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異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
15/20

14:信じる者

「準備はできました。それで、ですね――」

 言いかけたスズの言葉を遮り、僕が先に答える。

「今は準備だけにしておこう。まだ他に調べたい事があるんだ」

「他に、ですか……?」

 これから召還するキメラについて、今調べられる事は調べておきたかった。

 今まで存在すら知らなかった「煉獄」についても、できるだけ知識を深めておきたい。

 もしかしたら、キメラに会わなくとも答えが見つかるかもしれない。

 そんな「もし」の確立があるのならば、探さない手はない。

「コハク、部屋に戻る」

「あぁ、すまない」

 気を利かせてくれたコハクに礼を言って、彼女の姿が見えなくなってからスズに振り返った。

「先に知っている事を教えてほしいんだ。キメラがどんな生き物か、煉獄とはどんな場所なのか」

「煉獄……ミーテさんに聞いたんですか?」

「あぁ、ついさっき教えてもらった」

 こんな時、事の理解が早いスズには助けられる。

「たぶん、私よりもミーテさんの方が詳しいと思いますよ。それでも良いなら」

 スズの言葉に頷くと、彼女は淡々と話し始めた。

「煉獄とは大罪に終止符を打つ異界である。そう本には書かれています」

「大罪を犯したキメラは、そこに捕らえられているってミーテが言ってたな」

「――それは違います」

 はっきりと否定したスズの声がホールに響く。

「罰せられる罪なんて、何も犯していないんです……裏切られただけなんです」

「裏切られた?」

 なぜ、そんな事を生々しく言えるのか。

 本には書かれていないだろう事を、スズはなぜ知っているのだろうか。

 その答えは、すぐに明かされた。

「キメラは、私の父が生み出した自身の器なんです」

「器? という事は――」

「煉獄に捕らえられているのは、私の父です」

 まるで話が読めてこなくなってきた。

 事件の手がかりを知っているかもしれない空想の生き物。それはスズの父である事。

 そして、何者かに裏切られ煉獄に捕らえられているという事。

 これがいったい何を意味しているのか。

「……先生はこの事を知っているんだね」

 僕の問いに、スズははっきりと頷いた。

 先生は、変わり果てた自分の父の姿を見れば、何かわかるとでも言いたいのか。

 それはあまりにも残酷な事ではないだろうか。

「父に会う事で事件が収まるなら、私は喜んで会いに行きます。ですが――」

「必ずしも事件と関係を持っているとは限らない」

 できる事なら、事件に関係していてほしくはない。スズは心のどこかでそう思っている。

 また何者かに利用され、傷ついた父の姿を見たくない、と。

「父は、友人のためなら自分が傷ついても構わない人でした」

「今回も、その……」

「ふふっ。テツヤさんは優しいですね」

 どう言えば良かったのかと考えているうちに、スズは笑って答えてくれた。

「利用されたなら、やる事はひとつですよ、テツヤさん」

 引っ叩きに行く。昔よりも強く。

 そうスズは言って、静かに笑った。



「――さて、ボクの出番だね」

 スズとの話が終わり、ミーテとコハクを呼んで、描かれた魔法陣の周りに集まった。

 魔法陣の中心に立っているミーテに手を伸ばして、手を繋いだ。

「ご主人様の繋いだ手が、ボクを煉獄とこっちの世界を繋ぎとめるんだ。つまり――」

「離したら最後、という事か」

「そういう事。ついでにもうひとつ話すと、ボクは煉獄に一歩しか踏み出せない」

 それ以上先に進めば、ミーテはおろか僕まで体内の魔力を吸い出されてしまう。

 時間の止まっていた身体を持つミーテでさえ、その一歩に耐えるのが精一杯だ。

 そこで使うのが、僕の失った左目だった。

「ご主人様の左目は、もともとは煉獄にあった物なんだ」

 だから、煉獄の中でも使い続ける事ができる。

「痛いとは思うけどね。でも、探し物をするんだから、それくらいは我慢してよ?」

「わかってる。見つけたらどうするんだ?」

「ボクの身体に感じた事を描いてくれるだけで良いよ。後はなんとかするからさ」

 取り出した絵筆を、繋いだミーテの手に当てる。

「クスッ。くすぐったくて離しちゃうかもね」

「離れない様に、しっかり握っておくよ」

 笑いながら頷いて、ミーテはふっと息を吐いた。

「……さて、それじゃスズ。煉獄への門を開いて」

「はい。あの……父をよろしくお願いします」

「うまく解放できたら、引っ張り出すのはお願いね」

 ミーテに言われ、コハクが大きく頷いた。

 スズが魔法陣に、マナから生み出した魔力を流していく。

 そして、赤黒い液体がミーテを包み込んでいった。

 僕の左目から見えるはずの視界を連れて。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

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