卵巣嚢腫と診断されて
定期的に受けている子宮がん検診・乳がん検診で、卵巣嚢腫が発覚した数時間後の様子です。
貴子は家に帰り、うがい・手洗いを済ますとパソコンのスイッチを入れる。
貴子はまだスマホに変えていない。
ネットはパソコンでの利用だ。
スマホは便利そうだと思うものの、それなりに月々使用量が上がりそうなのがネックになり、あまり変更に前向きではない。
どれを選んで良いのかわからず、面倒でもある。
35歳にもなると新しいことをするには自分が納得するまで下準備をするので、それなりのエネルギーが要る。
そのエネルギーを費やして良いかまず判断するのだが、今の貴子にとってはスマホに変えることはエネルギーを費やす価値がない、と思っているのだ。
面倒くさいオンナだ、と本人も思っている。
いつものようにパソコンの立ち上がる時間を使って、着替えや雑用をこなす。
効率的に時間は使いたい。
パソコンは買って2年になるし、そこまでのメンテナンスをしていないのでそれなりに動きは鈍い。
でも貴子は不自由を感じていない。
機械に合わせてやり、何となく機械に対して優越感を感じたいのだ。
機械は人間に使われるもの。使われてはいけない。
そんな気持ちもある。
面倒くさいオンナだ。貴子は自嘲的な笑みを浮かべた。
さて。
パソコンも立ち上がり、インターネットに接続する。
いつもの見慣れた画面が現れる。
Yahoo!の検索画面である。
「卵巣嚢腫」と打ち込んでみる。
何件か出てきた。
やっぱり、Wikipediaよね。
ネット情報は嘘が多い。
悪意な嘘は少ないが、正確な知識に基づいていないものがあるため、気をつけなければならない。
35歳にもなると、常識である。
それなりに信頼性の高そうなサイトだけ拾って読んでいく。
知っているものもあったが、知らないものあり、勉強になった。
ブログも読む。
経験者の話は参考になる。
ふと、正午の音楽が流れてくる。
貴子はそれなりの田舎に住んでいるため、時期によって正午に音楽が鳴り響く。
あ。もうこんな時間。
貴子は慌ててパソコンを終了する作業に入る。
今日は午後から仕事なのだ。
お昼ご飯を食べて、仕事に行かなければ。
セーフティーの「閲覧履歴の削除」を実行する。
35歳女性独身となると、個人情報保護にも力を入れる。
この時代、目をつけられたら終わり。
余計な情報は発信しないし、こちらの情報はさっさと削除しておくに限る。
もちろん貴子は違法なことをしているわけではないが、このご時勢何が起こるかわからない。
念には念を入れるタイプだ。
昼食をとろうと、1階に降りる。
同居の母はたまたま外出している。
今日はボランティアだったか。
大の大人母娘二人暮らし。いちいちお互いの行動を干渉しないが、大まかには伝える。
特に決めたわけではないが、いつの間にか出来上がった暗黙のルールである。
朝食のときに作ったお味噌汁に冷凍うどんを入れる。
それなりに温まったら、卵を入れる。
沸騰してくると卵は半熟状態。そこで火を止める。
テレビをつけ、うどんをすする。
貴子には昼食はこれくらいで十分だ。
昼食を済ませ、食器を片付け、歯磨きをし、着替えて仕事に行った。
職場ではいつもの時間が流れる。
午前中の出来事等を聞き、あとはいつものように仕事に入る。
午前中休みは珍しい。
だいたい午後休みである。
貴子の職場は調剤薬局である。
近くの病院の休みにあわせてだいたい休みをとるのだが、完全にあわせて薬局を閉めると基礎的な受付料が少なくなる、という仕組みがある。
そのため、木曜日は午後は近くの病院は休みだが、薬局だけは開けている。
薬局は土曜午後と日曜祝日が休みだ。
従業員の休みは、木曜・土曜午後と日曜祝日が休みだが、パートが入るためもう1コマ薬剤師は休んで良いことになっていて、貴子は基本金曜日午後が休みである。
今回はパートの都合で、午前と午後が入れ替わり、午後出勤になった。
午前午後が入れ替わったところで特に影響もなく、いつものように仕事をこなした。
自然に小さくなるんだし。
卵巣嚢腫のことはあまり気にならなかった。