第二章 情報屋、組織襲撃5
橘は、割れた窓ガラスから外の様子をうかがった。
先ほどの銃声が外にも響いている。騒ぎになるのは時間の問題だろう。誰かが勝手に乗り込んでくる前に、ここから立ち去っておく必要がある。
地上には、すでに何人か人が集まってきている。
「手短に済まそう」
あすかが言った。
「そうね」
頷いて、橘は倒れた男の前で膝をついた。
「あなた達はなにもの?」
端的に質問する。
男が苦しそうに言った。
「我々の組織に名前などない」
「なぜ私たちを襲ったの?」
橘は質問を続ける。
「……お前たちは、秘密を知ろうとした」
「秘密」
つまり、この男たちはそのなんらかの秘密を隠したくて橘とあすかを襲ったのだ。
秘密ってなんだ? なにを隠している?
――思い当たることが、ひとつだけある。
橘は訊いた。
「現象と関係があるの?」
「……死にたくなかったら、これ以上その話に深入りしないことだ」
そう言って、男は強く咳き込んだ。口から血が溢れてくる。
「次はないぞ」
「………」
最後の助言は図星のようなものだった。
そういえば、と橘は思う。
男たちの服装を観察すると変だった。初夏のこの時期に、厚着の黒スーツ――似たような格好をした人物を、橘は知っている。
黒コートの女。
服装もなにか関係しているのだろうか。女も組織の一員?
「組織か……」
「おい」
あすかに肩を叩かれて、橘は我に返った。
「もう行こう。下に人が集まりすぎている」
「あ、うん」
部屋の死体を踏み越えて廊下を進むと、情報屋が玄関で仰向けに倒れていた。
上半身のいたるところに弾痕ができている。即死なのは間違いなかった。
――情報屋は組織の秘密にかかわって、殺されたのだ。
あすかが近くでなにか見つけた。
見ると、情報屋の脇腹あたりにあの白いファイルが落ちている。
「持っていく?」
「ああ。使えるかもしれない」
ファイルを拾って、二人は玄関を出た。
困ったな。今階段を下りていったら注目を浴びてしまう。少し考えた末、橘はあすかに抱き上げてもらって、直接二階から飛び降りた。
人込みをさけるように道を迂回して、二人は車に乗り込む。