退院日
5時半に自然に目覚めた。
記憶がないので、寝ている間、一度も起きなかったようだ。
今日はクリスマス。
ラジオをつけ、イヤホンで聴きながら日記を書いた。
ラジオからは、クリスマスソングが流れていた。
クリスマス退院。
貴子へのプレゼントは健康なのかもしれない。
今日は退院日だから、今日何をすべきか、頭の整理をする。
退院したら、1月10日の診察予約日までは病院には来ないだろう。
しばらくは車の運転もできないだろうし。
病院でやるべきことは、今日中にやっておかねばならない。
とりあえず…。
今日やるべきことを日記に書き出す。
朝食後やること:①会計②民間保険の書類を提出③テレビカードの清算。
家に帰ってからやること:年賀状を書く
こんなもんかな。
6時過ぎに食堂にお湯を汲みに行き、病院の1日が始まるのをお湯を飲みながら待った。
荷物の整理をしておかないと。
6時半過ぎに電気がついた。
よし!
顔を洗って、化粧水・保湿クリーム・日焼け止め。
6時45分に看護師が来て、体温・血圧・脈拍測定。
「お会計って、金額出るの何時頃になりますか?」
「事務が来てからになるので、10時くらいになると思います」
そっかー。
じゃぁそれまでに荷物整理しておこう。
美子さんは4本、織田さんは2本、採血されていた。
美子さんと手術日は同じだったが、美子さんは片方の卵巣全摘の開腹手術なので貴子より回復が遅いようだ。
織田さんは貴子の2日後の腹腔鏡手術なので、採血結果が良ければ明日退院できるのだろう。
看護師が出て行ったのを見計らって、荷物の整理を始めた。
朝食は、白米、炒り卵・人参・チンゲン菜の炒め物、カブの味噌汁、白菜ピクルス、ヨーグルト。
これが最後の病院食だ。
朝食のときは、電車の中の変な人の話題になった。
美子さんがJRの職員なので、面倒な乗客の話など、盛り上がった。
美子さんは何度も同じ乗客に嫌がらせを受けて、ついぶち切れてしまって「ヤバイ、クレーム来る」と内心焦ったが、毎朝同じ状況を観ていた乗客が「そうだそうだ」「よく言った」と味方してくれた経験があるそうだ。
20代のゆとり世代ようだが、しっかりした子に思えた。
貴子はゆとり世代とあまり関わったことがなかったので、ゆとり世代に対して勝手に偏見を持っていたことに気づかされた。
ゆとり世代だろうと、そんなに変わらない。
そう思った。
貴子も、電車内で男性性器を見せられたこと、胸元を覗かれた経験を話した。
どちらも、大学時代に電車通学していたときの話だ。
男性性器を見せられたのは、大学を終えて帰宅途中のことだった。
出入口付近の2人掛けの席で寝ていたら、隣の人の肩がぶつかってくる気配で目覚め、うるさいなぁと思ってボーっと目を開けたら、新聞を広げている中年男性が隣に座っていた。
他からは見えないように新聞を広げていたが、”ホラ見て”と言いた気に、男性性器を見せてきた。
寝起きでボーっとした頭に”こいつはヤバイ”と感じ、慌てて席を立って他の車両に移動した。
後で、「小さっ」って言ってやれば良かったと後悔した。
ああいう人間には、今後二度と同じことができない精神的ショックを与えるのが良い。
逃げたりすると、逆効果のような気もしたが、結果的には本能的に自分の身を守っただけになってしまった。
胸元を覗かれたのは、大学へ行く途中で4人掛けの席で寝ていたときの話だ。
何となく気配を感じ、目をあけると向かいの中年男性が覗いていたのだ。
貴子はどちらかというと華奢な体系で、覗いても見えないと思うのだが。。。
可愛い感じの白いブラウスを着ていたので、そそってしまったのかもしれない。
慌てて、弁慶の泣き所に蹴りを入れて席を代わった。
そのときは大学4年生で研究室通いだったので、研究室に着くなり「聞いてよー」と同級生にまくし立てたものだった。
外見はおとなしい貴子が蹴りを入れた話に大学院生が驚いていた。
入院してお互い数日立っているので、旦那さんの話や彼氏の話、今回病気が発覚したときの話など、ちょっと踏み込んだ話もした。
朝食は、美子さんと織田さんと同じテーブルだったので、部屋に戻っても話し続けた。
貴子が荷物の整理をしていると、「そっかー。紺野さん、今日退院なんですね。寂しい~」と、織田さんが言った。
「夜中の2時に有体離脱してきますから」
織田さんは一昨日の夜中の2時頃に誰もいないベットのところの人の気配を感じたと言っていたので冗談で言ってみた。
結局、看護師さんではないか?という話になってはいるが。
「やめて下さいよー」
美子さんも笑っていた。
美子さんの主治医が”ラーメン小池”に似ていると話をしていたらちょうどその医師が入ってきて、3人で笑いをこらえた。




