手術翌日
卵巣嚢腫の手術翌日の午前中の様子です。
音がして、目が覚めた。
朝の検温のようだ。
看護師がカーテンを開け、貴子に体温計を渡した。
今日は男性看護師が担当のようだ。
入院前は、婦人科病棟に男性看護師はいるべきでないと思っていたが、違和感はなかった。
まだ若い。20代前半だろうか。
ノロノロと体温計を脇に入れる。
体が重いだけで、痛みは全くない。
血圧を測り終わると、「今日は採血です」と採血された。
今日のスケジュールを大まかに教えてくれた。
「尿の管を抜くのと、体を拭くのは、女性看護師にやってもらいますね」
ホッとした。
やっぱり、看護師とはいえ、直人以外の男性に体を触られるのは嫌なものだ。
8時ごろ、朝食アナウンスが流れる。
とても食堂には行けない。
体は動く気配もない。
尿道には管が入っていて、とても立てない。
朝食抜きかなーと思っていると、女性看護師が朝食を運んできた。
そう言えば、昨日、ガスが出たか確認されたのだ。
少しだったがオナラが出た気がしたので、「出ました」と答えていたのだ。
斜め向かいの美子さんのところにも、食事を持って行っていた。
お粥だけかと思ったが、、ちゃんとおかずもついていた。
全粥、茄子の味噌汁、小松菜のおひたし、肉じゃが、牛乳、だった。
おかゆ用に、梅ペーストがついていた。
食べられるかなーと思ったが、お粥を少し口に入れると意外と食べれた。
結局、牛乳以外、全部食べた。
牛乳はそのまま飲むと下痢してしまうのだ。
言っておけば良かったのだが。
朝食を食べ終わり、しばらくすると、看護師が食器を下げに来てくれた。
空になった食器を見ると、驚いていた。
手術翌朝に間食する患者は珍しいのかもしれない。
美子さんはほとんど食べられなかったようだった。
9時になると点滴が追加になった。
抗生剤のようだった。
担当の男性看護師は、子供の頃入院した経験があると言っていた。
一生懸命患者に接しようとしているのが伝わってきた。
自分の入院経験から、看護師になったのかもしれない。
歯磨きできないなー仕方ないなーとボーっとしていると、愛子先生が入ってきた。
「ガス出ました?」
え?
知らないんすか…。
貴子はあっけにとられる。
「昨日ガス出ました。朝食も牛乳以外全部食べました」
驚いた顔をする。
「早いなー」
うなずいて、独り言のようにつぶやき、尿量等チェックしている。
「癒着、ありました?」
気になっていたことを聞いてみた。
「あーありました。…また、退院時に詳しくお話しますね」
やっぱり。
何となく、そんな気はしていた。
だからこそ、手術した方が良いと思っていた。
やった。
自分のカンが当たったのが、嬉しかった。
根掘り葉掘り手術の様子を聞きたかったが、ボーっとしていたし愛子先生も忙しそうだったので、断念した。
隣のベットの人は退院が決まったようで身支度していた。
愛子先生が出て行き、少し体を動かしてみる。
少し、動けそうだった。
朝から何回も携帯を取ろうと努力はしているが、取れていなかった。
よし、もう1回やってみよう。
テレビの下の患者個人用引き出しの金庫に入れてあった。
引き出しは2段になっていて、上段のベットから一番遠い左に小さい金庫が設置されていた。
長財布がやっと入る大きさだった。
何となく、届く気がして、腕にしてあった金庫の鍵を手に持つ。
腕を伸ばすと、何とか届いた。
鍵を挿して、金庫を開け、携帯を取り出す。
電源を入れると、メールが3つ届いた。
3つとも、母からだった。
1つ目は帰ってゴメン・調子はどう?、2つ目は返信がないので心配、3つ目は返信がないので心配・後で行く、という内容だった。
3つ目だけが、今朝の送信になっていた。
相変わらずだなー。
マッタク、マイペースなんだから。
携帯を金庫に入れたことは知っているはずだ。
手術の日は、普通はメールできないだろう…。
ちょっと考えてくれれば、わかると思うのだが…。
貴子は、母親に返信する前に、直人にメールする。
母とは違って直人はその点、よくわかっている。
メールが入っていないのが、直人らしい。
直人へのメールを送信し、母親にメールをしていると、別の女性看護師が入ってきた。
10時くらいだった。
立ってトイレまで行くことができれば、尿の管を抜いてくれると言う。
これは頑張らねば。
看護師はじっと見ている。
体は重く、動けそうになかったが、尿の管を抜いてくれるなら全力で頑張るしかない。
尿の管は違和感があり、早くとってもらいたかった。
「よいしょ」
そう言って、右ひじを突いて体を起こしてみる。
案外、動いた。
「すばらしいです」
看護師も応援してくれる。
右手をつき、体を起こす。
足を引き寄せる。
尿がたまったプラスチックの袋が右横に置いてある。
このままだと、お尻で踏みそうだ。
「コレって…。踏んじゃって大丈夫ですか?」
「いいですよ」
言われて安心して、お尻で踏む。
足をベットから下ろして腰掛けた。
ふぅ。
相変わらず体は重いが、何とかなるもんだ。
看護師が点滴台を引き寄せてくれる。
ベットの手すりつかまり、立ち上がってみる。
「えいっ」
立てた!
点滴台の取っ手につかまる。
ヨシ!
ゆっくり足を踏み出す。
歩けるよー。
ニッコリマークである。
看護師に付き添われ、ノロノロとトイレまで歩く。
トイレまではそれなりに距離がある。
病室を出て、2部屋分歩いて、右に曲がる必要がある。
点滴している間は、車椅子用のトイレを使うように、とのことだった。
車椅子用トイレは普通のトイレの向かいだが、ほんの少しだけではあるが距離が短い。
トイレまで行き、病室に引き返す。
やったー。これで尿道カテーテル抜いてもらえるもんね。
病室についてベットに上がる。
しばらく待つと、看護師が温かいタオルを持ってきた。
尿の管を抜いてくれる。
ただ抜くだけだった。
「意外と…。抜くだけなんですね」
思わず聞いてしまう。
「そうなんですよ」
尿道カテーテルをしていたので、しばらくは尿意を感じないことが多いらしい。
尿意を感じなくても12時までにはトイレに行くように、とのことだった。
持ってきた温かいタオルで体を拭いてくれた。
人に体を拭いてもらうなんて、記憶にない。
素直に看護師に言う。
「明日からは自分で拭けますよ。今日だけはスミマセンけど」
「いえいえ。私は快適なのでいいです」
本心だった。
「おしもはこのタオルでお願いしますね」
ふーん。おしもって言うんだ。
渡されたタオルで、お尻や大事なところを拭く。
拭いただけだったが、サッパリした。
その後、手伝ってもらって、着替えをした。
看護師が出て行き、母へのメールの続きをうって送信した。
なるべく動くように言われたので、食堂にお湯を汲みに行く。
痛みは全くなかった。
ノロノロ往復し、お湯を飲みながら日記を書く。
貴重な体験だから、事細かに記録しておくことにしており、専用のノートを持ってきていた。
薬局でメーカーからもらった目がパッチリした可愛いキリンのイラストが入ったノートである。
普段は無地を好む貴子だったが、何となくテンションを上げたかったし、なんと言ってもタダでもらったものだったので。。。
11時半頃、何となく尿意を感じたので、トイレに行った。
尿意か自信もなかったが、漏らすのは恥ずかしい。
念のため先に行っておこう。
車椅子用トイレは初めてで、点滴の管がついていたが、自力でできた。
しばらくすると、昼食のアナウンスが流れた。
自力で行けそうだったので、食堂に行った。
全粥、キャベツのゆかり和え、白身魚の焼魚、そぼろ煮、バナナ、牛乳、だった。
完食した。




