表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢賊 冒険は少女ハートと少年夢賊ヴォイスと共に  作者: 六福亭(鹿西こころ)
5/6

魔術師の追跡

 ベッドの外は、重力のある空だ。そのままだと、下へ下へ落ちてしまう。僕は急いで玄関マットを広げ、自分とハートの下に滑り込ませた。ようやく落下が止まり、マットは船のようにぽっかりと浮かんだ。

 見上げると、スプリングが魔術師と戦っていた。魔術師が手をかざすと、果敢に斬りかかっていたスプリングの体が動かなくなった。夜馬が大きく口を開けて、スプリングの顔にかじりつこうとした。

「ねえ、ヴォイス! このマット、移動することはできるの?」

「できるよ」

「よかった。合図で逃げて!」

 それから、ハートは魔術師に向かって叫んだ。

「ハートはここよ! 捕まえてごらんなさい!」

 夜馬がこっちを向いた。魔術師はスプリングを放って、僕らを見ているようだった。

「今よ!」

 僕はマットの縁をつかんで強く念じた。マットは滑るように空を裂いて、魔術師から遠ざかった。


 魔術師が追いかけてくる。マットに乗った僕らは飛んで逃げたけど、夜馬も飛んで迫る。

「怒ってるわ。なんとしてもわたしを捕まえようとしているわ……」

 その時、僕はふと不思議に思った。

「どうしてあいつは、君をそんなに狙っているんだろう?」

「そんなの……わたしに分かるはずがないじゃない!」

 ハートがいらいらして叫ぶ。

「あいつの心が読めるんじゃなかった?」

「気分は分かるわ。わたしへのしゅうねん深さも。でも、なんでなのかは分からないのよ!」

 ハートは今にも泣き出しそうだ。

 僕は前を見つめた。

「もうすぐ、世界の果てだ……」

「何それ?」

「夢の世界が終わる場所だよ。そこから飛び出したら、現実の世界に行ってしまう」

「行ったらどうなるの?」

「さあ、二度と戻ってこられないかもしれない。僕らは夢の世界でしか生きられないんだ」

「ほんとに? ほんとにそう?」

 背後の魔術師を気にしながら、ハートは激しく言った。

「現実も、夢も大して変わらないわ。体があって、心がある。生きるのにはそれだけで十分じゃない?」

 僕は思わず、ハートを見つめた。マットが減速したことにも、しばらく気がつかなかった。

「君がどこから来たのか、ちょっと分かった気がする。君は人間なんだ。たまたま、夢の中で迷っちゃったんだ。……いつか現実に戻らなきゃ」

「何ですって? わたしは……」 

 ハートは否定しようとして、ためらった。

「ううん、でも……わたし……」

「見つけたぞ、ハート」

 魔術師が追いついていた。ハートに向かって、黒い手を伸ばす。僕はハートの前に立った。

「どけ、小僧」

「いやだ」

 一本足の夜馬が威嚇した。不思議だね。慣れてしまったのか、今じゃちっとも怖くないんだ。

「お前も、わしのコレクションに加えてやろうか?」

 魔術師が僕のあごをぐいとつかんで、持ち上げた。その時、僕は初めて、魔術師の顔を間近で目にした。

 肉づきのない、がいこつそっくりのような顔だった。緑の目が、鬼火のように燃えていた。不揃いな歯がのぞく口からは、腐った肉の匂いがした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ