希望の輝きは彼の手に
ふざけんな!俺は死ねない、絶対に死なない、何があっても生きて帰るんだ!
忍び寄ってくる冷たい強烈な死の気配を跳ね飛ばし、体の震えを無理やり押し込め、怪物を一瞥する。
「ウウウウアアアァァァ!!」
突如、体から無限の力がみなぎり心が熱く燃える。縛りつける腕をこじ開け、油断し切っている怪物の胴体に渾身の蹴りを打ち込む。
「ギギギギィィィ!?」
獲物の唐突な力に驚愕し、怪物は一撃で数メートル弾き飛ばされる。アトラは自分の手を見つめると、温かい光に包まれている気がした。体全身から溢れる力がさっきまでの弱気な自分を取り払い、今は殺意とは違う明確な意思を感じる。
「俺はお前を問答無用でぶっ飛ばす、歯食いしばれ!」
地を蹴り、凄まじい速度で前進すると、怪物は先ほどまで見せなかった焦りを見せ腕を伸ばしてくるが、瞬時に蹴りで全て弾き飛ばして肉迫し、胴体に素早く拳を繰り出す。
「ギギィィィァァァ!!」
奇声を挙げ覆い被さろうとしてくるが、アトラは身を捩りかわして上へ跳ぶ。あまりにも発達したその跳躍力はアトラを天高く打ち上げ、最高点に達すると落下で速度をつけて拳を固く握りしめる。全身に迸る力はやがて拳へ収束して赤く輝き、まるで一筋の彗星のように真昼の空に光る。
「これで終わりだァァァァァァ!!」
赫灼の拳は怪物の仮面に吸い込まれ砕き割り、渾身の力で殴り飛ばした。怪物は轟音をたてながら木々を薙ぎ倒し、地を抉り、大きな岩を砕いたところで止まった。すでに怪物の身体はボロボロで立ち上がる気力もなく、力無く最後の奇声を上げると謎の怪物は塵になって消えてしまった。
「ハァ、ハァ、これで終わったのか…」
満身創痍のアトラは震える足が耐え切れなくなり、ゆっくりと仰向けに倒れ、ふとさっきの謎の力について思想に耽る。
さっきの力はなんだったのだろう、普段じゃありえない力が全身にみなぎっていてなんだか気持ちが良かったな。それにあの怪物も今まで見たことのある動物とはまるで違う。あれは一体なんだったんだ?
普段直感で動くタイプのアトラには難しすぎる現象達に全く理解が及ばないが、ひとまずフェレスに無事を伝えるためなんとか体を起こし歩き出す。体の疲労で視界がぼやけるが気力を振り絞り歩を進める何時間歩いただろうか、体を引きずりながら暗い森を歩くことしばらくでようやく孤児院の明かりが見えた。
「おいアトラ、大丈夫か!」
「大丈夫か大丈夫じゃないかって言われたらとりあえず大丈夫かな…。ひとまずヘレナ、あんまり強く抱きしめてると腕が折れちまう」
「おっと、ごめんごめん、ひとまず何があったかは後で聞くから先に風呂に入ってこい、泥だらけで汚いからな。ガイア、風呂沸かせ。そんでオーレンスはアトラの背中流してやれ」
「「はぁーい」」
ガイアは走って薪を取りに行き、オーレンスはアトラの手を引いて風呂場に連れて行く。
「オーレンス、ちょっと体が痛くて服脱げないから手伝ってくれ」
「わかったわかった、にしても何があったらそんなことになるんだ?身体中アザだらけじゃないか」
「後で説明してやるよ、ってチョ待て!ゆっくり脱がせて!痛い痛い痛い!」
心配してくれるオーレンスに容赦なく服を脱がされ、風呂場に連行される。ガイアのおかげで湯船が溜まっていて浴室は白い蒸気で包まれている。
「で、何があったんだよ。フェレスは完全に怖気付いて何も話してくれないし、運動神経バケモンのアトラがここまでボロボロになるって何があったんだ?」
背中を洗ってくれながらオーレンスは問いかける。
「そうだな、森の中で急に謎生物に襲われたんだよ。んでなんか体が熱くなってズバババーンってなって謎生物殴り飛ばしてきたんだ」
「なんだよ謎生物って、その表現方法じゃ全くわかんねーし。見間違えかなんかじゃないのか?」
「いや、間違えるはずない。あんな生き物は今まで見たことないしあの物知りのフェレスさえ知らなかった。すごい不気味なやつだったよ」
改めてあの怪物の姿を思い浮かべると、とても現実に存在しているとは思えない。それこそヘレナから聞いた神話の怪物を彷彿とさせる。
「まあ無事でよかったな、体には大きな外傷もないし」
「ん、そんなわけないぞ?あんだけ殴り飛ばされて締め上げられたのに…、ってあれ。怪我が治ってる?」
そんなはずはない、あれだけ激しい戦いの末に擦り傷の一つもないのは確かにおかしい。ところどころあざや打撲の跡があるものの目立った外傷は一つもなかった。もうわけのわからないことが多すぎて頭の中がフラフラしていると、それと同時に疲れが押し寄せてきて睡魔が襲ってくる。
「おいバカっ、風呂場で寝るな!目開けろ!誰かー、アトラを出すの手伝ってくれえ!」




