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異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
16/20

15:異形の記憶

 真っ暗闇の空間に赤黒い液体が流れ込んでいく。

 ドロドロとしたそれは僕の左目を満たし、視力を取り戻していった。

 けれど、見えたのはこの世界とは違う、異物で創りあげられた世界だった。

「――ご主人様、ここから先が煉獄だよ」

 ミーテの声が頭の中に響く。

「最初の一歩だけは一緒に行くけど、そこから先はご主人様しか見ることができないからね」

 わかった、と声が出ない事に気付く。

 するとミーテの小さな笑い声が聞こえて、

「全部聞こえてるから安心してよ、ご主人様」

 僕の心の声まで聞こえているみたいに答えた。

「その目に魔力を流し続けるけど、限界がきたら問答無用で戻るからね」

 もし、限界を超えた場合はどうなる?

「『もし』なんて言葉は、この世界にはないよ」

 それだけ聞けば十分だ。

 この世界でやる事はとても単純。ミーテの限界が来る前にスズの父であるキメラを探し、解放する。

 使えるのは、この煉獄を眺める事ができる僕の左目だけ。

「それで、何か見えたかい?」

 目を凝らせど、見えるのはどこまでも続く赤黒い液体が流れる空間のみ。

「うーん……やっぱり、ここからじゃ見える範囲も決まっちゃうか」

 だからといって、他にできる事もないんだけどね。とミーテの呆れた笑い声が聞こえた。

「時間は限られちゃうけど、流してる魔力を増やせばもっと遠くを見られるかも。やってみる?」

 頼む。さっきから何か感じる所があるんだ。

「えっと、これくらいでどうかな?」

 少しだけ狭まった、けれどさっきより遠くまで見る事ができる。

 何か異様な、それでいて懐かしい感じのしていた場所に視点を合わせる。

 気になる。この先に何かがある。もっと遠くまで見られたなら、見つける事ができるだろうか。

「ちょ、ちょっと、ご主人様。魔力を勝手に使わないでよ」

 さらに狭まる視界。やがて見えたのは――僕?

 人影しか見えていないけれど、確かにそう感じた。

 ――あれと僕は同一である、という事に。

「ご主人様、何か見えた――」

 だんだん小さくなっていったミーテの声。

 最後に聞こえたのは、僕を止める様な声だった。



 影に誘われた先に見えたのは、どこかのアトリエだった。

 画材が雑に置かれ、絵具で汚れた壁や床は、どこか懐かしさを覚えた。

 影がぼろぼろな丸椅子に座って、何かを描いていた。

 ――風景画。それは現世であるこちらの世界で見かけた景色だった。

 影はそれに真っ赤な色を塗りたくっていく。まるで気に食わなかったかの様に。

 続けて描いたのは、子供が描いた様な人の絵。

 片方は大きな男、その顔は黒く塗りつぶされていた。

 そしてもう片方は小さな女の子。直感で誰かわかった。

 ――これはスズとその父親の絵だ。

 そう思った途端に、影は僕に振り向いた。

 黒い影だが、確かに笑っていた。不気味とか不快などの気分にならない、安心できる笑み。

 影は顔を塗りつぶされた父親を切り抜いていく。

 ひらり、と落ちていくそれは形を崩し、やがて消えていった。

 切り抜かれた先に見えたのは、確かな形を取った人影だった。

「――さま、ご主人様! やっと見つけた!」

 ミーテの声で我に返る。

 気が付けば、見えていた景色は消え失せ、何もない煉獄の景色が広がっていた。

「連れて行かれそうになってたんだよ? ……もう帰るよ、いいね?」

 いや、僕も見つけたよ。

「見つけたって……もしかして」

 キメラ――いや、スズの父さんを。

「……信じるよ? 何か描ける?」

 今感じた事、それだけを描けば良いんだな?

「うん。後はボクが何とかするから」

 ただ感じた事を描いていく。

 先ほど、薄汚れたアトリエで影に見せられたスズと父親の絵を描いていく。

 けれど今度は、父親の顔も描いていく。

 優しそうな笑みを見せている、それでいて悲しそうな顔を。

「あー……これで良い?」

 これで良い。というか、他に描く物がない。

「じゃあ、これで探してみるけど……って、探すまでもなかったか」

 どういう事だ? そう聞こうとすると、描いた絵が動き始めた。

 スズの絵は手を振って消え、父親だけが残された。

「はい、見つけた。それじゃ、引っ張り出すよ」

 そう言って、ミーテが父親の絵の手を掴む。

 そして、見えていた世界が切り替わっていった。

 僕達の住む、こちらの世界へ。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

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