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夢賊 冒険は少女ハートと少年夢賊ヴォイスと共に  作者: 六福亭(鹿西こころ)
2/6

アルゴの警告

 『ねぐら』と呼ぶのは、これから目を覚ます人間の夢のこと。起きている間、夢の世界の時間は眠っている。その間は僕ら夢賊も、敵__他の夢賊や、いまいましい保安隊たちに脅かされることなく、休むことができるんだ。

 だけど、ねぐらで休むためには、その人が起きる前に夢の中に潜り込まなきゃいけない。舵取りのアルゴは、まだ目覚めていない__そのくせ、もうすぐで目覚ましのアラームが鳴りそうな人間を探すんだ。


 アルゴのそばにいった。見晴らしが良くて楽しいんだ。アルゴは望遠鏡でじっくりと宿をとる夢を見定めている。

「よう、ヴォイス」

 アルゴはぶっきらぼうにあいさつした。いつものことだから、誰も気にしない。アルゴが実はとても親切な人だってこと、みんなが分かっている。

「いいねぐら、見つかった?」

「まだだ」

「そっか」

 僕はアルゴよりはずっと気楽に、飛んでいるみみずくやかもめを眺めていた。手を振ると、返事してくれるふくろうがいる。ホーホー、ホホッホー。

 

 その時、アルゴがぎくりとして、望遠鏡を目から離した。それから、またのぞき込んだ。

「どうしたの?」

 アルゴは、前方を指差して叫んだ。

「保安隊だ!」


 毛布にくるまってだらけていた戦士たちがさっと立ち上がり、剣を構えた。

 船長が僕らの方へ駆けてくる。

「アルゴ、どのくらい近い?」

「まだ5km以上……でも、ものすごい速さでこっちに来る!」


 船長はアルゴに命じた。

「右に迂回だ」

「了解」

 だけど、全速力で曲がった先には、別の夢賊のベッドがいた。

 

 なんて運が悪いんだろう。保安隊は僕らに狙いを定めて飛んでくるし、夢賊も僕らに気がついてしまった。さっきまで戦っていた夢賊も、板を取り返そうと僕らを追っているのだ。

 勇猛果敢な戦士たちも、たじろいでいる。

「さすがに、夢賊と保安隊を同時に相手にするのは……」

 船長が怒鳴った。

「落ち着け。無駄な戦いをするつもりはない。まだ誰ともぶつかっていない方向へ全速力だ」

 船長が命令すると、みんなどこかほっとする。グロッソ船長は、いつも正しい判断を下すから。

 でも、僕はすごく不安になった。二度あることは、三度ある。ひょっとして、逃げた先にも、また別の敵がいるんじゃないかって……。

 船長が僕の方を向いた。厳しい顔だ。

「ヴォイス、お前はシーツの下に隠れていろ」

「なんで! 嫌だよ、僕も戦うよ!」

「戦う気はないと言っている。お前は体が軽いから、飛ばされんように隠れておけ」

 アルゴもうなずいた。どうやら、めちゃくちゃに飛ばすつもりらしい。僕は大人しく、シーツの中に潜り込んだ。顔だけは出しておく。風がビシバシ顔を叩き、ごうごうと耳に飛び込んでくる。

 しばらく経つけど、シーツの上で戦いが始まった気配はちっともない。ほっとして、ベッドの柵の隙間から身を乗り出した。少し、スピードも落ちたみたいだ。保安隊のベッドも見えないし、完全に逃げ切った!

 

 もう上に行っていいかな? 見上げると、白い雲を横切る何かが見えた。

「鳥……?」

 ううん、鳥より大きい! 僕はそれに気がついて、シーツを飛び出した。ベッドの上では、船長やスプリングを始めとする戦士が戦闘態勢をとっている。

「あの……」

 スプリングが真っ先に気づいて、小声で言った。

「中にいないと、吹き飛ばされちゃうぞ」

「分かってる! でも、上に誰かがいるよ」

 スプリングは真上を見上げ、あっと声を上げた。

「本当だ。あれは……何だ?」

「ベッドでも、布団でもないね。動物……? その上に、誰か乗ってるみたいだ」

 僕たちの戸惑いはみんなに広がり、空高く飛ぶ動物は夢賊たちの注目を浴びた。

 眩しそうに目を細めた船長が、考え込んだ末に言った。

「……あれは……夜馬かもしれん」

「それは何ですか?」

「脚が1本しかない、幻の獣だ。悪しき者に仕えるという」

「じゃあ……あれに乗ってるのは……」

 夜馬の背に乗る人物の姿は見えない。船長が舌打ちした。

「とことんついてないな。魔術師に出くわすとは」

 魔術師! 夢を通じて人間の心を支配しようとする邪悪な存在だ。僕はまだ会ったことがない。だけど、船長やスプリングは、昔魔術師と戦い、相当苦しめられたらしい。今でも、その時の話はタブーになっている。

「逃げましょう!」

 仲間たちが震え声で船長に訴える。魔術師と夜馬が、こちらに下りてくる様子はない。でも時間の問題かもしれない!

  

 その時__僕の頭の中で、声が響いた。

『助けて!』

 女の子の声だ。初めて聞く声で、すごく切羽詰まっている。

「誰?」

 僕は声に出して呼びかける。スプリングが振り向き、怪訝な顔をする。

 また、誰かが呼んだ。

『お願い、わたしを助けて……』

「君は、どこにいるの?」

『悪い人に捕まったの! 恐ろしい、脚がない馬に乗せられて……』

 僕ははっとした。まだ遙か頭上を飛んでいる夜馬。よく目をこらすと、確かに宙を駆る脚が一本だけ見えた。弱々しくばたつく、白い人間の足も。

「あそこだ!」

 僕は叫んだ。

「ヴォイス、どうした?」

 船長が、僕の肩を掴んで問いただす。

「父さん、夜馬に女の子が乗ってる! 魔術師がのせたんだ!」

「なに?」

 船長は夜馬を睨みつけた。

「お願い、助けてあげようよ!」


 船長が答える前に、戦士のアドバンスが、夜馬に向かって矢を放った。一瞬の後、血の気もよだついななきが上がり、夜馬が暴れ出した。

 矢が命中したんだ。もがく馬から小さな人影が放り出され、ベッドの上に落ちてきた。スプリングが毛布を広げる。軟らかい毛布の上に、女の子がどさりと着地した。

 

 その子は、気絶してしまっていた。スプリングが優しく毛布でくるみ、船長の元へ運んだ。


 可愛い子だった。黒くて長い髪を、耳の上で2つに結んでいる。着ているものは僕と同じ、パジャマだ。ただ、ずっとふかふかで女の子らしい色使いだけど。顔は青白い。よっぽど怖い目にあったのかな。

「中で寝かせてやれ」

 船長はそう言った。アドバンスがもじもじしている。

「勝手に撃ったな」

「は、はい……体がいつの間にか動いたんで……」

「下手な言い訳だな。しない方がましだ」

 船長は少し優しい顔をして、アドバンスの肩に手を置いた。

「だが、弓矢の腕を上げたな。これからも期待しているぞ」

 僕はこそこそとアドバンスに近づいた。お礼を言いたかったから。

「アドバンス、ありがと」

「おうよ」

 船長が、顔をしかめて僕を見下ろした。

「ヴォイス__魔術師に喧嘩を売る時は、前もって相談してほしいものだ」

「ごめんなさい……」

「それに、何故夜馬の背中にあの子がいると分かった?」

「声がしたんです」

 さっきのことを思い出す。頭の中に直接、話しかけられたみたいだった。初めての体験だ。あの女の子は、テレパシーを使えるのかもしれない。

「……そうか」

 船長はそれ以上何も言わなかった。それが、余計に不気味に思えた。



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