Ex.2 依頼・後編
やっと出来たぁ~!長かった・・・。
それでは、(駄文ですが)読んでいってください!
「ここ・・・どこだろう?」
薄暗い森の中で、一人の少女はそう呟く。
まだ幼さの残る少女は辺りをキョロキョロと見回し、溜め息をつく。
「うぅ~・・・。ぜんぜん分かんないよぉ・・・」
少女の足は泥だらけで、ところどころ擦り傷も見えた。
何故、少女がこんな所に一人でいるのか。その理由は、半年前に遡る。
▽▲▽▲▽▲▽
少女はある村で暮らしていた。少女はその村で、この世界に生きている大多数の人々が経験するであろう、平和で、穏やかな生活を。少女は、この村でずっと暮らしていけるのだと、信じて疑わなかった。
゛あれ゛が来るまで・・・。
ある日の朝、少女は外の騒がしさで目が覚めた。少女はどうしたんだろう?と思い、窓を開けると、
゛死゛を纏った゛恐怖゛がいた。
3メートルはある巨体に、丸く小さな赤い目、大きく裂けた口を持つのっぺりした灰色の゛恐怖゛。その足下には、いつも一緒に遊んでいた友達のお気に入りだった黄色い帽子が、赤く染まって落ちていた。
濃厚な゛死゛を辺りにまき散らしながら、゛恐怖゛━━━人々は《トール》と呼んでいる━━━は口を開き、
「オイ、人間ドモ。今回ハココマデニシテオク。ダガ、次カラハ魔力量ノ高イヤツト、出セルダケノ喰イ物ヲヨコセ。デナイト、貴様ラヲ全員喰ッテヤル」
突き落とす。少女を、村の人々を、絶望の底へと突き落とす言葉を発した。
だが、少女の絶望は終わらなかった。
最初の月にはよく少女にお菓子をくれた若い女性が。
次は、力が強くていろんな話を聞かせてくれた元冒険者のおじいさんが。
次の月からは、少女の遊び仲間の少年達が一人ずつ減っていった。
やがて、少女の周りには、父親しかいなくなっていた。だから少女は祈った。『パパがいなくなりませんように』と・・・。そして、その祈りは
叶わなかった。
いや、ある意味叶ったと言えるだろう。事実、少女の父親は選ばれなかった、選ばれたのは少女の方だった。少女は、震える父親からそのことを聞いた。
少女は怖かった。自分が死んでしまうことにではなく、たった一人になってしまうことが。だから少女は泣いた、泣き続けた。どれくらい泣いたのか少女には分からなかったが、すでに涙は出てこなかった。
そして、少女は家を飛び出した。
どこに向かうということもなく、だだがむしゃらに走りつづけた。
▽▲▽▲▽▲▽
「うぅぅ・・・ぐすっ。どこなの~・・・?」
嗚咽を漏らしながら、少女は奥に進んでいく。
が、少女の足は止まる。
少女の目の前には、この森の中では珍しい、見晴らしのいい草原が広がっていた。そこには色とりどりの花が咲いている、美しいところだった。
少女はその美しい光景を見て、立ち止まっている
のではなかった。
少女の目には、色とりどりの花が作り出す見事なコントラストなど、見てはいなかった。
少女が見ていたのは、
その中心に立つ゛恐怖゛だった。
「ヒッ・・・!!」
かすれた声を出し、大きく後ずさる少女。゛逃げている゛という思いから、希望が灯っていた少女の表情が歪む。当然だろう。゛アレ゛から逃げているつもりだったのに、自分から近づいていたのだから。
だが、少女の心は落ち着いた。
(あぁ、やっぱりだめだったんだ。逃げるなんて・・・)
絶望。
少女の心の中には、その言葉のみが重く鎮座していた。
▽▲▽▲▽▲▽
少女には信じていたものがあった。゛信じていた゛と言うよりは゛夢見ていた゛と言ったほうが正しいのだろうか。
幼い頃、少女は自分の部屋で゛ある物゛を見つけた。それは、ある童話が書かれた一冊の古ぼけた本だった。特にこれといって遊ぶ予定もなかった少女は、その本を読み始めた。その本の内容は、何処にでもあるような大したことはない物だった。
一人の騎士が、一人の姫を助けるために悪い怪物と戦う。
そんなただの童話だったのだが、少女はそれに強く惹かれた。
憧れたのだ、一人の姫に。
望みの途絶えた世界にいる自分を助けに来てくれる、一人の勇敢な騎士がいてくれる。そんな姫に、少女は憧れていた。
それは今でも変わってはいなかった。
少女は゛恐怖゛から逃げている中でも、目の前に゛恐怖゛が現れても、自分を助けに来てくれる一人の騎士を信じていた。
あの童話のように・・・。
だが、所詮童話。現実は違った。
いくら少女が信じようと、騎士はやって来ない。やってくるはずがない。ここは、
━━━現実なのだから。
▽▲▽▲▽▲▽
少女は諦めた。生きることを、ではない。信じることを、だ。少女は静かに目を閉じ、終わりを待つ。
何も起こらない。
「・・・?」
少女は不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。そこには目を閉じる前と何も変わっていない世界があった。
「どうして・・・?」
少女は、自分がまだ生きていることへの疑問を持つ。
トールは少女に気付かなかったのだろうか?いや、有り得ない。
少女は知りはずもないが、トールというモンスターは非常に聴覚が発達していることで知られている。トールは、体の表面・・・皮膚に当たる部分がゴム状の物で出来ており、体全体が耳のような働きをしているのだ。そのため、どんなに小さな音であろうと、トールはそれを聞き取り、獲物の位置を特定してしまう。
それなのに、そのはずなのに、少女はまだ生きている。
それは何故か?現実はシンプルだった。それは・・・
トールはすでに死んでいるという現実。
「・・・え?」
トールはその巨体を゛一本の黒い大剣゛に正面から貫かれ、立ったまま地面に縫いつけられていた。
「・・・え?」
それを見た少女は止まる。思考が停止する。目の前であの゛恐怖゛が死んでいる。
「どうして・・・?」
そのあまりにも唐突な現実に、
「なんで・・・?」
少女は茫然と立ち尽くす。
ズッ・・・ズズ・・・
トールは自身の重さによって、だんだんと背中が地面に近づいていく。そして、
ズズゥン・・・!!
地面を振動させ、その巨体が完全に倒れる。その胸の中心には、鈍い光を放つ大剣が墓標のように立っていた。
一体、何がこのモンスターに起こったのか?
それはあまりにも早く、少女が現実を受け入れるのにはあまりにも短すぎる時間で示された。
ザッ!
小さな足が花を踏み抜く。
「ケッ!こんなもんかよ・・・。何が゛突然変異種゛だよ。これじゃあそこらの上位個体と変わんねぇじゃねぇか」
少女の目の前に現れたアルは、吐き捨てる様に言った。
(あ~・・・。とんだ期待ハズレだ・・・)
そんな感想をトールだったものに抱きながら、アルは゛それ゛の元に歩き、゛それ゛の頭に右脚を乗せる。そして、そのまま突き刺さった剣を引き抜く。抜かれた刀身は紅黒い光に包まれていた。
「魔力ばっかり取り込みやがって・・・。テメェは風船かっつうの」
アルはそう呟き、
ドチャア!!!
トールの頭を踏み抜く。肉がつぶれる音を立て、アルの右足を中心に紅い花が咲く。半身を紅い花で装飾したアルは、口で弧を描く。
その背後には、
不揃いな牙をはやし、赤黒い目をギラつかせた人間の大人程度の大きさを持つ、醜悪なモンスターが飛びかかろうとしていた。
そのモンスター・・・オーガの手がアルの首に触れようとしたとき、アルの右腕がブレる。
ヒュンッ・・・!
そんな音と共に、オーガの手が二つに割れる。手だけではない。足も、胴体も、オーガの体は縦に分かれ、重力に従い落下する。
バチャ!!
その音を合図とするかのように、100は超えるであろうオーガの大群が四方八方あらゆるところから、アルを殺そうと襲いかかってきた。だが、アルはこれらのクズを見てはいなかった。アルが見ていたのは、
(なんでこんなトコにガキがいやがんだ・・・?)
先程のオーガがの間から見えた少女だった。何故少女が此処にいるのか?そのことに、アルの思考の大半は使われていた。
そもそも、人間に限らず全ての生物には、『強大な力の元には近づかない』といった本能が少なからず備わっている。これは、生物自身が生き残る為に必要なものであり、それに逆らうことは゛死゛を意味する。そのため、一部例外を除いた全ての生物はそれに従わざるを得ない。さらに、生物には『暗闇に対する絶対的な恐怖』という潜在意識も存在している。この場には、アルやトール、オーガから滲み出ているドロドロとした゛闇゛が充満しており、普通の人間が近寄れる・・・ましてや、その中心部に足を踏み入れられる訳がないのだ。
それなのに・・・
(なんでアイツは此処にいて平気なんだ・・・?)
襲いかかってくるオーガ達を、右手一本だけで持った剣で斬り伏せながら思考する。
(なんでアイツはこんな場所にいて、この状況を見ているのに、アイツの目には光があるんだ・・・?)
少女は、常人ならば発狂すらしかねない状況にもかかわらず、その瞳には強い光があった。まるで、絶望が去った後のような光が・・・。
(まさか・・・!?・・・いや、違うな)
アルの頭に、゛例外゛の選択肢が浮かぶ。しかし、それは直ぐに排斥される。
例外・・・それは、負の属性・・・つまり、゛闇゛の属性持ちということである。闇の属性持ちは、『強大な力の元には近づかない』という本能を覆い隠してしまう程の、『自分の敵であるモノを殺す』という本能が存在していて、闇の属性持ちはそれを抑えるために゛何か゛を身に着けているのだ。ちなみにアルは左手首にブレスレット状の物を着けている。
だが、少女はそれらしき物を身に着けてはいなかった。
(・・・・・・)
アルはさらに思考を巡らす。そして・・・
(まっ、どうでも良いか)
諦めた。
(だいたい、たった一人の人間に何でここまで考えなくちゃなんねぇんだ?・・・馬鹿馬鹿しい)
アルはそう考え、戦闘に意識を向ける。
(なんか面倒くさくなってきたし、サッサと終わらせるか)
アルは二桁程に減ったオーガと距離をとり剣を地面に突き刺すと、左手首のブレスレットに手をかけ、外す。その身に眠る本能を覚醒こすために・・・
ではない。
確かに、このブレスレットにはアルの闇の属性持ちとしての本能を封じ込めている。だが、それだけではない。ブレスレットにもう一つ封じられているモノ、それは・・・
ズッ・・・!!
アルの体から、先程とは比べものにならない程の゛闇゛が吹き出す。そう、ブレスレットにもう一つ封じられているものとは、アル自身の『魔力』。
アルは自身の本能が叫ぶままに行動する。『コイツラヲ殺セ!』と叫ぶ本能ままに・・・。
「了解ッ・・・!」
アルは右手を前に差し出す。急に無防備になったアルを殺そうと、オーガの群れが襲いかかる。が、
ズドン!!!
それは止められた。どこからともなく出てきた無数の黒い針によって・・・。長さ一メートルほどのそれは、オーガの急所を的確に貫いていた。オーガは、陸に揚げられた魚のようにうごめいていたが、やがて、動くものはいなくなっていった。
「ふー・・・。これで後始末も少しは楽になるだろ」
アルは、そばに落ちていたブレスレットを再び左手にはめながら呟く。そして、地面に刺さっている剣を掴む。だが、
ザワッ・・・
「チッ・・・」
アルの身体の中で、ドス黒い゛闇゛が騒ぐ。
(ちょっと調子に乗りすぎたか・・・)
アルは冷静に分析すると、そのまま剣に背中を預けズルズルと座り込む。
そのアルに、背後から近づく一つの足音があった。
「・・・・・・そんな目で見れたもんじゃねぇよ、俺は」
「!?」
その足音の正体は、先程の少女だった。少女は、アルが気づいていないと思ったのか、声をかけられたことにビクリと体を震わせた。
そんな少女を、アルは視界の端でちらりと見る。少女の目は、最初にアルが見たときよりも光が増していた。少女はその目でアルの姿を捉え続けている。そんな少女の様子に、アルは少々の苛立ちを込めた声で言う。
「聞こえなかったのか?お前みたいな奴が見るようなモンじゃねぇって言ったんだ」
そう。この場所は、鉄の匂いが重く立ちこめ、紅く染められた草花が不気味な光を放っている・・・、ある程度死線を乗り越えた者でさえ吐き気を催す惨状を呈していた。
にもかかわらず、
「えっ?どうして・・・?」
少女の口から出てきたのは純粋な疑問だった。アルはゆっくりとした動作で少女の方に振り向く。少女は、アルがこちらを向いたのが嬉しかったのか、不安そうだった顔に笑みを浮かべる。その笑顔は少女独特のやわらかなものだった。何人もの人がその笑顔を見て、癒され、励まされることだろう。
今、この場所でなければ、だが・・・。この場所でのそれは、狂気にも見えた。
そんな紙一重の笑顔を意にも介さず、アルは淡々と言葉を連ねていく。
「・・・生憎、俺はあんた等みたいなクソ真面目で平和ボケした連中とは違う。俺は平気でモンスターを・・・人を殺す。今こうしてる間にだって、俺はお前を殺すかもしれないんだぜ?」
そう言い終わると同時にアルは立ち上がり、剣を引き抜く。そして、少女に背を向けて歩き出す。
「あっ、まっ・・・て・・・」
少女がアルを呼び止めようと声を出したとき、すでにアルの姿は少女の視界から消えていた。少女は呆然と立ち尽くすことはなく、アルが先程までいたところをジッと見ていた。アルの姿はないが、その姿は少女の目に焼き付いていた。
(かっこよかったなぁ・・・)
少女は、目の前に現れた騎士のことを考えていた。絶望などさせないとでも言うかのように颯爽と現れた騎士。その存在は、少女にとって決して小さいものではなかった。
(もう一度会いたいなぁ・・・)
そんな想いが、少女・・・リーナ・エルシアの中で自然に浮かんだ。
やがて、その想いは膨らみ、決意へと変わることになる。
感想を制限なしに変えました。皆様からの感想や誤字脱字の指摘などなど、待ってます!
活動報告の欄に更新予定日などを書いていくので、そちらも見てくれると嬉しいです。コメ返しをしていただくと、とても嬉しいです!
良ければ、次回も見ていってください。
(8/18)行間を少なくして、場面の変わり目に▽▲▽▲▽▲▽を入れました。