手術前夜
手術前夜の様子です。
17時頃に母が帰宅してからは、暇だった。
病室にいても落ち着かない。
便通を良くするためにも、水分を多めにとらなくちゃ。
コップを持って食堂に行き、お湯を飲みながら置いてあったマンガを読む。
20分ほど経っただろうか。
うーん。
やっぱり落ち着かない。
女の嫉妬や復習の短編マンガ集だった。
暇つぶしにはなるが、続きを読みたくなるマンガでもない。
もしかしたら病室に呼びに来ているかもしれないと思うと、気が散る。
それなら、とまた病室に戻った。
戻ってしばらくすると、不意に看護師さんが入ってきた。
夕方の検温のようだ。
体温計で体温を測り、腕式の血圧計で血圧を測った。もちろん正常。
全員測るようで、同室の患者も同じように測っていたようだった。
カーテンで仕切られてはいるが、雰囲気でだいたいわかる。
今、貴子の部屋には、貴子を含めて3人の患者がいる。
貴子の左側、斜め向かいにいて、正面は無人だった。
どうも左側の人は性格がきつそうだ。
面会に来ていた母親に暴言を吐いていた。
せっかく来てくれてるのにねぇ。
まだ若いのかもしれない。
18時を過ぎ、ふと夕飯のことが気になった。
渡されていた絵入りの計画表を見ると、21時までは飲食自由となっていた。
…夕飯ってでるのかな。。。
聞かなかったので、わからない。
他の患者さんはどうやってご飯食べるんだろ。。。
入院した経験がないので見当もつかない。
テレビドラマとかでも観たことないしなぁ。
貴子が観たことのあるドラマの入院シーンは、ベット上に寝ているシーンだったり、点滴をしたまま廊下を歩いたりしているところだ。
食事風景は観たことがない。
病院食はおいしくないとか味が薄いとかは聞いたことがあったが。
19時近くになっても何の音沙汰もない。
うーん。
売店のご飯も売り切れちゃうと困るし。。。
お財布を持って、ナースステーションに向かった。
「あの…。夕飯って私、出ますか?」
「出ますよ。もう少しでお呼びします」
看護師は笑顔で対応してくれた。
ふと、食堂を見ると、トレーに載った食事をテーブルに並べているところだった。
あの中に私のもあるのね。
安心してUターンする。
考えてみれば、14時入院だし夕飯が出ないことは考えにくい。
食堂と書いてある以上、あそこで食事するのだろう。
わかってみれば当然のことだが、人生はじめての入院で勝手がわからない。
わかんないのは当然。
どんどん聞いちゃお。
調剤薬局に勤務していて、こちらが驚くようなことを言う患者は多い。
薬の刻印がシートの上から見えるものと見えないものを違う薬だと思って2錠(本人曰く2種類)飲んでいて足りなくなった、等、色々である。
きっと向こうも慣れっこである。
かなり恥ずかしいことを聞いても、そのうち忘れられるだろう。
恥ずかしがることもない。
病室に戻ったとたん、アナウンスが流れた。
「夕食の支度ができました。歩ける方は、コップとお箸を持って食堂に行きましょう」
なーるほど。
お財布を引き出しについている金庫に入れ、金庫の鍵を手首に巻き、コップとおはし・スプーンセットを持って食堂に向かった。
食堂に入ると、何人かはもう席についている。
トレーの上に名前が書いた紙が挟んで置いてあった。
自分の名前を探す。
メガネをかけていないので、見にくい。
貴子は視力が悪いが、裸眼でもそれなりに見えるため、裸眼で過ごすことが多かった。
最近は仕事も裸眼だった。
自分のトレーの前に腰掛け、食事内容を見る。
白米、温豆腐、チンゲン菜の煮物、チンジャオロース、みかん、だった。
名前の紙の裏に、献立、カロリーも書かれていた。
テーブルは4つあり、4人~6人座れるタイプだった。
成人女性のテーブルが2つ、子供用のテーブルが2つ、という感じになっていた。
小さい子供には母親が食事の介助をしたり、話し相手をしたりしながら、自分の夕飯を食べている。
母親には食事は出ないようで、売店で買ってきたものや持ってきたものを食べているようだった。
出してあげればいいのに、とも思うけど、色々難しい問題ね。
確かに、食事が出るのは入院患者のみに限った方が受け入れ側としては無難であろう。
顔見知りの人もいるらしく、何となく話し始める。
そっか。入院して何日も経っている人もいるのね。
「私、明日手術なんですけど…」
貴子も話に加わり、手術の体験談や術後の様子を聞いてみた。
前に座った人は、子宮筋腫で子宮前摘出。
筋腫が多数できていて、子宮を残したとしても再発すると言われ、前摘出に踏み切ったと言う。
40代~50代に見えた。
初めて婦人科検診に行ったら、見つかったそうだ。
20キロほど離れたところに在住だが、近くの病院はあまり良い噂がないと、ここの病院をネット検索で知って決めたとのことだ。
縦に開腹されちゃってね、と残念そうに言っていた。
横に開腹した方が傷が目立たないが、手術はしやすいと言われている。
大掛かりな手術になると、縦に開腹するようである。
その人の後ろに座っている人も、子宮筋腫で開腹手術のようだった。
夕飯時の会話から、私の斜め前のベットの子(後に佐藤美子さんと知る)は、貴子の次の手術予定になっていて開腹手術で片方の卵巣を前摘出すると知った。
夜、病室を出て、電話できそうな場所を探す。
食堂には、夕飯時少しだけ言葉を交わした人がテレビを観ており、入りづらい。
話しかけられそうだからだ。
これから直人と電話する約束になっていた。
邪魔されては困る。
仕方なく、エレベーターで1階に降り、場所を探す。
売店以外はほとんど消灯されている。
中央検査室の前のソファは、売店からの光が当たり、真っ暗ではない。
通常は携帯電話禁止区域になっていたが、今ならバレなければ大丈夫だろう。
ソファに座り、直人に電話する。
近況を報告し、あとはそのときしないでも良い話しなど、通常の会話をしていた。
途中、予想通り便意を感じ、トイレに行った。
そもそも、電話の約束をしていたのは、便通のためだった。
貴子は直人と話をすると、落ち着くのか便意を感じることが多かった。
自宅で電話しているときも、「トイレ」と中断していた。
トイレから戻ってまた電話をし、結局、1時間半近く電話していた。
20時45分になって電話を終了し、飲食が禁止になる21時までお湯を飲んだり歯周病予防の手入れをしたりしていた。
その日は、22時くらいに就寝した。
途中何度も目覚め、3時過ぎには便意を感じてトイレに行ったが、6時25分まで安眠できた。




