ。

 鍵の掛けていない、すぐに出ていける部屋に。

「そろそろ頃合いだろう。――戻るぞ」

 魔法陣を描き、先生が僕の部屋まで連れていった。

 嫌な予感は的中した。どこにもミーテの姿はない。

 ドアは開いており、ここから外に出ていった事に間違いはなかった。

「――っ! スズ!」

 急いで部屋から出て、スズの部屋を目指す。

 ドアは開いていた。

 部屋の中に入れば、そこにスズの姿はなく、ボロボロになったシャムの姿があった。

「シャム!」

「テツヤか。遅かったな」

 のそり、と立ち上がるシャム。

 傷ついてはいるものの、動けない程ではないらしい。

「これで良いのかね、先生」

 振り返れば、呑気にタバコを吸っている先生の姿があった。

「一体何のつもりですか」

「見ての通りだ。ミーテにスズを攫わせた」

「……飼い主を突き止めるために、ですか」

 そう聞けば、先生は落ち着いた様子で頷いた。

「安心しろ。飼い主も易々と人質を殺しはしない」

「断言できる理由は?」

「相手は新たな駒を求めているからだ。――おおよそ居場所の見当がついた」

 この人は、使える物は何でも使うつもりらしい。

 たとえ、自分の身の回りにいる人物であっても。

「僕も行きます」

「最初からそのつもりだ。行くぞ」

 転移の魔法陣をその場に描き、僕も共に敵地に移動した。


 すぐにスズを見つけた。

 その隣には、彼女を攫ったであろう、ミーテの姿があった。

 絵筆を少女に向けると、先生がそれを静止した。

「今はもう動かない。それよりも、スズを頼む」

 意識を失っているスズに駆け寄ると、異変を感じた。

 ――服を着たまま眠っている。いや、本来はこれが普通なのだが。

 彼女の身体を抱き寄せると、先生が他に視線を移した。

「先生?」

「『奴』の相手をしてくる」

 先生の視線の先には、一人の男が立っていた。

 背中から溢れ出る魔力は、ミーテと同じ紫色の物だった。

「私が一度手に入れた物は、必ず返してもらう主義でね」

 駆け出した男に対し、先生はその場で踵を鳴らした。

 同時に地面に現れた魔法陣から、黒い液体が吹き出す。

 それは形を変え、構わず向かってきた男の身体に突き刺さっていく。

 身動きの取れなくなった相手を液体まで引きずり込み、不快な音を立てて砕いていった。

「――もう終わりか? 出来そこないの人形使い」

 そんな先生の挑発に乗ってか、至る所から足音が聞こえた。

 暗闇の中から現れたのは、数体、いや数十体の人形だ。

 人の姿をした物、作りかけの物。中にはどこかの部位がない物もあった。

 吸い終わったタバコを捨て、新たに先生がタバコに火を点ける。

「お前さんはスズの面倒を見ろ。良いな?」

 そう言われると、抱いていたスズの様子が変わっていく。

 じわりと汗をかき、そして僕に覆いかぶさってきた。

「スズ……?」

「くれぐれも魅了されない様にな」

 薄く瞼を開き、息絶え絶えに僕に顔を寄せ――そして口を開いた。

「テツヤさんが、欲しいです」

「な、何を――!?」

 両腕を掴まれ、抵抗するも身動きが一切取れない。

 スズの力とは到底思えない。まるで、操られているみたいだ。

 辺りでいろいろな物が砕け散る音が聞こえる中、スズの顔がだんだん近づいてくる。

 先生の言った『魅了する』という意味は、僕も操られない様にしろ、という意味だったらしい。

 相手を魅了する魔法は、身体のどこかに痕を残す必要がある。つまりは、スズに噛みつかれたら終わりだ。

 僕に寄せてきた彼女の顔に思い切り頭突きを喰らわせる。

 怯んだ隙に彼女を逆に押し倒し、しっかりと押さえつける。

 スズの身体のどこかには、魔法を発動させている痕が残っているはずだ。

 抵抗する彼女を押さえつけたまま、顔や首、腕を調べる。

「どこにもない……まさか、服の中か」

 脱がせようにも、少しでも隙を見せたらこちらがやられる。

「先生、僕の絵筆を――」

 そちらに視線を移すと、バラバラになった人形を燃やしている先生がいた。

「何か言ったか?」

「……絵筆を取ってください」

「それくらい自分で何とかできないのか」

 ため息交じりに、胸ポケットに入っている絵筆を取り出し、咥えさせてくれた。

 早速スズの手首を塗り潰し、手錠をかける。これで少しは楽になるはずだ。

「私は奴の相手に戻る。大丈夫だな?」

「な、なんとか……」

「レディに手錠をかけたんだ。ちゃんと責任くらいは取れ」

 そう言って振り返り、近づいてきた人形に煙を吐きかける。

 煙は瞬く間に圧縮され、その中にあった人形の頭をくしゃりと潰した。

 人形の相手は先生に任せ、再びスズと向かい合う。

「悪く思わないでよ」

 シャツのボタンごと乱暴に引き千切り、脱がせる。そして、脇腹に爪痕を見つけた。

 絵筆で爪痕を塗り潰すと、スズの抵抗は感じられなくなった。

「はぁ……先生、こっちは終わりました」

「こちらも、もう終わる」

 先生の方を向けば、身動きの取れなくなった男がそこにいた。

 人形とは違う、本物の人間だ。

「楽になりたいなら、質問に答えろ」

 先生の尋問が始まった。

 正直見たくも聞きたくもないが、スズのそばから離れる訳にもいかない。

 いつ彼女が目を覚ましても大丈夫な様に、しっかりと抱き寄せておく。

「誰の差し金だ」

 男は何も答えない。

 先生の足元から黒い液体が流れ出ると、男の足元に溜まっていった。

「私は同じ事を二度聞かない主義でね」

 液体は男の足を取り込み、音を立てて砕いた。

 声を上げ、苦痛に歪む男の身体に液体はどんどん上っていく。

「次はどこまでやろうか」

「わ、わかった!」

 ようやく口を開いた男の脚に巻き付いた液体が、ギリギリと音を立てる。

「何がわかった?」

「あ、あ……」

 答えようにも、痛みで答えられないらしい。

 そんな男の脚を、お構いなしに潰した。

「さて、次はどこを潰してほしい?」

「お、女だ……どこの、誰かまでは……」

 黒い液体は、次は腕を締め付けていく。

「白いローブを着ていた! それに、青いネックレスが――」

「蛇の模様でも刻まれていたか」

 男が大きく何度も頷く。

「それだけ聞けば十分だ。今、楽にしてやろう」

 安心した顔を見せた男の身体に、黒い液体が上っていく。

「――あれ……? テツヤさん?」

 目を覚ましたスズの顔を胸に押し付け、何も見せない様にする。

「は、話が違う!」

「楽にする、という言葉にはいろいろ意味があるという事だ」

 液体は男を飲み込み、歪な音を立て、そして地面に引きずり込んでいった。

 尋問を終え、今度はミーテに歩み寄る。

「魔力がすっかり抜かれているな」

 指先を少女の頭に向け、紫色の何かを流し込んでいく。

 やがてミーテの身体がピクリと動き出した。

「これで、お前さんは私の下僕だ」

 目を開き、先生に向かって、ミーテはこくりと頷いた。

「先生……? これは、一体……?」

「スズには悪い事をしたな。戻ったらテツヤに慰めてもらうと良い」

「慰めてって……あれ?」

 破られた服を見て、目を丸くするスズ。両手には手錠がかけられたままだ。

「……悪く思わないでね」

「――っ!」

 図書館に戻る前に、思い切りスズに殴られたのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと考えております。

ではまた次回まで。

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