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第一話

「もう!!朝っぱらからうっとうしいったらありゃしない!」

そう叫ぶのは右手にはたき、左手に竹箒、そして白い割烹着と三角巾に身を包んだいでたちの女。桃子。

「今週はマショショカの番でしょ?それをまた、サボりやがって、早く起きろ!!」


ここは京都のど真ん中にある、通称ももんが路地。

路地に住む住人の義務として週交代での掃除が決まっているのだ。


マショショカの家の玄関ドアに2、3発蹴りを入れたが返事はなし。

家賃を8ヶ月滞納しているのを言われたくないのだろう。

再び蹴ろうとし、横に飾られているいかにも南国系の植木をひっくり返してしまった。

(・・・ホント、最悪!!)

彼女が怒りにまかせて掃除をしている間にこの袋路地を紹介しておこう。


左に3軒。右に3軒。

入り口には形ばかりの門があり木で出来た表札が掲げられている。

もっとも、墨で書かれているため、判読するには難しい状態であり、郵便配達泣かせなのだ。

手前2軒までは路地をおおう屋根があり、日差しの明るい日など路地の入り口に立つと、

手前の暗さと奥の明るさですぅっと吸い込まれるような不思議な感覚に襲われる。

地面は石畳。牛乳を受け取る箱がちんまりと置かれている。

右の奥が唯一の空き家で他の家は戦前前に定められたと思われる格安の家賃で暮らしているのだ。


まず左手前から出稼ぎのマショショカ。先ほど桃子を怒らせた者だ。

国には妻が4人、子供が16人。典型的な一夫多妻制。


左真ん中が駿河さん。桃子がひそかにキテレツ駿河と呼んでいる42歳の彼は独身。芸術家を夢見てはせっせと作品(ガラクタ?)を作り、隙を見ては向かいの自称クラブママの洗濯物を盗み見している。

芸術は爆発だ!の意味を取り違え、爆発は芸術を思っている危険な男。


左の奥がこの路地最高齢、おはつばあちゃん。

彼女の得意技は毛糸編み、牛乳パックを用いたペン立て作り。

猛烈な勢いで作品作りにいそしみ、同じ熱心さをもって近所に配り歩く。

おかげで桃子の部屋はおしゃれな京都の町屋ではなく、ペン立てと派手な毛糸で編んだ花瓶敷きで飾られた昭和初期という雰囲気に仕上がっていた。


右奥が空き家で桃子の悩みの種である。

小さいお化けが出るらしく(ちょうどスティックのりくらいの大きさ)なかなか借り手がつかない。


右真ん中が自称クラブママのメイ子48歳。

つぶれかけの小さいスナックを営んでいる。


最後に主人公の彼女。名前は桃子といい、花もほころぶ28歳。

右手前に居を構え、一人暮らしを満喫している。

他人から見れば一軒家に住むなんてうらやましい!と思われるだろうが彼女の場合は少し違う。この路地では昔ながらの近所付き合いが続いており、完全プライベートはありえないのだ。 

両親を早くに亡くし、唯一の財産として引き継いだこの路地の管理人をしている。

桃子の袋小路という理由だけで→袋のモモコ→フクロモモンガ→ももんが路地と呼ばれ、本来の地名はとうに忘れられてしまった。

もちろんこの時代、路地家賃だけでは食べていけず、ファーストフード店にバイトに行っている。特に将来を悲観しているわけでなく、今の暮らしにやや満足している、悩みは彼氏がいないだけというありふれた女だ。


桃子が地面のごみを吐き出し、例の右奥の空き部屋に恒例の塩をまいて効果のない呪文をとなえながらお祓いをしていると、後ろからカシャカシャとカメラのシャッター音が聞こえた。


桃子が振り返ると、一人の男が真剣な表情でカメラを構えている。

「何?勝手に写真撮らないでよ」桃子が男に注意した。


「ゴメンゴメン、けど・・・すげえなぁ。これは、使える。」

男は桃子にかまわず、路地の写真を取り続けた。

使える?桃子の耳に心地よく響くその言葉。

「・・・何?アンタ雑誌の記者なの?」桃子は恐る恐る聞いた。

それなら話は別だ。京都の路地に住みたいという物好きな人の目に留まれば長年の空き家が埋まる可能性がある。桃子の脳裏に家賃収入という言葉がよぎった。

この機会逃してなるものか。

「どうぞ、よかったらお茶でも」

桃子はいそいそと写真を撮り続ける男を促し、自宅前に据え付けられてるいすに案内した。


男は断りもせず、出された熱い番茶を一気に飲み干し、桃子の出した最中をほうばった。

「オレ、昨日から何も食ってなくてさ。何かない?」

「・・・お茶漬けなら」

「いただくよ、悪いね。」男は指についた最中の皮をなめとりながら言った。


「・・・ところでどこの雑誌なんですか?」桃子はとっておきの笑顔で聞いた。

「ああ、聞いてもわかんないよ。マニアが買う雑誌だからね。ザ、クラッシュって言うんだけど。」

クラッシュ?

なんだかわかんないけど英語だからおしゃれな雑誌なんだろう!


桃子は機嫌を良くし、ビクつきながら出てきたマショショカに笑顔で「行ってらっしゃい!」と言い、騒ぎを聞きつけて出てきたおはつばあさんに笑顔を振りまいた。









時間のあるときにぼちぼち書いていきますのでどうぞお付き合いくださいませ。

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