大切にされている妹と、大切にされてない姉の違い
お読みいただきありがとうございます。初投稿です。
「大切にされている」と「大切にされてない」は、両方とも八文字。
「愛されている」と「愛されてない」は、両方とも六文字。
同じ文字数で、後ろの二文字が「いる」か「ない」かの違いだけなのに、その言葉が指し示す意味は天と地ほどに違うのだと、私はいつからか知ってしまった。
妹が愛されていて、大切にされている方で、私は愛されていなくて、大切にされていない方なのだと理解してしまった。
秋の冷たい夜、私は自分の部屋でパソコンを開いた。
今日、私は生まれて初めて小説を書いて、投稿サイトに公開しようとしている。
自分の話をそのまま自分の名前で書いても誰も読んでくれないだろうから、よくある異世界の姉妹の物語を借りて書くことにした。
伯爵家の長女セリアは、自分のドレスがいつも少しだけ古いことを知っていた。
二つ年下の妹のリリアーナは、生まれつき体が弱く、母に似て愛らしかった。
幼い頃は両親からの愛情にそれほどの差はなかったが、成長するにつれて屋敷中の関心はリリアーナに集まるようになった。
食卓にはいつも妹の好物が並び、セリアが今日あった出来事を話しても、父は書類に目を落としたまま生返事をするだけで、母は妹の髪を梳かすのに夢中だった。
ある冬の日、家族でお茶会をしていたとき、侍女が手元を狂わせて淹れたての紅茶のポットをテーブルに倒してしまった。
熱い紅茶がリリアーナのすぐ目の前に迫り、隣にいたセリアはとっさに妹の上へ覆いかぶさるようにして腕を差し出した。
リリアーナのドレスには一滴もかからなかったが、セリアの右腕は熱湯を浴びて赤く腫れ上がった。
それでも両親は、驚いて泣き出したリリアーナを抱きしめてあやすばかりで、セリアが袖を押さえて痛みに耐えていることには目を向けなかった。
「お前は姉なのだから、リリアーナに譲りなさい」、「お前は姉なのだから、リリアーナを守りなさい」などの言葉を聞き続けるうちに、セリアは両親に何かを期待することをやめた。
リリアーナが社交界にデビューする年、屋敷には何人もの仕立て屋が出入りした。母は妹の瞳の色に合わせた空色の絹を選び、父は惜しげもなく宝石を買い与えた。
セリアには、誰かのお下がりの色褪せたドレスが与えられた。
「貴女はしっかりしているから、着飾らなくても平気でしょう」と母は言った。
リリアーナの誕生日には屋敷中に花が飾られ、大きなケーキが用意されたが、セリアの誕生日は誰にも思い出されなかった。
そんな屋敷の中で、セリアの唯一の支えは、幼い頃に決められた婚約者のアレンだった。
伯爵令息であるアレンだけは、いつもセリアの名前を呼んでくれた。庭園の隅で一人本を読むセリアの隣に座り、不器用な手で摘んだ白い花を差し出してくれる彼の存在だけが、セリアがこの家に留まる理由だった。
しかし、十七歳の春、セリアは屋敷の応接室に呼び出された。
部屋には両親とリリアーナだけでなく、伯爵であるアレンの父と気まずそうに視線を落とすアレンが揃って座っていた。テーブルの上には、すでに書き換えられた婚約の契約書が置かれていた。
「セリア。隣領との縁談だが、相手をリリアーナに変更することになった。先方のご当主からもすでに了承を得ている」
父の声には、ためらいすらなかった。当主同士にとっては、両家の繋がりさえ保てれば娘のどちらでも同じなのだ。
「リリアーナは体が弱い。アレン殿のように頼もしい方に守ってもらわなければ、この先は生きられない。お前は姉なのだから、妹の幸せを願うのは当然だろう」
セリアは、アレンを見た。親同士が決めたことだとしても、彼だけは否定してほしかった。
けれどアレンは、自分が親に逆らうどころか自らこの変更を望んだのだと示すように立ち上がり、セリアに向かって深く頭を下げた。
「すまない、セリア。君は強くて、一人でも歩いていける女性だ。だが、リリアーナには僕が必要なんだ」
自分が強いのではなく、強くなければ誰も見てくれなかっただけなのにと、セリアは思った。
セリアの口から出たのは、ひどく静かな「わかりました」という一言だけだった。
リリアーナがぱっと顔を上げ、「ありがとう、お姉様」と無邪気に笑った。悪意のない純粋な笑顔だった。
翌月、セリアは子のない遠縁の男爵家に養女として引き取られることになり、屋敷を出た。
妹に婚約者を譲った長女をそのまま屋敷に置いておくのは世間体が悪いという、父の都合だった。
出発の朝、両親は姿を見せず、数人の侍女と使用人が玄関の前で静かに頭を下げていた。
セリアが馬車に乗り込もうとしたとき、背後から「お姉様」と声がした。
セリアが振り返ると、妹のリリアーナが立っていた。妹は、少しだけ寂しそうに曇りのない瞳でセリアの手を握った。
「遠くへ行ってしまうなんて寂しいわ。向こうでもお体に気をつけてね。私、お姉様の分までアレン様と幸せになるから」
「ええ、ありがとう。リリアーナも元気でね。朝はまだ冷えるから、早く中に戻るのよ」
セリアは優しく微笑んで妹の手を離し、馬車に乗った。
扉が閉まり、動き出した馬車の窓から遠ざかる屋敷を見つめたあと、セリアはそっと目を閉じた。
そこまで書いて、私の指は止まった。
本当は、セリアを救いたかった。世の中の物語のように、屋敷を出た彼女が素敵な誰かに見出され、心の底から愛される結末までを書きたかった。
けれど、大切にされるというのがどういうことなのかを知らない私には、彼女が幸せになった先を書くことができない。
それに、そもそも結末が幸せな物語であっても、幸せな終わりのその先が本当に幸せかどうかなんて、誰にもわからない。
仮に幸せな結末だったとしても、その後にも長い生活は続いていくし、幸せのままである保証などどこにもないからだ。
だから、セリアの物語はここで終わらせるしかなかった。
窓の外は、綺麗な夜空が広がっている。
春になれば、私もこの家を出る。
セリアと同じように、ここを出た先が幸せかどうかなんてわからない。
けれど、愛されていなくて、大切にされていないのを知ったからこそ、歩き出す決心がついた。
私は、初めて投稿ボタンを押して、パソコンを閉じた。
どうか誰かに届くように。
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