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異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
19/20

18:被験者達

「――まだ研究を続けている者がいる。手遅れになっていなければ良いんだけど」

 コハクを見つめ、ケイはため息を吐いた。

「君には酷な事をしてしまったみたいだ。私には到底謝りきれない事を」

「……みんながいるから平気」

 コハクの言葉に、そうか、とだけケイは答えた。

「他に聞きたい事はあるかい、テツヤ君?」

 ケイは真面目な顔で僕に向き直り、そう問う。

 今わかっている事は、ウロボロスの教団は被験者が牛耳っている。

 そして、実験はまだ続いている、という事だ。

「何か、彼らを止める手段はないのか?」

「ウロボロスを潰すほかは考え付かないよ。関わった者を根絶やしにするくらいしか」

「それは、あなた自身を含めても?」

 問うと、ケイは小さく笑って見せた。

「私はどの道すぐに死ぬ。無理に殺す必要はないよ」

 君が望む様に、苦しんで死んでいくさ。そうケイは続けた。

「被験者を元に戻す手段は?」

「ない。少なくとも、私の知る限りでは」

 つまりは、このままではスズもコハクも本当の意味で救う事はできない。

 そう考えると苛立ちを抑えられず、気付けば血が滲むほど強く拳を握り締めていた。

「テツヤさん……今は事件の事だけを考えてください」

 スズにそう心配そうに言われ、彼女に向き直る。

「私は大丈夫ですから。コハクさんもそうですよね?」

「テツヤ、心配しないで」

「……わかった」

 改めて、現状でわかった事をまとめていく。

 ウロボロスの教団を止める手立ては、教団のメンバーを根絶やしにする事。

 つまり、非人道的な実験を受けた被験者を相手にするという事だ。

 そこに哀れみを持ってはいけない。

 これ以上、無意味な犠牲を払わないために。

「――ところで、私も質問良いかな?」

 突然聞こえた声に振り返れば、そこには先生がいた。

「まずひとつ。私の妹はどこにいる?」

 先生を見て、ケイは驚いた様に、青ざめた顔を向けた。

「もしや、あの姉妹か……?」

「『名前のない姉妹』。覚えているなら話が早いな」

 その返しから察するに、先生も被験者だった?

「お前さんなら知っているだろう? 何も関係ない私の妹を実験材料にしたのだからな」

「あれは、その――」

「言い訳よりも、妹の居場所を教えろ」

 弱弱しいケイの返事とは裏腹に、先生の声は聞いた事がないほど冷徹に聞こえた。

「……ウロボロスのトップにいる」

 その返答を聞いて、ふっと息を吐き、ケイに歩み寄る先生。

 そして、もうひとつ質問をした。

「お前さん、いったい何を連れてきた?」

 聞いた途端、先生の足元から黒い液体が噴出した。

 液体はケイを締め上げ、持ち上げていった。

「せ、先生――っ!」

「この後に及んで。ロクでもない男だな」

 先生の言葉と共に、ギリギリと音を立ててケイが締め上げられていく。

 止めさせようとしたスズを止め、僕は絵筆を取り出した。

 ――左目が痛む。悪意に満ちた、憎悪の塊が湧き出している。

「スズ、離れていてくれないか」

「あ、ぅ……」

 泣きそうな顔をしているスズも、事の重大さに気付いたのか、すぐに引き下がってくれた。

 コハクが拳を固め、ミーテが両手を前に広げた。

「お前さんと会うのは、これが最後だな。――失せろ、ゴミクズ」

 先生の言葉を最後に、ケイの身体は音を立てて砕け、黒い液体がケイを包み込んでいった。

 そして――液体を吹き飛ばし、先生が言っていた「ケイが連れてきたモノ」が姿を現した。

 獅子の顔、山羊の身体、毒蛇の尾。神話に登場するキメラの姿がそこにあった。

「力を貸せ。私ひとりでは手に余る」

「言われなくても。ね、ご主人様」

「あぁ。――ちゃんと見えているさ」

 左目から見えた、キメラの身体に描かれた魔法陣。

 それは、それぞれの動物に描かれている、命そのもの。

「これを殺せるのはお前さんだけだ、テツヤ」

 キメラに絵筆を向ける。

 これはただの戦いではない。

 スズを父親という害悪からの呪縛を断ち切るための戦いだ。

 彼女がどう思おうと関係ない。

 必ず、スズの前で息を止めてやる。そう決意した。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

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