マイペースな用心棒さん
ぎゃーーーーーー、という声が町中に響き渡る。
声の主は光輝、いや今はランドリットである自分だ。
武器屋に行こうとしたら大きな穴――落とし穴に落ちた。敷居を1歩跨いだだけなのに。
だが、底まで行くとクッションに当たったようで一命を取りとめることは出来たようだ。
「いってぇーー、何だよこれ……てか、出れないぞ」
穴の深さが100メートルほどある。その上、網で捕獲されたようになっているのだ。ナイフでも持っていれば良いがただの高校生だった自分がそんなもの持ってるはずもなく。
「あーーーー、ラント兄、また落ちちゃったの!?」
恐らく、子供の声だろう。無駄に元気のある高い声。男の子だろうが声変わりが来ていないせいで高いのだろう。
ラント兄とは俺のことだろう。ランドリットから『ドリッ』の部分を除ければラントになる。
なんか、面倒くさそうだ……。
「ラント兄、ちょっと待ってね。今、助けてあげる!!」
助ける!? ちょいちょい、お前に出来るか? 助けられても困るかもしれない、などと考えていると、
「ううぉーーーー!」
身体が空まで上げられた。網を破るぐらいの勢いでだ。事実破けた。
「…………おいおいおい……」
「良かった!! 怪我してないね‼」
声のする方をみるとやはり子供。四、五歳ってとこだろうか。両手を翳し、まるでテレビで観る魔法のようで……。
「はいっと!」
「ふぇ!?」
情けない声を出してしまった。
何故なら小さな子供が翳した手を下ろしていくと同時に俺の身体も降下し、地面に着地したのだ。どう考えてもこの子供の仕業。
そういえば日記に『超能力を持った人ばかり』と書いてあったな……マジだったのか~~!? 信じてなかったわけではない。
俺は子供までもが超能力を使えるのに驚いている。
同時に俺は死んでいて天国に居るんじゃないかと疑っている。
いやいやいや、ないない。
だが、転移したことを信じないわけにはいかない。あの、日記もだ。
「ラント兄、大丈夫? 高く上げすぎた?」
尻餅をしている俺の目の前に両手を振りながらに小さな子供が心配そうに聞いてくる。身長が低いせいか尻餅をついた俺と立っている子供は顔が同じ高さに近い。俺が少し高いぐらいだ。
「いや、大丈夫だよ。たっ、助けてくれてあり、がとう」
「そっか、良かった! でも、ラント兄が落とし穴に引っ掛かっちゃ駄目じゃないか~~! この落とし穴はラント兄を守るためなんだからね?」
満面の笑みで安心してすぐ泣きそうな顔で小さな子供は訴えてくる。
だが、どうして落とし穴が俺を守るんだろうか? あれじゃあ、守る所か落ちて怪我するぞ。
「悪かったよ。でもどうしてあの落とし穴が俺を守ってくれるんだ? 怪我するぞ?」
「怪我は大丈夫だと思うよ? そのためにクッションあるもん!! でも、何度も言ってるけど落とし穴はラント兄が掛かるんじゃなくてラント兄を襲おうとした魔物が掛かるんだからね!!」
つまりこの危ない仕掛けは魔物から俺を守るものなのだろう。
「あーー、そっか、忘れてた! ごめんな?」
ここは嘘をつくしかない。優しい嘘というやつだ。
「おおーーい、トルス!! 姉ちゃんが呼んでるみたいだから帰りな!」
今度は二十歳ぐらいの男性がこっちに向かって声を掛けてきた。
トルスって誰だ? 俺はランドリットだよな。だってラント兄って呼んでるし。俺を呼んでる訳ではないだろう。
「あっ、シルルさん! 分かった‼」
返事をしたのは俺と一緒にいる小さな子供。
ああーー、こいつがトリスだったんだな。
「ラント兄、もう落ちちゃ駄目だよ?」
「あいよ、トリスありがとな!」
「うん!!」
トリスは俺に返事をすると元気に何処かへ去っていった。多分、姉のところだろう。
トリスと入れ替わりに二十歳ぐらいの男性が寄ってくる。近くに来ると容姿がよく分かる。 剣を背に背負い、茶髪で赤眼を持っていて剣の大きさとは釣り合わない細身な身体だ。
「あんた、先週ここに来たやつだよな? 挨拶しようと思って来たんだ。俺はシェルビール・バスタンだ。シルルとでも呼んでくれ」
「俺はランドリット・シマーシュダです、シルルさん宜しくお願いします」
「ああ、宜しく! 所でランドリットはどうしてこんな軽装で出歩いてるんだ? まあ、それは俺も同じかもしれないが……俺とは体の作りが違うだろうしな。一番ダメなのは武器を持たずに居ること」
この人は気さくな人のようだ。取り敢えず安心だな。
シルルさんに言われて気付いたが、制服から薄いTシャツと短パンの服に変わっている。
めっちゃだせぇじゃん……ランドリットさんはいつもこんな格好だったのか……。
「……最近来たばかりですから……」
よくわからないが、ランドリットではないということがバレないように嘘をつく。
俺は一体、今日だけで何回嘘を付くんだろう……。
「馬鹿なこと言うなよ。ここだけがこんなことになってる訳じゃない、全世界だ。何処に居ても武器を持ち歩かないと……あーーでも守ってもらうのもありか。取り敢えず、この町の用心棒として全く戦えそうにないお前を一人で出歩かすのは危険だな。お前、ここよく知らないんだろ? 何かするなら色々教えるぜ? 良い武器とかさ、武器屋に向かってんだろ?」
初対面ですぐに全く戦えそうにないって合ってるけど失礼じゃないか?
まあ、色々と疑問は生まれるがこの街を知るためにも少し付き合うか。長年、用心棒してるってことは色々としってるはずだ。守つてもらえそうだし。
「じゃあ、お願い出来ますか? 全世界を冒険できるぐらいの自分になりたいので」
ランドリットの夢を叶えるために日記に書いてあった一部をシルルに言うと……ガハハ、と思いっきり笑われた。
「…………」
「いやぁーー、すまない。面白いやつだなと思ってな。お前が冒険できる可能性は低い。だが、俺が付き合ってやるよ。今から敬語なしな。堅苦しいのはいやなんだ! 武器屋に行くかねぇ!!」
台詞が多く読みにくいかもしれませんね(汗)
また少しずつ加筆修正します