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夢賊 冒険は少女ハートと少年夢賊ヴォイスと共に  作者: 六福亭(鹿西こころ)
4/6

スプリングの説教

 僕とハートは飛び退いた。そこにいたのは、副船長スプリングだった。眠っていたところを無理に目覚めたのか、半分潰れた目で不機嫌そうに僕らを見下ろしている。ぼさぼさの髪をかいて、彼は僕に言った。

「宝物庫の鍵を勝手に持ってってはいけないって、何度言ったら分かるんだい? 泥棒の仕業だと思ったじゃないか」

「ごめん、スプリング。ハートに見せてあげたくってさ」

「その子はハートって言うのか。敵のスパイかもしれないと思わないのかい?」

「わたし、スパイなんかじゃないわ! 夢賊になりたい、一緒に戦いたいの!」

 ハートがいきり立つ。スプリングは取り合わず、僕から鍵を奪って宝物庫の扉を閉めた。

僕はスプリングに訴えた。

「ハートを仲間に入れたいんだ」

「それは、船長が決めることだね」

「許してくれると思う?」

「さあ、未来のことは誰にも分からないからね」

 僕は優しいスプリングが、あえてあいまいな言い方をしたのに気がついた。

「船長の長年の友としては、どう?」

「女の子を戦わせるなんて、絶対に許さないだろうね」

 ハートが肩を落とした。スプリングが優しく彼女の背中を叩く。

「まあ、君の元いた場所が分かるまでは、このベッドにいてもらうことになると思うよ。戦士になるかは別としてね」

 ハートの顔が輝いた。だけどその瞬間、彼女はぎくりとして辺りを見回した。

 目ざといスプリングがすぐに問いただす。

「どうしたんだい?」

「魔術師が……わたしたちを狙ってる! すぐ近くにいるわ」

「なんだって?」

 僕はとっさに短剣を抜いた。

「どこ?」

「馬鹿な……! ここは閉ざされた世界だ。夢の住人が新たに入ってこられるはずがない!」

「僕たちと同じタイミングで入ってきたのかな?」

「アルゴが周りをよくチェックしていた。誰もいなかったからこそ、ベッドを停泊させたんだ」

 そこでスプリングは、疑いの目でハートを見た。ハートの顔は真剣だ。手に胸を当てて、必死に魔術師の思惑を読み取ろうとしているようだった。


 ランプの火が消えた。ハートが何回もくしゃみをした。僕は思わず、身震いした。急に、冷え込んできたらしい。

 予備の懐中電灯をつけて、スプリングがうなる。

「たしかに……この感じは不穏だ……」

 寒くて暗いだけで、人は不安な気持ちになる。

 みんなを起こそうと、寝室を回った。だけど、船長を始めとする仲間たちは誰も、どれだけ揺すっても大声で呼んでも、目を覚まさなかった。

「これは魔術なの?」

 僕は恐怖に駆られてスプリングに聞いた。

「おそらく」

ハートが、僕とスプリングにしがみつく。

「魔術師が、わたしを探してる! ベッドの上よ。シーツをめくったりしてるのが分かるもの!」

「静かに」

 スプリングが、大人らしく冷静にハートをなだめた。「どうやら、今起きている我々だけでやり過ごさないといけないようだ」

「戦うの?」

「まさか。魔術師とは戦えない。__こっちが剣を使っているときに、象やら雷やらで攻撃してくるような奴らだ」

 その時、何とも言いようのない鳴き声が上から聞こえてきた。

 僕はスプリングにささやく。

「夜馬だ!」


 懐中電灯をつけて、足音を立てないように、僕らはそろりそろりと声のした方向から離れた。魔術師にもハートのような能力があって、僕らのいる場所が分かっているのかもしれない。それでも、自分から魔術師の前に飛び出していくことはできなかった。


 夜馬の荒い鼻息や、ドスンドスンと重い足音が上から相変わらず続いていた。スプリングは剣を構えて、音の聞こえる方向を睨みつけた。ハートも、僕の予備の短剣を借りて不器用に握っていた。

 

 次に聞こえたのは、感情のない低い声だった。

「ハート、どこにいる?」

 僕らは、とりわけハートはおののいてその場から動けなくなってしまった。

「ハート。私がお前を呼んでいるのだよ」

 その時僕は、あることを考えついた。魔術師が探しているのは、ハートだ。スプリングが、ベッドの危機を救うためにハートを差しだそうと思いついてしまったら……?

 ハートがいっそう強く、僕の腕を握りしめた。

『いや! わたしを見捨てないで、お願い』

 また、あの声だ。ハートの声だと、今度はすぐに分かった。僕はハートの手を握り返す。

 誰かが、もう片方の僕の腕をつかんだ。スプリングだ。指の腹で僕の肌を叩き、暗号を伝えようとしてる。

『僕が魔術師を引きつけるから、その間にハートを連れてベッドの外へ逃げるんだ』

 そして、スプリングは玄関マットを僕に渡した。

『でも、スプリングが危ないよ』

『大丈夫だ。ほら、早く!』

 迷っているヒマはないみたいだった。僕がハートの手を握ってベッドの外へ飛び降りるのと同時に、スプリングが懐中電灯を夜馬へと向けた。魔術師の、勝ち誇った声がした。



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