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真実を探せ  作者: いろは茶
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第五章 和風パスタとあすかワールド2

高速を降りて、近くの駐車場に車を止める。


朝から長時間車を走らせているので橘はガソリンの残量が心配になったが、あすかには「大丈夫」と軽く言われた。だけど実際問題ガソリンの残量は本当に少なくなってきているし、橘には何が大丈夫なのかよく分からなかったが、構わず歩き出したあすかはあまり気にしていないようだったので、橘もあまり気にしなことにした。


歩きながら橘は思う。早く昼食が食べたい。――パスタ食べたい。


漫画やアニメみたいにお腹が「ぐうぅ」と鳴ることはないが、それでも空腹に体力をごっそり持っていかれる感じがする。先程図書館で血みどろの「殺し合い」をして体力を消耗していたので、なおさら、ふらふら歩くような感覚に陥ってしまう。


やはり、人間は食事をとっていかなければダメだ。「水だけ飲めば一週間は生きられる」とか言っているサバイバルな軍人たちの頭はちょっとどうかしていると思う。人間は食事を取らなくてはいけない。橘の場合、パスタを食べなければ生きていけない。


あすかがカーナビの「パスタ専門店の行き方」を完璧に記憶していたので、道には迷わず、案外早く目的地についた。繁華街の外れにある中くらいのパスタ店。看板には「ポポラマーマ」と書いてある。やった! ポポラマーマは橘行きつけのパスタ専門店だ。


二人が中へ入るとすぐにアルバイトの店員が可愛らしい営業スマイルを浮かべて禁煙席へ案内してくれた。木製の椅子に座って、店内をなんとなく見回してみる。橘とあすか座っている席を含めて、テーブルは全部で一四個ほど。午後三時半という時間帯を考えたら普通全部の席が埋まっていそうだが、客は意外と少なかった。もしかしたら、ここの立地条件が悪からかもしれない。


橘はメニューを取り出した。客は少なくても、パスタの味さえよければ橘には関係ない。注文するパスタはすぐに決まった。「ナスと水菜のペペロンチーノしゅうゆ味」。最近ハマっている和風パスタの中でも、特にお気に入りのひと皿だ。


一方で、向かいの席にいるあすかはまだメニューを見て「むうぅ」と唸っている。あすかはヒューマノイドなので食事を取らなくても生きていけるらしい。それなので、普段全く機会がない「メニュー選び」に苦戦しているようだった。


橘はあすかに声をかけた。「どう、決まりそう?」


あすかは苦い口調で答えた。「まったく決まりそうにない」


それもそうか、と橘は思った。あすかはパスタを食べたことがない。その食べたことのないパスタの名前がびっしりと書き詰められたメニューを見ても、何を選べばいいのか分からなくて当然だ。それなら――――


「私のと一緒にする?」橘は提案した。


「そうさせてもらおう」あすかは頷いた。


「決まりね」と橘は笑い、通りかかった女性店員に「ナスと水菜のペペロンチーノしょうゆ味」を二人分注文して、ドリンクバーもつけた。


ドリンクバーと言ってもあすかにはピンとこなさそうだったので、ジュースは橘が二人分グラスに注ぐことになった。氷をそれぞれ三つ入れて、オレンジジュースを注ぐ。ここで橘が炭酸飲料を選ばなかったのにはきちんとした理由があった。レストランで炭酸飲料を飲んでしまうとすぐにお腹がいっぱいになって肝心の注文品が食べられなくなってしまう。だから炭酸飲料は飲まない。橘にとっては常識だ。


席に戻って、あすかにオレンジジュースが入ったグラスを手渡す。「ありがとう」と言ってジュースを飲むあすかの反応は分かりやすかった。声には出さなくても、実に美味しそうな顔をしている。たかがジュースでこの反応。注文品のパスタを食べたら一体どんな顔をするのだろう。橘は考えて、「やっぱりこの子可愛い」と結論した。


だが、楽しむ他に今後の動きについても話し合わなくてはならい。


グラスの氷をストローで回しながら橘は言う。「これからどうするの?」


「そうだな」とあすかは顎に手を当てる。「とりあえず、ここを当たってみよう」


そう言って、あすかはポケットから小さな名刺を取り出した。名刺には「クロノ株式会社」と書かれている。うわっ、物騒な名前。


「ここに行く理由は?」と橘。


「『組織』とグルの可能性が高い」とあすか。


どうして? と橘は疑問を口にしかけたが、なるほど。あすかはおそらく、図書館で殺した『組織』の男から名刺を入手していたのだろう。さすが、抜け目無い。


「『組織』の目的は何なんだろうな」とあすかは言った。


「尋問した男は……」と橘は言う。「『この世界の秘密を知ろうとしたからお前たちを攻撃した』って言っていたけど」


「だよね。予想通りだな」


「そうね。予想通りだわ」


ここまでは情報屋が提供してくれた情報通り。つまり、橘とあすかにとっては予想通りだ。あの情報屋は裏切ったが、情報までは裏切らなかった。結局、あのメガネをかけた青年――情報屋は金さえ貰えれば誰にだって情報を提供するのだろう。――まあ、今となってはどうでもいい話だ、と橘は思う。


そんな感じに、『組織』の話が丁度手詰まりになってきたところで、注文した「ナスと水菜のペペロンチーノしょうゆ味」のパスタが二つテーブルに置かれた。ナイスタイミング。


話を中断して、橘は目の前のパスタを見た。ニンニクとスパイスの香ばしい匂いに「じゅるる」と思わずヨダレがでそうになるが何とかこらえる。勢いに任せてそのまま食べてしまいたかったが、食べる前のルールを橘は忘れなかった。


「いただきます」


そう言って、橘はスプーンとフォークを器用に使ってパスタを食べ始めた。一口目を食べて橘は興奮のあまり「んー! んー!」と唸った。やっぱりこのパスタはうまい。和風パスタ万歳だ。


あすかは橘のスプーンとフォークの使い方を真剣に見ながらマネをしているが、初めてのことなのかなかなか苦戦しているみたいだった。あすかがパスタでオロオロしていることがおかしくて(あと可愛くて)橘は笑ってしまいそうになったが、笑うとあすかに睨まれそうなので我慢する。


「食べにくいけど、うまいな」と口をもぐもぐさせながらあすかは言った。


「でしょ。パスタは最高にうまい食べ物なのよ」と橘は自慢げに言った。


自分がチョイスした食べ物を褒められると、別に作ったわけでもないのにすごく嬉しくなる。なんでだろう? その理由は分からなかったが、あすかの反応はすぐに分かった。スプーンとフォークの使い方もこなれてきたあすかは、実に幸せそうな顔をしている。良かった良かった。橘もこのパスタの味とあすかの反応に大満足だ。


あっという間に二人共パスタを平らげた。満足そうな顔をしているあすかに橘は訊いた。「パスタ、はまっちゃった?」


残ったグラスのジュースを飲み干してあすかは答える。「パスタ、というか、人間の食文化に興味が出てきたかも」


「良いことだよ」と橘は笑った。


「そうかな」とあすかは恥ずかしそうに笑った。


お腹も満腹になったので(ヒューマノイドが満腹になるのかは知らないが)、二人はレジへ向かった。


向かう途中、橘はあすかになんとなく質問した。


「図書館の死体、どうなっちゃうと思う?」


「さあね。今頃この世界が『都合が悪いから』って図書館ごと全部消しているかもしれないな」


あれ? あすかの返答に、橘は引っ掛かりを感じた。


橘は考える。この世界は『都合の悪い』存在を自由に消すことができる。そしてこの世界の秘密を守る謎の『組織』。考えてみたらおかしくないか? この世界が『都合の悪い』存在を自由に消せるのなら、この世界の秘密を知ろうとする人間は全員『都合が悪い』から一瞬で消されてしまう。だったら、『組織』って必要なくないか? 大体、この世界の秘密を守る『組織』のトップはおそらくこの世界の『真実』を知っているはずなので、この世界には逆に『都合が悪い』のではないだろうか? それに、橘もあすかもこの世界の『真実』を知ろうとしているのだから明らかに『都合が悪い』はずなのにどうして消されない? もしかして、『都合が悪い』とはもっと別の意味があるんじゃないのか? ――と、次から次へと疑問が増えていって、考えがうまくまとまらない。橘は思考を中断した。――まあ、いいよね。今は考えなくても。


レジで会計を済ませ、橘とあすかは店を出た。


車を止めてある駐車場へ歩きながら、改めて今後の確認をする。


「とりあえず、『クロノ株式会社』ってところに向かう」とあすか。


「ちょっと待って」橘は言った。「その前に、今日の寝床探さない?」


「車で寝るのは嫌?」


「当然よ。私、これでも一応思春期の女の子なの。ヒューマノイドのあすかには分かんないかもしれないけど」


あすかは少しむっとした顔になった。「分かったよ。今日は『クロノ株式会社』周辺のホテルにでも泊まろう」


それを聞いて橘はほっと胸をなでおろした。「殺し」をしたあとは必ずシャワーを浴びたくなる。別に綺麗好きというわけでもないが、どうしてもシャワーを浴びたくなってしまうのだ。なので、助かった。


「早く車に戻りましょ」橘の足取りは軽かった。


「変なの」あすかは呆れたように言った。


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