圧倒的暴力の前に
「オラオラのろま!そんなんじゃ捕まえられないぜ、もっと頑張れ!」
そう挑発し続けると、言葉がわかっているのかはわからないが一層大きな鳴き声とともに四本の腕が伸び、一斉に襲いかかってきた。
「おいおい、それは卑怯だろ!」
もつれそうになりながらも恐怖で震える足に力を込め、襲いかかってきた手を辛うじて飛んでかわし、走り続けること数分で疲れが出てきた。
くそっ…、このままじゃあいつに捕まっちまう。なんかないか、なんかないか…。
足と頭をフル回転させながら逃げていると、あるこの状況を切り抜けられる鍵があった。急いでそのブツをちぎり取り、目的地に向かって走り抜ける。すると不意に後ろから伸びてきた手に気が付かず、凄まじい衝撃とともに弾き飛ばされた。アトラは宙を舞い放物線を描いて落下していくと、さっき魚をとった川へ落下し大きな水飛沫を立てた。急いで立ち上がると、怪物は河岸でこちらを睨んで立ち止まっている。
「イッテェな、でもご親切に目的地まで吹き飛ばしてくれてありがとよ。お礼に今からお前にド派手な一発お見舞いしてやるぜ」
そう告げると、さっきちぎりとった植物の殻を全て噛み砕き中から赤い種を取り出す。
「こいつの名前はなんだったか…、まあそんなことはどうでもいい。こいつは俺が孤児院に持ち帰ってミスって建物の一部を吹き飛ばしちまったブツだ。その特性は…」
「ギィィィィァァァァァ!!」
話が終わるのを待たずに、怪物は川に入りアトラめがけて突き進んでくる。しかし慌てずに両手一杯に握った種を構える。
「そう、数秒間水に浸された場合に反応して大爆発を起こすんだってな。喰らえッ!」
握られた種は怪物の進行方向へとばら撒かれ着水した瞬間、周囲に爆音を轟かせ大きな水柱を上げた。
「へへ、どうだこのやろ…、ってうわ!ちょ待…ぎゃああああ!!」
巨大な水柱によって引き起こされた波に飲み込まれて一気に流される。なんとか岸にたどり着いて髪の雫を払い、爆発地点を凝視する。降り注ぐ水で視野が塞がれているが、あれだけの爆撃を喰らってまともに動けるはずがない。無事に逃げ切れたという希望が見えかけた刹那…
「ギギィィィァァァァァァ!!!」
耳をつんざく悲鳴に似た鳴き声とともに、激しい衝撃波に体が吹き飛ばされそうになり視界が一気に開ける。
まじかよ、あれ喰らって無傷?なわけない、それこそ本物のバケモンだろ…。
怪物は細かく身震いをすると、今まで黒く滑らかだった手足が恐ろしいほど肥大化し、一瞬で目の前から消えた。
「がああぁぁ!?」
急に風が吹き荒れ、理不尽な暴力に殴り飛ばされ木に激突し、朦朧な視界で一瞬で移動して殴り飛ばされたのに気づく。体が熱くなり、せり上がってくると赤い血を吐き出した。体がフラフラして足元がおぼつかない。
このままじゃフェレスとの約束果たせそうにないな…。ティムの作った晩飯食いたかったな、俺がいろんなもん持って帰ってみんなを驚かせてやるんだ。ガイアとオーレンスとももっと遊んでやればよかったな、ホロウは弱っこいから俺が守ってやらなくちゃな。ヘレナも…、先生とももっといろんな話聞きたかったな。
怪物はゆっくりと確実にこちらへと歩み寄ってくる。不気味な仮面は気のせいか獰猛な笑みを浮かべているように見え、獲物を追い込んで勝った気になっているのだろう。
「ふざけんなよ、お前なんかに食われてたまるか…。俺はまだ死なない、死ねなグウゥァッ!」
四本の腕で体を掴まれて握りしめられ、ものすごい圧力に体の骨が軋む。視界が赤く染まり再び血を吐き出し朦朧とする。すると怪物の仮面が半分に割れ、悍ましいほどの歯が並ぶ巨大な顎が開いた。
ふざけんな!俺は死ねない、絶対に死なない、何があっても生きて帰るんだ!




