届かないKiss
「大好きだよー!」
そう言って強く抱きしめてくれる君が愛しくて僕も君を抱きしめる。
何も言わずに唇を交わす僕たちは、きっと世界中の恋人達から羨ましがられるくらい互いに愛し合っている
どんな時も一緒だよね。
部屋にいる時も片時も離れず、外に出掛ける時だって、車の中でも手を離してくれない君がとても愛しくて僕も強く握り返す。
でもさすがにお風呂に一緒に入った時はママに叱られちゃったね。
そういえば、こんなことがあったの覚えてる?
あれは僕と君が初めて離れてしまった時のことだよ。
君はたくさん泣いていたんだよね。「もう、どこにも行かないで」
泣きながら僕を抱きしめてくれたんだよ。
あの時は本当にごめんね、君が側にいると思ったんだ。
君が僕の隣にいるのは当たり前で、僕が君の隣にいるのが当たり前。
そんな当たり前のはずなのに……
「ねぇ、その男の子は誰?」
彼女は嬉しそうに僕に話してくる「たぁくん」
頭が真っ白になってしまった。
僕には君しかいないのに、君には僕しかいないのに
「そんなの許さない」
出掛ける彼女に吐き捨てた。
「もう、あんな男知らない!!」
ほらね、だから言ったでしょ? 僕の胸に顔を埋める彼女を撫でてあげる。
君の涙で濡れてしまうけど、君の涙なら許せるよ。
悲しかったよね、辛かったよね、君が悲しくて僕も悲しいよ。
大丈夫だよ、僕がいるから。
誰よりも愛してあげるから。自然と君の頭にキスをした。
あれからどのくらい月日が経ったのかな?
長い間君は、あの頃のように2人きりで過ごしたね。
でもどうしてかな?あの頃とは違う。あんなにお互いを求め合っていたのに、今はどこか距離があるように感じるよ。
「いってきます」
スーツ姿の君を見送る。
いつから君は僕と目を合わせずに挨拶をしなくなってしまったんだろう。
「今日も頑張ってね」
大丈夫、僕はそんなことで怒ったりなんかしないよ。
ほら、よく言うよね倦怠期だって
でも僕は君に飽きたりなんてしないよ?
「お前、荷物多すぎ」
「うるさいなー」
ガサゴソ音を立てながら何をしているんだろ?
ダンボールに彼女の荷物を入れていく彼は誰だろ?
また君は僕を裏切ったんだね……
でもどうしてかな、君の幸せそうな表情を見るとあの頃のような憎しみは生まれない。
君も大人になったように、僕も大人になったのかな?
「このクマ、なんか年期があるな」
男が僕を片手で掴んできた。ちょっと痛いよ。
「ちょっと、乱暴に扱わないでよ。それにその子はダンボールには入れないの!」
君に抱きしめられるのはこんなに幸せだったんだね。
こんなにも温かかったんだね。
「この子は私の彼氏なんだから」
「は? お前浮気かよ、結婚早々不倫か?」
「アンタ浮気相手に決まってるでしょ」
そう言いながら僕をそっと元の位置に置いてくれた。
言い合いをしている2人なんだかおかしくて、お似合いだね。
しょうがないから、その男を認めてあげる。
ちょっと抜けてるけどしっかりしている君にはぴったりだよ。
「ったく、じゃあ悪いけど……お前の代わりに彼女、幸せにするわ」
いつのまにか彼女は部屋にはいなくて、残っていた彼が僕の頭を撫でてきた。
「任せたよ」
そう彼に言ってやった。
「この子と結婚する!」
そう言ってくれたのは、一体何年前の話だっけ?
もちろん僕は君と結婚する気でいたよ。
純白のドレスに包む彼女を見つめる。
「アンタ、こんなところまでぬいぐるみ連れてきて恥ずかしい」
「良いの! 何か、見て欲しかったんだよね」
ママは呆れた声で色々と言っていたけど、僕は凄く嬉しいよ。
「ねぇ、似合ってるかな?」
クルクルと回りながらドレス姿を見せてくる彼女を優しく見つめる僕。
「とても似合ってるよ。」
「綺麗だよ。」
僕の声はいつだって君には届かなかったけどそれでも君が愛しいよ。
式に行く前に彼女は僕に最後のキスをしてくれた。
「大切にしてくれて、ありがとう……愛していたよ」
部屋を出る前に彼女は振り返り幸せそうな表情を向けてくれた。
幸せになってね。