隠居できない相棒は……
「で、どれが欲しい?って言ってもあれだな~~」
俺はシルルと武器屋に来れたのは良いものの、どれを選べば良いか分からなくなっていた。
てか、多分身体能力あげねぇと武器が凄くても意味ねぇんじゃね?
「シルル、まず鍛えないと意味ないんじゃないか?って思えてきたよ俺」
「そうだな~~、丁度俺も一週間休日貰えるようになってるしな。てか、今が一日目だし! 町の外へ実戦といきますか!!」
実戦って、あんた早すぎやしませんか!? 俺、ただの高校生だったんですけど……しかも、帰宅部だったしスポーツなんて体育でしかしないんだよな~~。
後、貴方が居ないとこの町に用心棒いなくなるよ!?
「シルル、俺、体力なんて殆どないからね? それに、この町の用心棒が町の外へ行くのってヤバイと思いますよ?」
「大丈夫大丈夫、幼馴染みに頼むから! なっ、クナギリ!」
シルルが声を掛けたのはこの武器屋の店長。
ニット帽を被り、前髪で目が隠れている碧髪の男性。武器の手入れをしているようで剣を熱心に磨いている。
この人がシルルの代わりをするのか?
「君、もう少し自覚持たないとダメだよ。この町の大切な用心棒なんだからさ」
手入れする手を止めずシルルへ返答を返す店長。
確かにシルルには用心棒としての自覚が足りないような気がする。
「お願いだよゼジフ! 俺、ランドリットに色々と仕込んでやらないとだしさ!」
「はぁーー、全く君は……僕が動きたくないのを知ってる癖に……」
そう言いながら店長はニット帽を取り丁寧に前髪を掻き上げ、ヘアピンで邪魔にならないように止めたようだ。すると、右目が赤、左目が黄というオッドアイが姿を現した。
「おっ、サンキューー!」
どうやら、店長が前髪を掻き上げる仕草は肯定の意味があったらしい。
でも、この店長は強いのか? 見た目オッドアイ以外は地味だ。
「流石『隠れ目の嵐』ゼジフだぜ!」
「そんな痛いだけの称号で僕を呼ばないでくれよ、シルル。それにその称号、そのままだし。一般の人に知られたくなかったのに……」
隠れ目の嵐? 何だそれと思いながらもこのゼジフさんは普通の人ではないと分かる。
「現役時代のお前は本当凄かったよな。今なんて隠れて武器屋なんてやってるけどよ」
「だいたい、なんで隠れ目になったんだ? 戦ってるときは前髪降ろしてなかったのに……」
「あのっ、シルルさん! この人強いんですか?」
話の間に入るのは悪いと思ったが、このままでは置き去りにされる可能性があるため無理矢理入る。
「ん? ああ、強いぜ! 俺がこの町を預けられるぐらいにな‼ 昔は俺と一緒に用心棒やってて相棒だったんだ。でも、こいつ自分がどんどん強くなるの恐れて止めたんだ。で、今はただの武器屋の店長ってね。まぁ、俺が休みを取りたいときはこうして渋々ながらも用心棒してもらってるのさ」
「ちょっ、なに包み隠さず話してるのさシルル! 武器はまだ買わないんでしょ? その話は良いから出ていって! 用心棒も変わってやるよ‼ じゃあな!!」
そう言いながらゼジフさんは俺たちの身体を押して、外へ帰した。確かに小柄な割には力がとても強かった。うん、この人に任せても大丈夫だろうと、よく分かっていないくせに納得する俺だった。