気の毒なセミ
ぬけがら、かっこいいですよね。
何年も土に埋まって幼虫の時間を過ごすのに
成虫になって地上に出てからは
1ヶ月と命がもたないセミのことを
気の毒がるひとたちが多いみたいだ
何年もかけてやっとこさ 成虫になったのに
陽の光を浴びて飛べるようになったのに
甘い樹液ををすすり
声高らかに鳴けるようになったのに
そこからの命があまりに短命だと
気の毒がるひとたちが多いみたいだ
ぼくはといえばセミのこと
気の毒に思わなくはないけど
そんなひとたちとはちがう気の毒がりかたをする
暗くて静かで
冬はじんわりあったかく 夏はひんやり涼しい
しかも外敵の少ない土に埋まって
おだやかに何年も過ごしてきたのに
その一生の最期の1ヶ月足らずを
まぶしくてうるさくて
雨風に晒されるて
しかも外敵の多い地上にほおりだされて
声をあげられるなら鳴いてみせろと
翅があるなら飛んでみせろと
その1ヶ月に忙殺される余生を
ぼくはとても気の毒に思うんだ
地上も 陽の光も 空を飛ぶことも知らずに
あのまま土に埋まって朽ちてゆけたなら
どれほど幸せだったのだろう
どちらのおわりかたを望むのか
みずから選ぶことのできないセミたちのことを
ぼくはさらに気の毒に思うのだ
心の底から気の毒に思うのだ
夏でもあんまり、セミの声きかなくなったなぁ。