17:事の始まり
「――初めは、まともな仕事をもらったと思っていた」
ケイの話は、そんな一言から始まった。
「新薬の研究。内容は、身体本来の回復力を高めるものだよ」
しかし、そんな薬も形を変えて、今ではまったく別の薬となっている。
今、コハクが使っている薬の様に。
「薬の効果を使えば人間が使う事のできない力を使ったとしても、すぐに回復できる」
しかし、薬を手放したら最後。その者は身体への負担をそのまま受けてしまう事になる。
だからこそ、「キメラ」作成の実験が始まった。
「人間の身体には限界がある。特に運動神経や魔力にはリミッターがかけられている」
使い過ぎれば死に至る力は、勝手に身体が抑制していく。
だが、薬を使えばそれも関係がなくなる。けれど、薬を手放す事ができなくなる。
「ならば、リミッターのかけられた箇所を別の物に入れ替えれば良い」
そうして実験が始まった。
最初は小動物を使った実験から。しだいに検体は大きくなり、最後には人間を使う様になった。
「その頃には、私は実験の虜になっていたよ。限界というものを見てみたくてね」
動植物にはそれぞれ違ったリミッターがかけられている。
それらを繋ぎ合わせ、なおかつ人間として成り立っている身体を作っていく。
実験は日を追うごとに過激になり、死体を使っていたはずの実験が、いつの間にか拉致された人間を使っていた。
大人も、子供も、見境なく。
「成功を収めた者は、子供の方が多かった。だから――」
子供を使った実験が増えていった。
そして完成された者は収容されたまま教育を受け、外の世界へ出て行く。
何を教育されていたかは定かではないが、その後の事象を見て予想はできた。
「彼らは、僕を雇った『ウロボロス』を乗っ取った。今の教団は彼らが動かしているんだ」
自分達が私利私欲のために生み出した実験体が、自らの身を滅ぼしていった。
だからこそ、今度は奪還のための力を欲した。
――そして、スズが選ばれた。
「体内の魔力には限度がある。そこで、植物が利用しているマナに視点を向けた」
マナは魔力よりも力は小さいが、大気中に存在するそれは無限に使う事ができる。
そうして生まれたスズの、マナを使った魔法。
そんな実験に成功した矢先、ある事件が起こった。
「ウロボロスで知り合った男に告発されたんだ。非人道的な実験を繰り返しているとね」
話はとんとん拍子で進み、あっという間に煉獄へ送られる事になった。
小さかった、身寄りのないスズを置いて。
「私がこの世界で知りうる事はそれだけだよ。だが、見たところ実験はまだ続いていたんだね」
コハクを見つめながら、そう最後にケイは言ったのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。
では、また次回まで。




