日常
ねぇ空良……。
今、君は僕と同じ景色を見ているの?
僕は窓越しに景色を眺めながら、ふと、空良のことを思い起こす。
ーーー3時間目。A組は数学だ。
今頃、C組は何の授業をしているのだろうか……。
僕、数学って結構 好きなんだよね。
計算や公式を解いていると頭が働いてくる。
血の巡りがよくなるんだよ。
あの日から僕と空良は学校で会うことはない。
【友達】を拒絶され、というか…あれは………
『友達って…人に言われてなるものじゃないっしょ』
『お前は頭いいから名門校行くんだろ?』
『じゃ、友達になっても意味ないね』
『私達…高校は別々だ。じゃあね、秀才君』
―――まったく相手にされていなかった……。
『はあ…… 』
小さな ため息が零れた。
君と廊下ですれ違うこともないし、やっぱりクラスが違うとなかなか会えないね。
その分、僕は君との日常を想像してみるんだ。
たまに君を学校で見かけると、
『おっ、今日はツイテいるかも』と、僕は勝手にラッキーデーにしている。
ノートの空いたページに日付を書いて、ついでにハートマークを書いてみたりして。
顔が少し緩んでいるみたいだ。僕は笑っているのだろうか……。
ふと、僕は窓越しに映る自分の顔を見る。顔から笑みが零れている。
僕が笑っている。僕にもこんな表情があったなんて初めて知った。
僕は改めて自分の事を人間だと実感した。
不思議だ。随分とそんな感情なんて忘れていた。
君の事を考えると、なんだか僕は生きている感じがする。
そう思うと、僕はもっと君の事を知りたくなったーーー。
でもね、僕は知っているんだ。
クラスが違っていても、学校で滅多に会えなくても、この場所にくれば
必ず君に会えることを――――—ーーー。
だから下校時間はいつも皆が帰った最後に教室を出る。
回り道をしてこの土手で君を眺めている。
最近、僕が 毎日している日課だ。いつの間にかマイブームになっている。
放課後、君はいつもここで一人、ブーメランを飛ばしていたね。
土手から見渡す風景の中に君を見つけ、ここから眺める景色から
君を見ていることが好きだったんだ。
まるで風景画の中に君がいるみたいだ。
君を見ているだけで僕の心は揺れ動かされている。
ハラハラしたり、ドキドキもしたり、僕の心は忙しく稼働している。
だけどね、僕はなかなか君に話しかけることが出来なかったね。
いつもタイミングを探し、チャンスを待っていた。
自分では行動を起こすこともできないくせに、誰かがキッカケを与えてくれると
思って、ただ君を見ているだけだった。存在感の無い僕に無関心の人ばかりで
そんな時だけ頼りにするなんて僕も矛盾している。
でも、そのチャンスは自然の流れに導かれるように突然やって来たーーー。
「ヒューーーン」と、強い突風が吹いたその時だった。
冷たい風が頬を伝い髪が揺れ靡く。
彼女は思わずジャンプしたが、イタズラに風の流れが邪魔をし彼女は
ブーメランを取り損ねてしまった。彼女が飛ばしたブーメランは風の流れによって
僕の方へと飛んできた。
僕は両手を高く空に向かって振り上げる。気づくとブーメランは僕の手の中に入り、
ブーメランをキャッチしていた。
「わりィ」
彼女が僕の方に向って叫ぶ。
僕は彼女に向かって思いっきりブーメランを飛ばした。
スカッとして、めちゃくちゃ気持ちよかった。
だけど、僕が放ったブーメランは彼女の前じゃなくて右へと逸れてしまった。
「あ…」と、思ったが、その瞬時に彼女は右へ反射的に移動した。
ガシッ。僕の瞳に彼女が映った時、彼女はブーメランをキャッチしていた。
「どこ投げてんだよ、ヘタクソ(笑)」
そう言った彼女の顔は思いっきり笑っていた。
初めて見る彼女の笑顔だった――――ーーー。
「ごめーん(笑)」
気づくと、僕は笑って彼女の元へと駆け寄っていた。
『友達にならない?』
そんな言葉は彼女には必要がなかったんだと思った。
だって、友達は自然にできるものだから……
自然体で生きている空良にはそんな言葉は関係なかったんだね。
僕達には『友達』なんて言葉はいらなかった―――――ーーー。
僕が空良を友達だと思えば、それは、もう友達なんだ…と、思う。
ほんの些細な日常の中に一つだけ希望を見つけたーーー。