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Kissの練習

息抜きで書いている小説です。

 



「そういえば、彼女が出来た」


 腐れ縁の彼に言われたのはつい先日の話だった。


 お前でも彼女という物が出来るんだなと、嫌味の一つでも言いたかったが、優しい自分は素直におめでとうと言いその話は終了した。

 それから数日後、彼は突然、奢ってやるからファミレスに行こうと言い出した。

 普段のこいつから考えると気味が悪く、正直行きたくない気持ちの方が強いがどうしても、というのとそのファミレスの名物パフェを奢ってくれるとまで言われては、断ることなどできなかった。


「んで、何だよ?」

「お前に是非頼みたいことがあるんだ」


 プライドの高いこいつがここまでか、と内心驚いているのも

 彼は、自分のやってしまった失敗にも失敗とは認めず、屁理屈を言っては相手を納得させてしまう。

 プライドが高くむかつく奴だ。

 だから、こいつが彼女を作ったと聞いた時こいつを好きになる女なんているんだなっと、物好きなやつもいるんだなと驚きだった。


「一也、キスの練習台になってくれないか?」


 彼の表情は真剣だった。


「は?」


 こいつ今何て言った?

 黙々と食べていたパフェも喉に通らなくなってしまっていた。


「だからキスの練習台になってくれと頼んでいるんだ」


 俺は盛大に溜息をして、頭を掻いた。


「お前さ、何言ってるかわかってんの? そんなの彼女にしてもらえよ」


 男友達から彼女のことを口にされるのなんて、恥ずかしくて嫌だろうと気を使っていたが、そんな気も使える余裕もなく思わず言ってしまった。


「俺、初めてのキスなんだ」

「そうか..……」


 そんなの俺もだ!って反論したくなったがそんな虚しいこと言いたくはない。


「んで、何でその、俺に練習台?」

「彼女と付き合って三ヶ月が経つんだ」

「へー……」

「先日、彼女に雅臣君はキスしたことある?と聞かれてしまい」

「....…」

「キスぐらいあると言ってしまったんだ」

「バカだろ」


 このプライドの高い王様はいつもそうだ。したこともないのに出来るといい、見栄をはる。

 実際出来ないことは、隠れて練習をしてそしてその付き合いをしてきた俺だけどまさかここまで見栄はりだとは思わなかった。

 俺のバカだろ発言で、何も言えなくっている彼は少し顔が赤かった。

 一応、照れてるんだな。


「彼女さんに、嘘でしたって言えば?」

「そんなこと出来るわけないだろ。そんなの……」

「俺のプライドが許さない?」

「分かってるなら言うな」

「それで、俺を練習台にするお前のプライドはどうかと思うけどな」

「俺だって悩んだんだよ、それで行き着いたのが……お前ならできる気がしたんだ」


 バカだバカだと思っていたけど、正真正銘のバカだと思う。


「勘弁してくれ」

「大丈夫だ、ほらリップクリームや唇パック?と言う物もしっかり購入してきたからな」


 カバンから出したのは、数々の化粧品?だった。リップクリームはパッケージに入ったままで「ぷるるん唇に!」など書いてあった。


「こんな物買う勇気あるなら、嘘でしたって言えるだろ!」

「彼氏が嘘つきなんて嫌だろ!」

「お前の彼女なんだから、お前がプライド高いのなんて知ってるだろ!」

「こんなとこ見せたら嫌われるだろ」


 驚いた、彼は彼女にゾッコンみたいだ。長年彼に付き添ってきたけど誰かを認めることもせずにましてや他人に嫌われたくないと願う彼は今後一生見れない気がした。


「お願いだ!ファーストキスを俺にくれ!」

「おい、ちょっと静かにしてください。頼むから!」


 今更ながら周りの目線が気になる。

 自分から見て向かいのテーブル席で食べている女子二人が期待をした目でこちらを見つめている気がしてしょうがない。


「しょうがない、場所を変えるぞ」


 突然彼は立ち上がり、伝票を持ち会計へ歩き出した。


「おい、どこ行くんだよ?」

「どこって、俺の部屋だ」


 店員のありがとうございましたーという声が遠くに聞こえた。



「よし、どれからやるか?」


 先程のリップクリームなどを机に並べて見せてきた。


「やらねーよ、いい加減目を覚ませ」

「お前もいい加減腹をくくれよ、しやすいように部屋に入れてやったんだから」


 殴って良いだろうか? 唇パックをやつに投げつけた。

「だいたい、練習するものか?」

「歯とか、当たるって聞くだろ?」

「そのくらいの失敗可愛いものだろ」

「そんなみじめな失敗できるわけがない」


 こいつ相当悩んでるんだな。しかも、何故かこいつが唇パックをしていた。


「なあ、彼女さんどんな顔?」

「なんで突然...…」

「いや、そういえば知らねぇなって。ほら協力するにしても顔も知らねぇやつには嫌だろ?」


 彼は不満そうな顔をしつつ、携帯を操作して「ん」と画面を見せてきた。

 画面に映っている女子は、こちらには向いておらず笑っていた。


「お前これ、盗撮だろ」

「うるさい、見せたんだから協力しろよ」


 図星なのかさらに顔を赤くして、慌てて携帯を閉じた。唇パックをはずし唇をキラキラさせていた。


「お前本気なのか?」

「俺はいつも本気だ」


 俺の肩を両手で掴んできた。


「待ってくれ、落ち着けよ」

「お前も落ち着け、外すだろ」

「外すって俺は的か!」


 だんだんと顔が近づいてくる、なんとなく自分の頬が熱い。

 こいつ意外に顔整ってるんだよな。

 キスする女の子ってこんなこと思うんだろうか。というかこの状況本当にキスしそうだ。こいつにやるのか?俺の大事な大事なファーストキスを。


「い、良いのか?」


 あと数センチで唇が重なるというところで、俺は震えながら声を出した。


「何がだよ?」


 彼の動きは止まり、落ち着いて深呼吸をした。


「....俺とここでキスしたら、お前は彼女を裏切ることになるんだぞ?」

「それは...…」

「今、この状況になって思ったけど、俺がお前の彼女ならこんな事するぐらいなら正直に言ってくれたほうが嬉しい」

「なっ、けど……」

「これは彼女に対する裏切りだ」

「っ……」

「好きならプライドとか捨てろよ」


 彼は肩から手を離し、俺から離れた。


「これで別れを言われたらどうする」

「そしたら、責任とってファーストキスお前にやるよ」


 彼は笑っていた。



 数日後、彼から彼女に正直に告げたと報告があった。当たり前だが別れ話とかにはならず俺のファーストキスは奪われずに済んだ。

 彼女の話をする時の彼はいつも、少し顔を赤くして話してくる。

 彼とその彼女はキスできたのか? という結末はさすがの彼も教えてくれなかった。


「いつでも練習台になってやるからな」


 誇らしげな顔でこちらを見つめてくる彼に俺は笑顔で言ってやった。


「死んでもお断りだ。」





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