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――――


例えばね、もしも君が道に迷っていて、帰り道がわからなくなっていたら

僕は必ず君を見つけて家まで送り届けてあげる。


例えばね、もしも君が困っていたら、僕は手を差しのべて

君の力になるよ。


僕はね、君と同じ景色を見ているだけで幸せなんだ。


僕は君と同じ空を見ているだけで心がとても穏やかで癒されるんだ。


晴れ渡る青空はいつになくキラキラ輝いて見える。

こんな天気のいい日は遠回りして帰えろう。

どうせ家に帰っても僕一人だから、つまらない。

僕の両親は共働きで父と最後に顔を合わせたのはいつだっけ?

思い出せないくらい暫く、僕は父の顔を見ていない気がする。

母も同じだ。3つも仕事を掛け持ちして、いつご飯を食べているのか、

いつ寝ているのかもわからない。


僕が決まった時間に階段を下りて、ダイニングキッチンに行くと

いつも食事が用意されていた。僕はそれを食べて食器を片付けて、

後はお風呂に入って寝るだけさ。両親が帰る前に自分の部屋に入るから、

僕は両親が帰って来た時間なんて知らない。

そんな毎日の繰り返しだ。

参観日も運動会も両親が来たこともないし、個人懇談や家庭訪問さえ

先生はいつも僕の順番をとばしている。掃除当番やクラスの係りも僕だけ

忘れられている。


僕はいつだって空気のように軽い存在なんだ。

フワフワ飛んでいって皆の視界から消えている。

気づいたら僕の存在は消えていた―――ーーー。


人間の存在価値なんてはかれるものじゃない。


誰が決めているの?


存在価値を決めていたのは僕自身だった。


存在を消したいほど怯えていた恐怖がチラホラと脳裏をかすめる。

だけど僕はそんな過去さえもこの手で消していた。


そのことに僕はまだ気づいてはいなかったーーーー。




この道を通るのは初めてかもしれない。

…いや、何度か通ったことがあったかもしれない。


ただ、僕の記憶になかっただけだ。


僕は幾度か通った道を初めて通ったような感覚に陥っていた。




「ヒューン」「ヒューン」


風の音ではない。風なんて吹いていない。


「ヒューン」「ヒューン」


僕は立ち止まり、視点を変えて見た。



「……!?」

その先に見えるものに、気づいたら僕は走り出していた。

土手から眺める景色の中に彼女の姿が映っていた。

僕は土手を下へ下へと駆け下りて行く。


ドサッ


「あ…」


コロコロコロ……


足元がもつれて、コロコロと転がりながらも僕は立上がり、

体を立て直すと、その足は止まることなく走り続けていた。


―――運命…なんて言ったら大げさだけど、


神様が僕にもう一度チャンスをくれたような気がした。


「はあ…はあ…はあ…」

彼女の手にブーメランが戻ってきた時、僕は息を切らせながら

彼女の前に辿り着く。

「……」

彼女の視線を感じていた。キョトンと不意を突かれたような顔をしている。


彼女に会いたいと思っていた僕は彼女に会えたことが嬉しくてその後の言葉を

全然考えていなかった。


でも……



「あの…僕と友達にならない?」


「ならない」

 

一刀両断!! でも、僕だって……あきらめない。


ヒューン!


彼女はブーメランを飛ばし、ブーメランは思い通りに彼女の手の中に戻っていく。


「ブーメラン、すっごい上手だね。僕にもできるかな?」

「お前には無理だ」

彼女はいつだって強気で堂々としている。

彼女にとって友達とは必要のない存在なのかもしれない。

「あ、もしかしてブーメランが友達とか? 思ってる?」

「……なわけないだろ」


そこは否定するんだ。


でも、僕だって…あきらめない。


「君も一人だろ? 僕も一人なんだ」

「だから?」

「友達にならない?」

「友達なんてめんどくさいもん必要ないよ」

「そりゃ、君は一人でも最強だけどさ…」

「……」

「2人ならもっと最強になれると思わない?」

「卒業まで5カ月もないんだよ。今更、友達なんて作ってどうすんのよ」

「どうもしないよ」

「え…」

「僕もこのまま誰にも気づかれないで空気みたいな存在のまま卒業するって

思ってた。でも、君に会って友達になりたいって思った。ただ、それだけ」

「お前は変わってるな」

「変わっているのは君も同じだろ。僕の名前は臼井大地」

「私は…」

「知っているよ。君の名前は猿渡空良―――この澄んだ青空と同じ…いい名前だね」

「空良って…お父さんが付けたんだ…」

「へぇ…そうなんだ。そのブーメラン…」

「これもお父さんが作ってくれたんだ」

「お父さんってめちゃくちゃ器用なんだね。羨ましいよ」

「羨ましい?」

「僕のお父さんは…」

僕は途中で言いかけて止めた。僕はお父さんを紹介できるほどお父さんのことを

よく知らなかったからだ。

「……何?」

「なんでもない…」

「ねぇ、僕と友達になってくれない?」

「友達って…人に言われてなるもんじゃないっしょ」

「え?」

「お前は頭いいから名門高校行くんだろ?」

「うん…そのつもり…」

「じゃ…友達になっても意味ないね」

「…え」

「私達…高校は別々だ。じゃね、秀才君」


彼女はそう言って帰って行った。僕は彼女の後ろ姿を暫く見つめていた。

空が次第に赤く染まり夕焼け空に移り変わった頃には彼女の姿はもう

見えなくなっていた。それでも僕はその場所に立ち竦んでいた。


彼女の言葉が頭中で幾度も繰り返し旋回せんかいして離れずにいた。


それでも、僕は彼女と友達でいたいと思ったんだ。


彼女と永遠の親友でありたいと思ったんだ――――ーーー。




















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