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真実を探せ  作者: いろは茶
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第五章 和風パスタとあすかワールド1

料金所を通り、あすかと橘を乗せた赤い車は高速道路を走る。情報屋が根城にしていたとある町の市民図書館をあとにし、先ほど通った道を戻る。


小さな車内にはオーケストラの曲が流れている。曲名は確か『新世界』。作者は知らないが、橘は一度だけテレビの音楽番組で聴いたことがあった。力強く、とても情熱的な曲だ。しかし――――――、


「ねえ」と助手席の橘はあすかに話しかけた。


「ん?」と運転しながらあすか。


「なんで『新世界』なの?」


「気分」


車内でオーケストラって明らかに場違いだろ、と橘は心の中で呟いた。あすかは「気分で曲を決めている」と言っているが、実際のところ曲選びは数枚の重なったCDをランダムに引き抜いている感じだ。気分というより、絶対適当に選んでいる気がする。


――『新世界』、か。ふと橘の頭の中に『作られた世界』という言葉が浮かび上がった。どうしてその言葉が浮かび上がったのか橘にもよく分からなかった。だが少し考えてみると、なるほど。世界、という言葉が二つとも共通している。だから連想してしまったのか。


――いいや、それだけではないだろう。『新しい世界』と『作られた世界』はどこか似ている。そんな気がする。橘はあすかの適当な選曲に、少しだけ運命を感じた。


それなので橘は、なんとなく「これは『運命』かもしれない」と呟いた。


「『運命』?」あすかが質問してきた。「それってベートーヴェンの?」


「違うわよ」と言って橘は説明しようしたが、面倒臭いのでやっぱりやめた。「なんでもない」


「ふうん」とだけ言って、あすかは特に追求してこなかった。そんなことより、今はオーケストラを聴きたいらしい。気分が良いのか、運転しながら鼻歌までしている。


「そんなことより、お腹空かない?」橘は話題を変えた。今は音楽の話から離れたい。


「別に。お腹は空かない構造になってるからな」


そうだった。ヒューマノイドに食事は必要ないんだっけ。「でも私はお腹空いてるの。もうすぐ午後三時だよ。いい加減、パスタ食べたい」


「パスタ」


「そう。パスタは私の好物なの」


「どうしても食べたいのか」


「うん。今すぐに、ね」


「分かった」とあすかは頷いて、ハンドルの隣にあるカーナビの画面をタッチ(この時あすかは猛スピードで走る車を片手運転で操作していたので、橘は一瞬だけ肝を冷やした)。入力欄に『パスタ専門店』と打ち込み、検索機能を駆使してあっという間に近くのパスタ専門店を見つける。


最近は携帯だけでなく、カーナビも進化しているらしい。橘はわざとっぽく「うわーお」と驚いてみせた。


もう一度料金所を通ると、あすかは「降りるよ」と言ってハンドルを右に回した。道路の右側には螺旋状に整備された『降りる用』の道があり、あすかはそれを使って高速から降りるつもりでいる。


嫌だな、と橘は思った。記憶を失って以来、車に乗ったのも高速道路を使ったのも今日が初めてだが、この螺旋状の道だけは何故か初めてではないような気がする。それはきっと、失われた記憶ではなく本能が警告しているのだ。これは絶対に酔うぞ、と。


もともと「パスタが食べたい」といったのは自分だ。橘は覚悟を決める。


「『新世界』について、あすかはどう思う?」降りる直前、橘はあすかに訊いた。


「深く考えたことはないけど、カッコイイ曲だな、とは」ハンドルを操作しつつ、あすかも橘に訊いた。「橘ちゃんはどう思う?」


「パスタが死ぬほど食べられる『新世界』があれば最高だな、って思う」


「どんだけパスタ食べたいんだよ」


あすかは苦笑して、車は螺旋状の道をゆっくり降り始める。


連続する急カーブのせいで目がぐるぐる回る橘はパスタの気持ちを考えてみた。パスタもフォークでぐるぐる巻きにされるとき、こんなふうに目が回るのだろうか。だとしたら、ちょっとだけパスタが可哀想だ。


人の口に入って悲鳴を上げるパスタを想像してみて、橘はごくりと唾を飲み込んだ。食べられてしまうパスタはやっぱり可哀想だが、食欲はそそられる。


パスタ食べ放題の『新世界』を夢見ながら、橘は舌なめずりした。


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