表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
17/20

16:誰かのために

 一面が赤く染まっていた。

 魔法陣から溢れ出した、赤い粘液と共に現れたひとつの大きな影。

 それは獅子の頭に山羊の胴体、毒蛇の尾を持つ「キメラ」だった。

「――お父さん」

 スズの呼びかけに反応したそれは、すぐに大人しさを取り戻していった。

「さぁ、後は引っ張り出すだけだよ。ご主人様、鎖を断ってあげて」

 頷き、四つの足に繋がれた足枷に魔法陣を描いていく。

 ただ思うがままに描かれた魔法陣は白く光り、足枷を砕いた。

「後はコハク。君の出番だよ」

「引っ張るだけで良い?」

「うん。投げ飛ばす勢いでも良いよ」

 わかった、と頷き、頭を下げたキメラの頭を鷲掴みにすると、そのまま力いっぱい魔法陣から引き離した。

 勢い余って、そのまま宙を舞うキメラ。その姿は次第に小さくなり――

「ぎゃっ!」

 声にならない悲鳴を上げて、本棚に激突した。

「やりすぎた」

「あ、あぁ。無事なら良いけど……」

「大丈夫でしょ。ずっと煉獄で生活していたんだもん」

 本棚に激突した影を追い、スズが安心した声で呟いた。

「お父さん……」

 すると、今度は男性の声が聞こえた。

「スズ……? スズ、なのか……?」

「私の顔も忘れたの、お父さん」

 小さく笑い、そして男性――いや自身の父親に抱きついたのだった。



「いろいろあったみたいだけど、あそこから引きずり出してくれてありがとう。えっと……」

「テツヤです。後、他は――」

「私から伝えておきましたので、大丈夫ですよ。ね、お父さん?」

 そうスズに問われ、恥ずかしそうに頭を掻く彼女の父。

「昔から人の名前を覚えるのが苦手でね……慣れるまで許してくれないか」

「お父さん……」

 呆れた様にため息を吐くと、スズは改めて父親に向き直る。

「それでね、お父さん。聞きたい事があって、その……」

「わかっているよ、スズ。きっと、ウロボロスの件だろう?」

 その一言を聞いて、その場が静まり返った。

 重たい空気の中、彼は続ける。

「あれは、力を欲するが故に自身を見失った輩の集まる教団だ」

「力を欲する? 何のために、ですか?」

「人それぞれだよ。地位や名誉を得たいがために、あるいは私利私欲のために」

 けれど、と話を続けていく。

「どの力も最後には、『自分たちの世界を創る』ためだと言っている」

「もしかして、世界征服を?」

 僕の問いに、彼は首を振る。

「この世界とは違う、別の世界を創るらしい。違う次元への道を開いてね」

 違う次元への道。

 それはあまりにも想像できない言葉であり、同時にどことなく狂気を感じた。

「違う次元があるとは、明確にはわかっていない。だが、彼らはあると信じている」

 だから、非人道的な行為も容易くやってのける。

 いわば夢を見過ぎた狂人の集まり、と言ったところか。

「でも、ないって事はないんじゃないかな。ほら、煉獄みたいにさ」

 ミーテの言葉に、父親は頷いた。

 確かに、この世界ではない別の世界も存在している。

 ならば狂人達が望む世界もない、とは言い切れない。

「あの、お父さん――」

「あぁ、自己紹介がまだだったね。私の事はケイと呼んでくれ」

「それじゃ、ケイさん。何か教団に繋がりそうな手がかりはありますか?」

 問うと、ケイはひとつ息を吐いてから答えた。

「私が煉獄に囚われた原因は、ウロボロスにあるんだよ」

「スズにはある程度の事は聞きましたが……」

「そうか……私も元々はウロボロスの一員だったんだ」

 ケイの言葉を聞いて、スズは悲しそうな顔で俯いた。

「私は肉体を作る研究をし続けた。モルモットから、最後には人を使って、ね」

「……続けてください」

「その頃の私は、それが悪だとは思っていなかった。人のためになると思い続けていたんだ」

 だけど、とケイは言った。

「ただの自己満足だった。それどころか、ウロボロス全体に力を与えてしまった」

「そして、煉獄へ?」

「あぁ。証拠隠滅も兼ねて、この世界から追放されたよ」

 煉獄は大罪を犯した者が囚われている世界だと、ミーテが言っていた。

 けれどスズは、ケイは利用されただけだと言っていた。

 ケイの話を聞くに、スズの言い分には矛盾が生じる。

 それが意味する理由は、もしかすると想像したくない事なのかもしれない。

「スズも、実験対象にしたんですか……?」

 ピクリ、とスズの身体が震えた。

 ケイは言いにくそうに答えた。

「その通りだよ、テツヤ君。スズも私の実験に携わっている」

 答えを聞いた途端に、僕は拳を強く握り締めていた。

 聞きたくなかった、けれど知らなくてはならなかった答え。

 それはあまりにも残酷で、その行為はあまりにも醜悪だった。

「私は、煉獄で一生苦しむだけの事をしてきた。けれど、スズは私を呼び戻した」

 それだけの理由があったから。だから呼び戻した。

 そう答えるだけで良かった。けれど――

「呼び出したのは僕だ。あなたに質問――いや、尋問するために。答えを見つけ出すために」

 そうか、と一言だけケイが答えた。

「尋問するまでもないよ、テツヤ君。私は、あまりこの世界で過ごせる様な身ではないんだ」

 だから――身体が保つうちに全てを話そう。

 君達が求める真実に近づけるのならば、この身が腐ろうと。

 そう答え、ケイは魔法陣の中心に座ったのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ