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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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悪女と呼ばれるまで

◎登場人物

主人公…リリア・ローゼン

王立騎士団団長…ラルフ・フォン・アルトシュタイン

王立騎士団副団長…オスカー・クロイツ

治癒師…ルーク・エルシオン

王立騎士団.同僚…ジーク・フォレスト

王立騎士団.後輩…ノル・フェルスナー

王立騎士団.愛され女性騎士…サフィナ・グランシア

主人公妹…エマ・ローゼン

ローゼン家に生まれたその子は、祝福されるはずだった。


男爵家にとって、女児は初めてだった。


兄が二人続き、跡取りの心配はなくなったあとでの誕生。


両親も、周囲も、誰もが「待望の娘」と口にした。


――産まれてくるまでは。



産声があがり、産婆が赤子を抱き上げた瞬間、部屋の空気が変わった。


黒い髪。

薄茶色の瞳。



ローゼン家に連なる者が、誰一人として持たぬ色。


父は言葉を失い、母は笑みを固めた。


喜びの声はあがらず、代わりにひそひそとした囁きが広がる。


「……本当に、私の子か?」


その一言が、すべての始まりだった。



父は疑った。


母は責められた。



そして――その矛先は、言葉も話せぬ赤子へと向けられた。




リリアが物心ついた頃には、家の中に「居場所」はなかった。


何かが壊れれば、リリアのせい。


使用人が転べば、リリアが邪魔をしたのだと言われる。


両親の機嫌が悪ければ、理由も聞かされず叩かれた。



「あなたがいるから、家の空気が悪くなるのよ」


母はそう言って、冷たい目で見下ろした。


父は感情を込めず、ただ“正す”ように手を振り下ろす。




ある冬の夜、物置へ閉じ込められたことがある。


薄い服のまま、扉に鍵をかけられ、朝まで放置された。


「ごめんなさい……いい子にするから……何も言わないから……ここ開けて……お願い……」


声をあげても、誰も来なかった。


暗闇の埃っぽく湿った部屋は恐怖でしかなかった。


翌朝、誰かによって鍵が開けられた。


しかし、声はかけてもらえなかった。


リリアは傷つき凍えそうな体を引きずりながら起き上がり扉を開けた。



扉の外に小さな瓶が置かれていた。


傷薬だった。


誰が置いたかは、言われなくても分かった。



長男、クラウス。


彼だけが、直接手を差し伸べることはなくとも、見捨てなかった。


リリアは瓶を胸に抱き、音を立てないように泣いた。


――それでも、助けてとは言えなかった。





数年後、妹エマが生まれた。


母と同じ薄いピンクの髪、愛らしい顔立ち。


家族は、まるで別のものになった。


父は笑い、母は優しくなり、使用人たちも安堵したように振る舞った。


そして、リリアだけが取り残された。



「お姉様に、いじめられて……」


エマがそう言えば、誰もが信じた。


泣き顔一つで、真実は簡単に塗り替えられる。


リリアが何もしていなくても、

何も言わなくても、

「悪女」という言葉だけが先に歩いていった。



やがて縁談の話が舞い込むようになったのは、15歳になったばかりのエマの方だった。


社交の場では、健気な妹を虐める姉の話が広まり、

リリアは噂の中で“心ない存在”として完成していく。



否定することは、もうしなかった。

それが無意味だと、幼い頃に学んでしまったからだ。


弁解すればするほど、周囲の目は冷たくなると知っていた。


心を閉ざすことだけが、自分を守る術だった。




限界は、ある夜、突然訪れた。


理不尽な叱責。

濡れ衣。

そして、逃げ場のない家。


――ここには、もう居られない。




リリアは、何も告げずに王立騎士団の入団試験を受けた。


祖父がかつて所属し、命を懸けて戦った場所。


そこなら、自分の存在価値は“力”だけで測られると思った。



結果は、合格だった。


だが現実は甘くなかった。


女であること。


そして“妹を虐める悪女”という噂。



入団後、待っていたのは静かな排除だった。



雑用はすべて押し付けられた。

戦闘では、援護が来ない。

食堂では、彼女の分だけ配膳されないこともあった。

怪我をしても、治癒は後回し。

あるいは、誰も手を伸ばさない。



それでも、リリアは剣を握った。



倒れなかった。

泣かなかった。

期待もしなかった。


ただ、生き残るために、強くなった。



そうして今、彼女は王立騎士団にいる。



“悪女”と呼ばれながら、

誰よりも冷静に、正確に、剣を振るう存在として。



誤解されることには、もう慣れていた。


期待しないことにも。


――けれど。


いつか、自分を受け入れてくれる人が現れるのかどうか。


それだけは、まだ分からなかった。

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