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間接Kiss

 


 紙コップのジュースより、紙パックのジュースが好き。

 コンビニでもペットボトルを買ったらストローを貰う。

 だってそうすれば...


「おっ、そのジュースちょっとちょうだい」

「あっ...…」


 手に持っていた、紙パックが宙を浮く。紙パックについているストローの行き着く先は彼の唇へ。

 だってそうすればあなたとキスできる。



「アンタ、いい加減自分でジュースぐらい買いなさいよ」


 友達の智子(ともこ)が注意してくれた。


「たくさんはいらねぇんだよ、人から一口もらうくらいが丁度いいの。それに本人は怒ってないんだし良いじゃん」


 あぁ、その笑顔がとても眩しいです。

 彼、月島(つきしま) 隼人(はやと)君が好きなのは今に始まったことではない。

 運動神経抜群、勉強もそこそこできて明るい性格の彼に惹かれない理由なんて思いもつかず、私は出会って三秒で恋に落ちてしまった。


「な?良いだろ? (はな)ちゃん」

「あ、いや、その...」

「ちょっと、花! ここはガツンと言ってやりなさいよ!」


 2人の目線が私に注目する。


「私は、気にしてないよ」

「ほらなー!矢澤(やざわ)は気にしすぎなんだよ」


 ごめんなさい、本当はもの凄く気にしているんです。2人が言い合っているところをぼーっと見ながら私は彼から返されたパックジュースを握り締めた。

 間接キスを気にしたことなんて何年前の話なんだろう。

 小学生の頃、隣の席の男の子がお茶頂戴と言ってきたので私は何も考えずに渡して男の子は飲んだ。

 そしたら、周りにいたちょっとヤンチャな男の子達がこいつら、間接キスしたぜーなんてはやしたてられた記憶を鮮明に覚えている。

 高校生になって、今更そんなからかう男の子なんていないけど、あの日の私は大きく衝撃を受けていたわけで、月島君のする間接キスを気にするしかなかった。


「花ちゃん、今日元気ないけどどうしたの? もしかして、ジュース相当気に入ってたの?」


 気づいた時には、月島君の顔が目の前にあって驚いてしまった。

 不安そうな表情もとても素敵です。


「あ、ううん、違うよ」

「月島、花をからかわないでよ。ほら、次体育なんだから行こう?」


 彼女は、私の腕を引っ張った。


「うん、じゃあね」


 ちょっとそっけなかったかな。けど、ここで動揺しちゃったら今までの努力が水の泡となってしまう。

 間接キス一つで顔を赤くしたら、優しい彼は気づいて今後一切、飲み物がほしいなんて言わない。

 私にとっては、1日の唯一の楽しみがこの間接キスなのだから。死んでもなくさせない。


「私、変態なのかも……」

「急にどうしたの?」

「ううん、何でもないよ」

「にしても、毎日毎日月島は図々しいよね」

「ジュース好きなんだね」

「どうだろ? 案外花が好きなのかもよ?」

「えっ?」


 ドキッと心臓が鳴った。


「花、思ったことないのー? 月島と毎日間接キスしてるの」

「そ、そんなの気にしたことないよ」


 変な汗が身体中から出ている気がした。


「まぁ、花は優しいからね。でも月島は案外気にしてるかもしれないよ?」



 さっきの彼女の言葉がぐるぐると脳内を巡回している。

 月島君も同じように気にしてくれてる?

 いやいや、んなわけないでしょ。

 こんな変態みたいなこと思っているなんてきっと私ぐらいだよ。

 ブンブンと頭を振り思考を止めた。


「はーなーちゃん!」

「つ、月島君」


 会って三秒で恋したのは、見た目もあるけど何よりもこの呼び方だった。

 元々ともちゃんと月島君が仲が良く紹介してもらいその時に可愛い名前だね。呼びやすいし花ちゃんって呼ぶね。っとこれで私は落ちてしまった。

 こんなにも自分の名前が好きだと思ったことはなかった。


「ジュース、飲みたいな?」

「もうだいぶぬるいけど、それでも良かったら」


 パックジュースのデメリットは、蓋ができないことだ。おかげでカバンにいれることも出来ないし特に蒸し暑い日なんかは数時間でぬるい物になってしまう。

 彼は、大丈夫だよっといつもの調子で飲み始めた。

 あー、私もあのストローみたいに彼の唇に触れられたらどんなに幸せなんだろう。


「そんなに見つめられると、恥ずかしいよ」

「ごめん!」


 いつのまにか見惚れていたみたいで、慌てて目を逸らす。


「それにしても、さっき飲んだ時より減ってない気がするんだけど……花ちゃん、ちゃんと飲んでる?」

「へ?」

「ちゃんと飲んでくれなきゃ……ね?」


 そう言い、先程まで彼の口の中にあったストローの先端が私の口元に持ってかれる。

 彼はあの眩しい笑顔で私が飲むのを待っている。

 どうしよう、ここで拭ってしまったらきっと気にしてしまうだろうし、いや出きれば拭いたくないんだけどでも、これで咥えたら彼は気持ち悪がるんだろうか?


「花ちゃん?」


 あーっもう!

 私はそのストローを咥えてちゅっと吸った。中味のジュースの味なんて全然わからなくて、顔が赤くないか心配でしょうがなかった。


 彼は満足そうな顔をしていた。

 惚れた弱味ってこういうことなんだろうか。



 そして、私はまたコンビニでパックジュースを手にする。あの人とのキスを考えながら。



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