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手術しよう

手術を決断するまでの様子です。

直人にメールを送信したあと、自分のブログを開き直すと、コメントが入っていた。

どーせまた卑猥なコメントかしらね。

期待せずにクリックする。

コメント制限はしていたが、よく卑猥なコメントが入っていたのだ。


予想に反して、経験者からのコメントが入っていた。

卵巣嚢腫の手術は終えたけど経過が悪くて再入院中の女性からだった。

片方の卵巣を全摘した、腹部の脂肪が多いので腹腔鏡は無理で開腹手術になった、と書かれていた。

こんな短時間で!

ネットってすごい!

ネットのすごさを感じた。

自宅にいながら、遠くの見ず知らずの人と話ができる。

便利になったものだ。

コメントをくれた女性のブログにアクセスする。

日常生活や闘病について綴ってあった。

最新の記事に、自分のブログにコメントをくれたお礼と感想を書き込んだ。

それからまた記事を遡って読んだ。

40代後半で2人出産していて、今後出産することもないと全摘したようだ。

その女性は他の病気も抱えているようだった。

そうかぁ。置かれてる立場によって治療法も変わるのよね。


貴子は現在35歳。

出産することはないかもしれないと思ってはいるものの、今その可能性がなくなるのは、戸惑うのも事実だ。

直人との子供は欲しい気もする。

直人との子供だったら、賢いだろうし、美形が生まれるだろうし…。

でも育てる自信がなかった。

2人の子供だからって良いところばかり遺伝して生まれてくるとは限らない。

障害なく生まれてきても虐待してしまうのでは…。

もうそれなりの年だしダウン症の可能性だって高まってくるし、それ以外の奇形とか障害だって増えてくるだろう。

自分の体だって妊娠、出産、子育てに体力的・精神的に耐えられるかわからない。

体力的には若いに越したことはない。

出産で痔になったり、子宮脱といって子宮が下がってくる症状が出たりもする。

また、大学4年・大学院で有機化学を専攻していたため、有機溶媒を一般よりは多く吸っていたし研究室内でダイオキシンを合成しているチームもあり、体内に有害物質が蓄積されていて奇形が生まれる可能性が高いかも、と漠然と思っていた。

色々と考えると、出産しない方向に傾く。


だからといって、今すぐ臓器を摘出する、となると話は違う。

卵巣は2つあるといっても、片方取ると影響は少ないものの、卵巣から女性ホルモンが出るため更年期症状が出ることもあると言われている。

また、女性ホルモンが少なくなることで骨が弱くなるとも言われていた。

貴子は、何にしろホルモンに影響を与えることは極力しない方が良いと考えていた。

人間の体は機械ではない。

かなり複雑で、現在わかっていることはごく一部であり、人間の体は微妙なバランスの上で成り立っている、そう思っていた。

そのバランスをとっている重要な要素がホルモンで、ホルモンに関することには極力手を出さない方が良いと思っていた。

卵巣を摘出するとホルモンに影響を与えてしまう。

嫌だなー。

そう思った。


ってことは。

卵巣をできるだけ温存してもらった方が良い。

そうすると。

うーん。手術かなぁ。

でも。大塚さんは薬で小さくなったって言うし。

手術しないって選択もあるわけで…。


でも、生理痛あるしなー。

っていうか、生理痛は薬が効くからいいのよ。

問題は貧血なのよねー。

あれがなんとかなるなら、手術してもいい。っていうか、手術したい!

貴子は生理2日目の貧血症状に悩まされていた。

最近はその時期の仕事が辛かった。

仕事が辛いのは生理2日目だったが、その前後も仕事でなければ寝てしまっていた。

その症状が1回の手術で治るなら、いくらかかっても構わない。

そう思っていた。

ひどい生理痛は癒着からくることもあるらしい。

癒着は手術でないと取れない。


でも、手術は怖かった。

手術して、不快な症状がとれるという確証もない。

たいていはとれるようだったが。


夕食の支度の時間になり、1階に降りると本を手にした母親がコタツに入ったまま貴子に向き直る。

「手術、した方がいいかもね」

「そう?まぁその本書いた人は手術勧める医者なのかもしれないし。鵜呑みにしない方がいいよ~」

色々な医師がおり、考え方も様々だ。

ネット情報よりは信頼できるが、筆者の主観が入る、鵜呑みにするのは危険、そう考えていた。

ただ、今まで手術に否定的だった母がこの短時間で肯定的になり、少し驚いた。

影響されやすい、というか…。

内心、苦笑した。


その夜、直人とスカイプ通話した。

直人は手術を勧めた。

当然、というような反応だった。


翌日出勤すると、貴子が手術仮予約日から休めるよう変更されたシフト表が置いてあった。

えーっ。

早いなぁ。

…うーん。

なんか、外堀埋まった、みたいな…。

母も直人も職場も手術を勧めているように感じた。

ひゃー。

手術怖いよー。

でも、年末年始休みに絡められる。

ゆっくり休めるよね…。

そんなことを考えながら、午前中の仕事をこなす。


午後になり、上司が仕事に来た。

「どうします?」

貴子の顔を見るなり、聞いてくる。

貴子は焦った。

「え。そんな急に決められません」

言うと、上司は少し困惑したような顔をし、荷物を置くとタバコを吸いに外に出て行った。

「どうしましょう」

上司がいなくなり、事務の酒井に話しかける。

「えー。私に言われても…」

酒井も困惑。

「そうですよねー。自分で決めないとですよねー」

独り言のようにつぶやく。

酒井は今までは「とっちゃえとっちゃえ」と手術を勧めるようなことを言っていたが、さすがに今は事の重大さを感じたようで控えめである。

「でも、年末年始休みも休めますよね」

「そうですよねー。時期的にはいいですよね…。でもー。一番忙しい時期ですよねー」

年末年始休み前は薬局が一番混む時期である。

1日の処方箋枚数はだいたい1.5倍になる。

そんな忙しい時期に休むのは心苦しい。

「でも。そんなの関係ない…って言ったら語弊ありますけど、体が一番大事ですよ」

さすが心優しき年長者。言うことが違う。

「そうですよね…」

うーん。

頭をフル回転させる。

手術が怖いという主観を除いて、客観的に考えたら、手術すべきだろう。

年末年始休みを絡めて十分休養できるし、冬場は傷口が化膿しにくいし、時期的にもいい。

よし!


上司がタバコから帰ってきた。

「じゃぁ申し訳ないんですけど、コレで、お願いします」

はっきり言う。

もういいや。

「わかりました」

上司もうなずく。


これも運命。

手術しちゃおう。

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